日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 海洋底地球科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG56-P04] 「みらい」MR16-09航海による海上重力測定:特にチリ三重点周辺の重力異常の特徴

*松本 剛1石原 隆仙1 (1.琉球大学理学部)

キーワード:チリ三重点、重力異常、「みらい」

「みらい」MR16-09航海は,2016年12月~2017年3月の間,フィジー・チリ・ニュージーランド・むつを寄港地として,主に南太平洋を東西に,西太平洋を南北に横断するコースで実施され,広範囲且つ長測線の海洋地球物理観測プロファイルを得ることが出来た。また,チリ西海岸のタイタオ半島沖の南緯46度13分・西経75度48分に位置し,ナスカプレートと南極プレートを産み出す拡大境界であるチリ海嶺がチリ海溝で南アメリカプレートの下に沈み込んでいるチリ三重点(CTJ)付近で,拡大軸セグメント上でのプロファイルを得ることができた。

 観測に使用した船上重力計は,相対測定方式のラコストS-116である。通常は出発地・寄港地・到着地で至近の重力点(重力の絶対値がわかっている地点)と岸壁での陸上用重力計を用いた測定(重力結合=gravity tie)を行うことによって,調査航海中に測定された重力の絶対値を求めている。しかし今回は,前行動の出発地である清水,途中寄港地であるプンタアレナス,帰港地である関根浜でのみ重力結合が行われたため,重力計のドリフト補正後の正確な値を求めることが難しい。そこで,衛星データ等による最新の全球重力1分グリッドデータ(Sandwell et al., 2014, Sandwell et al., 2013, Sandwell et al., 2009)を用い,測線上の重力測定点での値の更正を行った。

 グリッドデータのx, y方向の格子間隔をそれぞれdx, dyとする。x座標x1, x2(x1 < x2),y座標y1, y2(y1 > y2)で囲まれる領域(長方形で近似)の四隅の点での重力値をg11, g21, g12, g22とすると,この領域内の点(x,y)での線型内挿値gは,

g1=g11*(x2-x)*(y1-y)

g2=g21*(x-x1)*(y1-y)

g3=g12*(x2-x)*(y-y2)

g4=g22*(x-x1)*(y-y2)

として,

g=(g1+g2+g3+g4)/(dx*dy)

によって得られる。

 この内挿によって得られた重力値と測定値との差をもとに,各レグでのドリフト・レートを求めたところ,

Leg1:0.216mgal/day

Leg2:0.520mgal/day

Leg3:-0.599mgal/day

Leg4:0.562mgal/day

であり,これらの値を用いた測定値の補正を行って,最終的なフリーエア異常値を求めた。

 Leg2では主としてチリ西海岸近海の調査が行われた。このうち,チリ三重点を含むチリ海嶺のセグメントSCR1に沿った3測線では,既に地磁気異常プロファイルから海底の年代を求め,拡大速度が海嶺軸に近付くほど減少する傾向が得られており(松本・他,JpGU2018発表),海嶺軸が海溝に近付くにつれてマグマ供給量の減少と火山活動の衰退が示唆され,海溝付近での熱の損失により火成活動が停止した海嶺下のリソスフェアが冷却によって急激に厚くなり,周辺のリソスフェアと同化してともに抵抗なく「スラブ・プル」の力によって南アメリカプレートの下に沈み込んでいると解釈されている(松本・他,JpGU2018発表)。同じプロファイルのフリーエア異常・海底地形から二次元計算(海溝・海嶺軸方向に同一の地形・地下構造が連続していると仮定)によりブーゲー異常を求めたところ,3測線とも,海溝軸とその西側の地形の起伏に関係なく,ブーゲー異常が海嶺・海溝軸に近付くにつれて相対的に一様に減少している結果が得られた。このパターンは,通常の海溝や中央海嶺の場合と類似しているが,海溝或いは海嶺に近付くにつれての減少率は,西太平洋の海溝の場合が概ね1.5~2mgal/km,大洋中央海嶺が<0.1mgal/kmであるのに対して,本測定ではその中間の0.4~0.8mgal/kmを示している。このことは,中央海嶺での火成活動の消失と海溝での沈み込みの双方の特徴を反映していると見られるが,これについては,更なる検証が必要である。

 その他,Leg1ではトンガ・ケルマデック島弧・海溝系,南部東太平洋海膨を横切る測線が,Leg3ではベリングスハウゼン海,アムンゼン海を通過し,更にエルターニン・ウジンツェフ断裂帯を横切る測線が,Leg4では南フィジー海盆,ソロモン島弧・海溝系,西カロリン海台を横切る測線が,それぞれ得られた。それぞれの結果をポスターにて紹介する。