日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 地殻流体と地殻変動

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

[SCG55-P01] 神奈川県大井観測井における地震に伴う地下水位の応答に対するスラグテストモデルの応用

*Li Yang1鵜川 元雄1板寺 一洋2原田 昌武2 (1.日本大学、2.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:透水係数、地震、スラッグテスト

地震に伴う地下水位の上昇がしばしば報告されている。これまでの報告では地震による水位上昇量は数cmから数mで、その上昇に要する時間は数分間から数週間にも及ぶこともある。この幅広い水位上昇に対しては帯水層の圧密効果による間隙圧の上昇、透水性の変化による流量の増加、地震による静的なひずみ場の変化などのメカニズムが提案されている。しかし、観測された多様な水位上昇がこれらのメカニズムで説明できるかどうかはまだ未解明な点が多い。本研究では地震時に大井観測井で観測された時定数が数分間の水位上昇に注目し、スラグテストモデルを適用することにより、大井観測井周辺の帯水層の間隙圧が地震動に伴い急激に上昇したことを明らかにする。

 大井観測井は神奈川県温泉地学研究所が神奈川県西部に設置した地下水位観測網に含まれる深度300 mの井戸である。井戸のスクリーン深度は270~300 mで、主要な帯水層は足柄層群の第四紀凝灰角礫岩である。井戸設置時に現場透水試験で得られた透水係数は5.5×10-6 m/sであり、貯留係数は3×10-8である。観測井内の水位は圧力水位計で1 Hzサンプリングのデジタルデータとして記録されている。大井観測井は大きい地震に伴って水位が上昇するという特徴がある。

これまでの私たちの研究で2011年から2016年の期間に大井観測井で地震に伴う水位上昇が5 cm以上の11イベントを抽出した。抽出されたイベントの地震の規模はMw 4.9~ 7.8、井戸までの震央距離は約30 kmから約5000 kmに及ぶ。観測された水位データから健さんされた水位上昇の時定数は100~400 sの範囲内である。

 スラグテストは井戸と帯水層の透水性を測定する現場透水試験の一つである。このテストは井戸に急激水位を上昇させ、井戸内の水位が周りの帯水層の間隙圧と平衡状態になるまでの時系列から、井戸-帯水層システムの透水係数を計算する方法である。私たちは地震後の帯水層内で間隙水圧の急激な上昇が起こると考え、地震による大井観測井の水位上昇過程に、スラグテストで用いられる理論モデルを適用した。なお大井観測井では地震後に水位が上昇するので、井戸内の水位を低下させるベイラーテストに対応している。

 モデルを適用した結果では、大井観測井の水位上昇は水平等方的な流れの場合のスラグテストモデルの理論解で説明できることが分かった。また、理論曲線と観測された水位の時系列を比べると、透水係数は井戸の設置時に測定された値とその3倍の範囲に収まっている。この結果は大井観測井における水位上昇は地震動によって井戸が貫いている帯水層の間隙水圧の急激に上昇したことを強く示唆している。 

 本研究ではスラグテストモデルを用いて、時定数が数分間の地震に伴う水位上昇は帯水層内の間隙圧の急上昇が原因であり、水位上昇の時定数は井戸-帯水層の間のシステムの時定数であることを明らかにした。また、間隙圧が上昇する具体的なメカニズムの解明は今後の課題として残っている。