日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM19] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:相澤 広記(九州大学大学院理学研究院附属・地震火山観測研究センター)、松野 哲男(神戸大学海洋底探査センター)

[SEM19-P06] 栗駒火山北側山腹におけるAMT観測

*小林 拓也1坂中 伸也1筒井 智樹1ビン・ザイヌディン ムハンマッド・ファイズル・ニザム1井上 雄介1加藤 健太1森脇 知哉1多田 悠也1竹井 瑠一1 (1.秋田大学)

キーワード:比抵抗構造、AMT、栗駒火山、水蒸気噴火、熱水系

栗駒火山は,秋田・岩手・宮城の県境に位置する,標高1,627mの活火山である.栗駒火山の噴火様式はマグマ噴火と水蒸気噴火である.有史以降では,1744年と1944年に水蒸気噴火の記録があり,両噴火地点には昭和湖と呼ばれる火口湖が形成されている.現在も噴気活動が活発な活火山である.栗駒火山における地球物理学的研究の背景として,2008年岩手・宮城内陸地震に伴った構造探査の研究報告があり,その中で広帯域MT観測が実施されている(例えば,Mishina 2009;Ichihara et al., 2014).しかし,対象が深部構造であるため,火山噴火を対象とした地下数kmの地下構造はいまだに明らかになっていない.本研究では,AMT観測により得られる栗駒火山直下の浅部比抵抗構造から,火山噴火発生のカギとなる構造を見出すことを目的とする.
 AMT観測は2018年8月から11月にかけて実施した.噴気活動が盛んである昭和湖と地獄谷噴気を横断する南北方向と,硫黄山・湯気山を横断する東西方向に測線を展開し,合計13点で観測を実施した.測定機材は,Phoenix Geophysics Ltd.(カナダ)製のMTU-5Aを用いた.それぞれの観測点で電場2成分,磁場3成分を測定した.測定時間は3時間から長くて1晩かけて測定した.
 本研究では,構造の次元性と比抵抗分布の特徴を評価するために,フェイズテンソル (Caldwell et al., 2004) とインダクションベクトル (Parkinson, 1962) の概念を用いた.フェイズテンソルの結果から,10 Hzより高周波数の範囲において,スキュー角は5°未満で,楕円率は0.2未満であった.したがって,地表下1 km前後の構造は均質構造であることが示唆される.また,周波数が10 Hzより低周波数の領域において,インダクションベクトルの方向が剣岳の方向を向く傾向がある.地形効果を考慮する必要はあるが,マグマ噴火が発生している剣岳直下の地下1 km以深において低比抵抗領域が分布している可能性が考えられる.
 構造解析には,Ogawa and Uchida (1996) による2次元インバージョンコードを使用した.最終モデルには大きく分けて3つの特徴がある.1つ目は,地表付近には低比抵抗領域(C1)が分布していることである.C1は噴気地帯及び温泉帯に向かって,その比抵抗が低くなる傾向がある.2つ目は,高温噴気地帯(地獄谷噴気・硫黄山噴気・湯気山噴気)直下の低比抵抗領域(C1)の下層に高比抵抗(R1)が分布していることである.高温噴気が地上に現れていることから,高比抵抗領域(R1)は高温体あるいは蒸気卓越領域であることが示唆される.3つ目が東西断面の東部において,比抵抗値はR1ほど高くはないものの,高比抵抗領域(R2)が存在することである.R2の直上において,噴気活動は確認されないが,過去の水蒸気噴火火口の痕跡が分布している.このことから,R2は過去の水蒸気噴火の火山活動の痕跡で,R1とR2の比抵抗のコントラストの違いは火山活動度によるものである可能性が考えられる.