日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:田阪 美樹(島根大学)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻)

[SCG54-P04] 富士山宝永噴火の斑レイ岩捕獲岩に見られるカタクレ―サイト状組織

*石橋 秀巳1針金 由美子2安田 敦3外西 奈津美3 (1.静岡大学理学部地球科学専攻、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター、3.東京大学地震研究所)

キーワード:斑レイ岩、カタクレ―サイト状組織、捕獲岩、富士火山

富士山で最新の噴火である1707年宝永噴火の噴出物中には,粒間メルトを含む斑レイ岩が捕獲岩としてしばしば含まれている.このような斑レイ岩捕獲岩は,マグマだまり内部でおこる諸現象の直接的情報源として重要である.今回,この斑レイ岩捕獲岩を300試料あまり観察した中で,カタクレ―サイト状組織を示すものを複数発見した.斑レイ岩のカタクレ―サイトがマグマに捕獲されるということは,富士山の地下でマグマ供給系と断層が互いに切り合っている可能性を示唆する.そこで本研究では,このカタクレ―サイト状組織の特徴について観察・記載するとともに,構成鉱物の化学組成を分析も行い,この組織の形成過程について検討した.

 本研究で確認したカタクレーサイト状組織は,主に破砕岩片と細粒基質部から構成され,破砕岩片ないしは未破砕部と細粒基質部の割合にはバリエーションが見られた.一部の斑レイ岩試料に破砕流動に伴う面構造が発達していた.構成鉱物組み合わせは,斜長石+オリビン+輝石+磁鉄鉱+イルメナイトで,粒間にガラスがしばしば確認できる.この組み合わせは,未変形の斑レイ岩捕獲岩試料と同一である.未変形の斜長石には波動消光はほとんど確認できないが,細粒部の斜長石には波動消光が確認できる.未破砕部には割れ目が発達しており,これにしばしばメルトが浸透している.また,オリビンとこのメルトの間には輝石の反応縁が発達している.

 未破砕部の割れ目に浸透したメルトの化学組成はSiO2~75wt.%の流紋岩質であり,宝永噴火で噴出したメルト組成とは異なる.このことから,このメルトは捕獲岩の母岩メルト由来ではない.また鉱物組み合わせから,変形に伴う溶融起源とも考えにくい.一方で,カタクレ―サイト状組織を持たない斑レイ岩捕獲岩中の斜長石に含まれるメルト包有物には,同等の化学組成のものが確認できることから,破砕組織形成時に近傍に存在していたメルトが浸透したものと考えられる.元素拡散の比較的速いFeTi酸化物の化学組成から見積もった温度と斜長石-メルト共存関係から制約したメルト含水量条件はそれぞれ~800 ℃と~8 wt.%であり,これはカタクレ―サイト状組織を持たない斑レイ岩捕獲岩について見積もられた条件と同等であった.このメルト含水量から見積もられるH2O飽和圧力は~290 MPaで,これは深さ約11 ㎞に相当する.この結果から,このカタクレーサイト状組織は,深さ11 ㎞以深のメルト共存下でおこったせん断変形によって形成したと考えられる.

 このカタクレ―サイト状組織を形成した原因の候補として,富士山南西麓に存在する断層が考えられる.2011年3月15日に発生した静岡東部地震の余震域は,宝永火口直下の深さ5-15㎞の領域を端点として南西方向へと広がることから,この断層はその北東端においてマグマ供給系と交差していた可能性がある.しかしこの場合,岩石の温度が~800 ℃と高温であることから,カタクレ―サイトの形成に必要な大きい歪速度が実現できるか疑問が残る.他の可能性として,マグマの供給・噴火やクリスタルマッシュの圧密に伴うマグマだまりの変形が考えられる.この際に歪が集中して小断層が形成され,その運動に伴ってカタクレ―サイト状組織が局所的に形成した可能性がある.