[SCG56-P29] 海底基盤岩研究に於けるハイテク・ドレッジの有用性と課題。 --海底岩石のリアルタイムモニタリングドレッジを目指して--
キーワード:海底基盤岩、ハイテク・ドレッジ、RI-TI型ドレッジ、ドレッジ トランスポンダー、ドレッジ深海ビデオ、水中音響画像伝送装置
海底地質研究には,海底地殻の構成物質を手にとり,物質科学的解析を行うことは欠かせない研究手段である.典型的な海洋地殻は,成層構造をしている,つまり,表層から順に軟堆積物,堆積岩,基盤岩である火山岩・深成岩を経て,モホ(モホロビッチ不連続面)を境としてマントルカンラン岩に至る.研究目的目標により,海底試料採取方法はさまざまに工夫された装置が開発されてきている.例えば,表層附近の堆積物採取を目的とした装置には,ピストンコア等の各種柱状採泥器がある.海洋域の地球深部物質の採取方としては,地球深部探査船「ちきゅう」により,マントルまで連続コアリングするのが理想であろうが,簡便性に欠けるうえ,成就するまでには,今から5-10年程度の歳月を要するであろう.それまで,手をこまねいて待っている訳にはいかない.
海洋底基盤岩の物質科学的研究に於いては,その成否が良質な海底地質試料採取の可否にかかっていると言っても過言ではない.海底基盤岩の採取には比較的簡便で安価な,しかもローテク(ローテクノロジー=low technology)の典型ともいえるドレッジ(dredge)が広く使用されてきた.筆者は内外の研究調査船において,40年間にわたりドレッジ観測の実体験をしてきた.国内では数次にわたる淡青丸,白鳳丸,「よこすか」,「かいれい」航海,海外においては米国のアトランティスII,メルビル(2回),モアナウエーブ,トーマス・トンプソン航海等である.これらの体験を通じて得た知識を基に,上記航海毎にドレッジシステムの改良に連なる事例を積み重ねて,ORI-TI型ドレッジ装置(Ocean Research Institute-Teruaki Ishii Type Dredge System)を提案するに至った.ここでは,ドレッジシステム改良の経緯,米国船での体験を中心に話題提供を行う.
米国ではドレッジは昔ながらの流儀,つまりローテクを保っていてあまり技術的な進歩が見られない様に見うけられる,つまり米国では有人潜水艇や,無人の有索ロボットを使用しての研究に力が注がれているためか,ドレッジ観測法に関しては停滞している様に見受けられる.更にドレッジ手法そのものも研究者側,船側双方で伝承が上手く行われていない様にも見受けられる.
一方,日本では年毎に技術的進化・変革が見られる.特に最近では中堅から若手研究者を中心に,ドレッジシステムへのトランスポンダー技術の応用(町田他,2011)や,ドレッジ本体への深海カメラの組み込み(坂本他,2017)等,斬新なハイテク(ハイテクノロジー=high technology)化への急速な動きが見られる.更に、2018年から「しんかい6500」のTVカメラで撮影された映像は、新たに開発された、新水中画像伝送装置(Kida et al, 2018)により、2秒毎の更新画像送信が可能となった(櫻井利明,2018参照)。近い将来比較的廉価な新水中画像伝送装置が開発されれば、ドレッジ用深海ビデオカメラ画像送信にも、応用可能となるであろう。ケーブル無しで海底を観察しながら岩石を採取できるドレッジも可能になりつつある様に思われる。海底地震計、ピストンコア、採水器、係留装置等々応用範囲は限りがないように思われる.
引用文献
Kida, Yukihiro, Mitsuyasu Deguchi, and Takuya Shimura.(2018): Experimental result for a high-rate underwater acoustic communication in deep sea for a manned submersible SHINKAI 6500, J. Marine Acoust. Soc. Jpn., 45 (4),197-207.
石井輝秋(2017):ドレッジシステムのローテクからハイテクへの変革---海底物質科学研究の飛躍を目指して---,深田地質研究所年報,18,29-48.
坂本 泉・飯島さつき・門馬大和・谷 健一郎 (2017):カメラ付きドレッジ「さつき」シス テム①その開発と機能紹介,ブルーアース 2017,講演要旨BE17-12.
町田嗣樹・松浦由孝・阿部なつ江・石井輝秋 (2011):トランスポンダーを用いたドレッジのリアルタイムモニタリングにもとづく海洋底岩石採取, JAMSTEC Rep. Res. Dev, 13, 89-105.
海洋底基盤岩の物質科学的研究に於いては,その成否が良質な海底地質試料採取の可否にかかっていると言っても過言ではない.海底基盤岩の採取には比較的簡便で安価な,しかもローテク(ローテクノロジー=low technology)の典型ともいえるドレッジ(dredge)が広く使用されてきた.筆者は内外の研究調査船において,40年間にわたりドレッジ観測の実体験をしてきた.国内では数次にわたる淡青丸,白鳳丸,「よこすか」,「かいれい」航海,海外においては米国のアトランティスII,メルビル(2回),モアナウエーブ,トーマス・トンプソン航海等である.これらの体験を通じて得た知識を基に,上記航海毎にドレッジシステムの改良に連なる事例を積み重ねて,ORI-TI型ドレッジ装置(Ocean Research Institute-Teruaki Ishii Type Dredge System)を提案するに至った.ここでは,ドレッジシステム改良の経緯,米国船での体験を中心に話題提供を行う.
米国ではドレッジは昔ながらの流儀,つまりローテクを保っていてあまり技術的な進歩が見られない様に見うけられる,つまり米国では有人潜水艇や,無人の有索ロボットを使用しての研究に力が注がれているためか,ドレッジ観測法に関しては停滞している様に見受けられる.更にドレッジ手法そのものも研究者側,船側双方で伝承が上手く行われていない様にも見受けられる.
一方,日本では年毎に技術的進化・変革が見られる.特に最近では中堅から若手研究者を中心に,ドレッジシステムへのトランスポンダー技術の応用(町田他,2011)や,ドレッジ本体への深海カメラの組み込み(坂本他,2017)等,斬新なハイテク(ハイテクノロジー=high technology)化への急速な動きが見られる.更に、2018年から「しんかい6500」のTVカメラで撮影された映像は、新たに開発された、新水中画像伝送装置(Kida et al, 2018)により、2秒毎の更新画像送信が可能となった(櫻井利明,2018参照)。近い将来比較的廉価な新水中画像伝送装置が開発されれば、ドレッジ用深海ビデオカメラ画像送信にも、応用可能となるであろう。ケーブル無しで海底を観察しながら岩石を採取できるドレッジも可能になりつつある様に思われる。海底地震計、ピストンコア、採水器、係留装置等々応用範囲は限りがないように思われる.
引用文献
Kida, Yukihiro, Mitsuyasu Deguchi, and Takuya Shimura.(2018): Experimental result for a high-rate underwater acoustic communication in deep sea for a manned submersible SHINKAI 6500, J. Marine Acoust. Soc. Jpn., 45 (4),197-207.
石井輝秋(2017):ドレッジシステムのローテクからハイテクへの変革---海底物質科学研究の飛躍を目指して---,深田地質研究所年報,18,29-48.
坂本 泉・飯島さつき・門馬大和・谷 健一郎 (2017):カメラ付きドレッジ「さつき」シス テム①その開発と機能紹介,ブルーアース 2017,講演要旨BE17-12.
町田嗣樹・松浦由孝・阿部なつ江・石井輝秋 (2011):トランスポンダーを用いたドレッジのリアルタイムモニタリングにもとづく海洋底岩石採取, JAMSTEC Rep. Res. Dev, 13, 89-105.