日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 海洋底地球科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG56-P19] プレート沈み込み帯における水深測量データのみを用いた臨界尖形理論の検討

*高下 裕章1芦 寿一郎1朴 進午1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:沈み込み帯、臨界尖形理論、日本海溝、南海トラフ

沈み込み帯や造山帯のように側方からの圧縮により衝上断層が卓越し、短縮変形を受けた地質体を総称してFold-and-thrust beltと呼ぶ。Critical taper modelはfold-and-thrust beltの地形パラメータから断層の摩擦係数を知るために広く用いられてきた。沈み込み帯に対してこのCritical taper modelを適用した場合、単純な地形パラメータを用いてプレート境界断層における摩擦係数の推定が可能である。そのため、Critical taper modelは地震に関連する議論においても広く用いられてきた。
ただし、Critical taper modelでは、計算に用いる地形データを取得する際、以下のような2つの問題点が指摘できる。1)反射法地震探査断面のデータが必要であるため、観測記録のある断面以外に Critical taper modelの適用ができない。2)反射法地震探査データを用いた深度断面処理において、プレート境界断層の深度が速度モデルに大きく依存し、プレート境界断層の傾斜角βの値に影響を与える。そのため正確な比較という点に関して信頼性が低い。
そこで本研究は上述の問題点を改善するため、Critical taper modelに用いるパラメータを反射法地震探査断面ではなく、水深測量データからのみ得る新たな手法の開発を行った。反射法地震探査断面から得られるプレート境界断層の傾斜角βの代わりに、プレートが沈み込む前の海溝海側斜面の傾斜角β(bathymetry)を使用し、その計算結果から手法の妥当性の検証を行った。本研究では、南海トラフを対象領域として手法の妥当性の検証を行った。南海トラフでは海溝型巨大地震の基礎研究の重要性から反射法地震探査断面が多く取得されており、従来の Critical taper modelと本研究で新たに行う手法との比較が行い易いこと、地震波やGPSなど、様々な研究手法による観測が進んでいることから、その比較対象とするべき先行研究が豊富である。そのため、Critical taper modelでのデータ取得と、結果の解釈がほかの沈み込み帯より容易であることが期待される。
本手法の妥当性の検証結果から、海底下の沈み込み帯にCritical taper modelを適用する場合、理論的に見過ごされてきた特徴があることが明らかになった。その性質とは、高い間隙水圧比がウェッジ全体で仮定される場合、有効摩擦係数の算出に際しβが結果に与える影響が非常に小さくなることである。そのため、水深測量データにおける海溝陸側斜面の傾斜αのみを用いて浅部プレート境界断層の摩擦分布を議論することが十分可能であることが示唆された。ただしその際、有効摩擦係数の算出誤差が20パーセント程度生じる点は注意が必要である。水深測量データは空間的に密に取得されたデータであるため、これにより海溝軸に沿った高密度な浅部プレート境界断層の摩擦分布を初めて算出することが可能となった。
予察的な解釈として、本手法は地震活動によるセグメントが十分に検討されていない領域において、地震・津波防災に関して資する新たな手法だと考えられる。