[SCG61-P20] 東北日本弧北部における白亜紀花崗岩類の低温領域熱年代学:島弧平行方向の熱史/削剥史の復元を目指して
キーワード:熱年代学、東北日本弧、フィッション・トラック法、(U-Th)/He法、島弧
東北日本弧は弧―海溝系に分類され,火山活動や地震活動などが活発に起こる変動帯である.その構造発達史に関しては,地形・地質学的研究から多角的に議論され,比較的よく研究された島弧であるといえる.また,近年,分野複合的研究プロジェクトによって,GPSや活断層,数値モデリングから室内摩擦実験に至るまで,多様な観点・手法から研究が進められ,多くの知見が蓄積しつつある(Iio et al. 2018, EPS).我々の研究グループでは,熱年代学的手法を用いて長期的なタイムスケール(>106年)における鉛直方向の非弾性変形の推定を目的とし,低温領域の熱年代学的手法を用いて島弧単位での熱史/削剥史の解明に貢献してきた.
熱年代学的手法は,放射年代測定によって得られる年代値と,その手法と対象鉱物との組み合わせに固有の閉鎖温度を利用して,試料の温度時間履歴(熱史)を推定する手法である.山地形成のような地殻表層の現象を捉えるためには,閉鎖温度の低い手法が有効であり,ヨーロッパアルプス(Wagner et al. 1977, Mem. Inst. Geol. Mineral., Univ. Padova)やヒマラヤ (Blythe et al. 2007, Tectonics) などの世界の大規模な変動帯で成功を収めてきた.ただし,熱年代学的手法から直ちに推定されるのは試料の冷却過程であり,削剥史や隆起史を復元するためには,地温勾配や隆起と削剥の動的平衡など様々な仮定が必要であることに留意したい.このようにして求められた100万年スケールの隆起速度は,地殻内部に蓄積する鉛直方向の非弾性変形(永久変形)に相当すると考えられる(池田ほか 2012 地質学雑誌).
筆者らの研究グループは2014年から2019年現在までに東北日本弧全域において,およそ100点の花崗岩試料を採取し,そのうち数十点において低温領域の熱年代学的手法を適用してきた.主要な成果として,東北日本弧南部に分布する白亜紀―古第三紀の花崗岩類に対して,島弧横断方向にアパタイトおよびジルコン(U-Th)/He(それぞれ,AHe, ZHe)法(Sueoka et al. 2017, EPS)およびアパタイトフィッション・トラック(AFT)法(Fukuda et al. 2019, JAES:X)を適用し,阿武隈山地―奥羽脊梁山地―朝日・飯豊山地のそれぞれには熱史/削剥史のコントラストが存在することを明らかにしてきた.本講演では,島弧横断方向さらに平行方向の熱史/削剥史の推定を目的に,東北日本弧北部の山地である北上山地―奥羽脊梁山地―太平山地で採取した白亜紀花崗岩類の岩石試料に対し,AHe/ZHe法(Fukuda et al. in prep., EPS)およびAFT法を適用した結果について報告する.
AHe年代は 88.6~0.9 Ma, AFT年代は 138.0~2.0 Ma, ZHe年代83.9~7.4 Maが得られ,島弧単元ごとに見ると,南部での熱年代学的研究結果と同様の前弧側―奥羽脊梁山地―背弧側のコントラストが推定された.このことから,基本的に島弧平行方向の熱史は南北で似た傾向を示すことが推定される.ただし,南北での相違点も検出された.例えば,①阿武隈山地よりも北上山地は非常に古い年代を示す(例えばAFT年代では,阿武隈:80~40 Ma,北上:130~75 Ma)こと,②太平山地近傍で非常に新しいAFT年代(2 Ma)が見出されたこと,③AHe/ZHe年代計に対して,閉鎖温度の関係に矛盾したAFT熱年代値の逆転(例えばFST04,FST05)などである.関連する構造発達史や隆起史などのモデルとも絡めつつ,引き続き研究を継続する.
今後の課題として,見かけの熱年代値より高精度に熱史を復元可能なAFT法による熱史逆解析の適用が挙げられる.また,より空間解像度の高い熱史の推定を目指すために,サンプリング地点を増やし,適用地域の拡大を試みる予定である.
熱年代学的手法は,放射年代測定によって得られる年代値と,その手法と対象鉱物との組み合わせに固有の閉鎖温度を利用して,試料の温度時間履歴(熱史)を推定する手法である.山地形成のような地殻表層の現象を捉えるためには,閉鎖温度の低い手法が有効であり,ヨーロッパアルプス(Wagner et al. 1977, Mem. Inst. Geol. Mineral., Univ. Padova)やヒマラヤ (Blythe et al. 2007, Tectonics) などの世界の大規模な変動帯で成功を収めてきた.ただし,熱年代学的手法から直ちに推定されるのは試料の冷却過程であり,削剥史や隆起史を復元するためには,地温勾配や隆起と削剥の動的平衡など様々な仮定が必要であることに留意したい.このようにして求められた100万年スケールの隆起速度は,地殻内部に蓄積する鉛直方向の非弾性変形(永久変形)に相当すると考えられる(池田ほか 2012 地質学雑誌).
筆者らの研究グループは2014年から2019年現在までに東北日本弧全域において,およそ100点の花崗岩試料を採取し,そのうち数十点において低温領域の熱年代学的手法を適用してきた.主要な成果として,東北日本弧南部に分布する白亜紀―古第三紀の花崗岩類に対して,島弧横断方向にアパタイトおよびジルコン(U-Th)/He(それぞれ,AHe, ZHe)法(Sueoka et al. 2017, EPS)およびアパタイトフィッション・トラック(AFT)法(Fukuda et al. 2019, JAES:X)を適用し,阿武隈山地―奥羽脊梁山地―朝日・飯豊山地のそれぞれには熱史/削剥史のコントラストが存在することを明らかにしてきた.本講演では,島弧横断方向さらに平行方向の熱史/削剥史の推定を目的に,東北日本弧北部の山地である北上山地―奥羽脊梁山地―太平山地で採取した白亜紀花崗岩類の岩石試料に対し,AHe/ZHe法(Fukuda et al. in prep., EPS)およびAFT法を適用した結果について報告する.
AHe年代は 88.6~0.9 Ma, AFT年代は 138.0~2.0 Ma, ZHe年代83.9~7.4 Maが得られ,島弧単元ごとに見ると,南部での熱年代学的研究結果と同様の前弧側―奥羽脊梁山地―背弧側のコントラストが推定された.このことから,基本的に島弧平行方向の熱史は南北で似た傾向を示すことが推定される.ただし,南北での相違点も検出された.例えば,①阿武隈山地よりも北上山地は非常に古い年代を示す(例えばAFT年代では,阿武隈:80~40 Ma,北上:130~75 Ma)こと,②太平山地近傍で非常に新しいAFT年代(2 Ma)が見出されたこと,③AHe/ZHe年代計に対して,閉鎖温度の関係に矛盾したAFT熱年代値の逆転(例えばFST04,FST05)などである.関連する構造発達史や隆起史などのモデルとも絡めつつ,引き続き研究を継続する.
今後の課題として,見かけの熱年代値より高精度に熱史を復元可能なAFT法による熱史逆解析の適用が挙げられる.また,より空間解像度の高い熱史の推定を目指すために,サンプリング地点を増やし,適用地域の拡大を試みる予定である.