[SSS10-P04] 豊後水道における深部低周波地震と潮汐との相関と長期的スロースリップとの関係(その2)
キーワード:地球潮汐、p値、深部低周波地震、長期的スロースリップイベント、豊後水道
豊後水道では,長期的スロースリップイベント(LSSE)が数年間隔で繰り返し[例えば,Kobayashi, 2017, EPS],それに同期して深部低周波微動・地震(LFE)が活発化している[Hirose et al., 2010, Science].微動活動は高い潮汐相関を示すことが指摘されている[Ide, 2010, Nature; Ide & Tanaka, 2014, GRL]が,LFEの潮汐相関の長期的な時間変化に着目した研究はない.
他方,通常の地震活動と潮汐との相関についても精力的に調査されており,大地震前に震源域周辺で相関が高くなり,地震発生後に低下するという報告がある[例えば,Tanaka, 2012, GRL].さらに,高潮汐相関の先行期間はその後に発生する地震の規模と対応しているとも指摘されている[Tanaka, 2012].
そこで本研究では,大地震の前後にみられる定常地震活動と潮汐との相関の時間変化の関係が豊後水道で発生しているLSSE前後におけるLFEと潮汐との相関の時間変化にもみられるかに着目して解析を行った.
用いたデータは,2000年1月1日~2018年3月21日に豊後水道直下で発生したLFEで,気象庁一元化震源カタログで低周波フラグが付加されたイベントとした.LFEは通常の地震に比べて震源決定精度が低い.なお,気象庁によるLFEの決定方法が2018年3月22日から切り替わり,そこを境に検知能力が変わっている.長期的な変化をみるには適さないと考え,データ期間から外した.
潮汐が地下の断層に与える影響を推定するために,断層パラメータを設定する必要がある.本解析対象は約15 km四方の狭い領域であるため,プレート形状[Hirose et al., 2008, JGR]と深部超低周波地震のMT解[Ide & Yabe, 2014, GRL]を考慮して,ひとつの断層面(走向237°,傾斜角16°,すべり角103°)を仮定した.震源は一律,解析領域の中心(東経132.254°, 北緯33.142°,深さ32 km)で発生したと見做し,発生時間は気象庁カタログ値をそのまま用いた.
震源における理論潮汐応答は,固体地球潮汐と海洋潮汐荷重効果の両方を考慮し,潮汐指標として体積歪ΔV,仮定した断層面上のせん断応力Δτ,法線応力Δσ,及びΔCFF(見掛けの摩擦係数は0.1, 0.4, 0.7)の6成分を解析対象とした.体積歪及び法線応力については膨張・拡張を正,収縮・圧縮を負とした.せん断応力及びΔCFFについては断層すべりを促進する方向を正,抑制する方向を負とした.潮汐位相角は,各時系列についてイベント前及び後の極小値の位相を-180°及び180°,極小値間の極大値の位相を0°とし,その間は等分割した位相と定義した.潮汐位相角に基づき,LFEと潮汐との相関度をp値[Schuster, 1897]で評価した.
解析の結果,LFEはΔτの潮汐位相角が0°(すべりを促進)であるときに発生しやすいことが明らかとなった.これは見掛けの摩擦係数が極めて小さく,間隙水圧が極めて高いことを示唆しており,地震波速度構造から推測される流体の存在[Hirose et al., 2008]とも整合する.解析期間中に,LSSEは3回(2003-2004年,2009-2011年,2014年)発生している.p値の時間変化は,これらLSSE前に小さく(潮汐との相関が高く),LSSE後に大きく(潮汐との相関が小さく)なる傾向を示した.この結果は巨大地震前後にみられる背景地震のp値の時間変化と類似している.このことから,LFEの潮汐相関はLSSEによる応力場の擾乱と強く関連していることが示唆される.なお,2018年3月時点でのp値は,これまでのLSSE発生前の水準まで低下している.
他方,通常の地震活動と潮汐との相関についても精力的に調査されており,大地震前に震源域周辺で相関が高くなり,地震発生後に低下するという報告がある[例えば,Tanaka, 2012, GRL].さらに,高潮汐相関の先行期間はその後に発生する地震の規模と対応しているとも指摘されている[Tanaka, 2012].
そこで本研究では,大地震の前後にみられる定常地震活動と潮汐との相関の時間変化の関係が豊後水道で発生しているLSSE前後におけるLFEと潮汐との相関の時間変化にもみられるかに着目して解析を行った.
用いたデータは,2000年1月1日~2018年3月21日に豊後水道直下で発生したLFEで,気象庁一元化震源カタログで低周波フラグが付加されたイベントとした.LFEは通常の地震に比べて震源決定精度が低い.なお,気象庁によるLFEの決定方法が2018年3月22日から切り替わり,そこを境に検知能力が変わっている.長期的な変化をみるには適さないと考え,データ期間から外した.
潮汐が地下の断層に与える影響を推定するために,断層パラメータを設定する必要がある.本解析対象は約15 km四方の狭い領域であるため,プレート形状[Hirose et al., 2008, JGR]と深部超低周波地震のMT解[Ide & Yabe, 2014, GRL]を考慮して,ひとつの断層面(走向237°,傾斜角16°,すべり角103°)を仮定した.震源は一律,解析領域の中心(東経132.254°, 北緯33.142°,深さ32 km)で発生したと見做し,発生時間は気象庁カタログ値をそのまま用いた.
震源における理論潮汐応答は,固体地球潮汐と海洋潮汐荷重効果の両方を考慮し,潮汐指標として体積歪ΔV,仮定した断層面上のせん断応力Δτ,法線応力Δσ,及びΔCFF(見掛けの摩擦係数は0.1, 0.4, 0.7)の6成分を解析対象とした.体積歪及び法線応力については膨張・拡張を正,収縮・圧縮を負とした.せん断応力及びΔCFFについては断層すべりを促進する方向を正,抑制する方向を負とした.潮汐位相角は,各時系列についてイベント前及び後の極小値の位相を-180°及び180°,極小値間の極大値の位相を0°とし,その間は等分割した位相と定義した.潮汐位相角に基づき,LFEと潮汐との相関度をp値[Schuster, 1897]で評価した.
解析の結果,LFEはΔτの潮汐位相角が0°(すべりを促進)であるときに発生しやすいことが明らかとなった.これは見掛けの摩擦係数が極めて小さく,間隙水圧が極めて高いことを示唆しており,地震波速度構造から推測される流体の存在[Hirose et al., 2008]とも整合する.解析期間中に,LSSEは3回(2003-2004年,2009-2011年,2014年)発生している.p値の時間変化は,これらLSSE前に小さく(潮汐との相関が高く),LSSE後に大きく(潮汐との相関が小さく)なる傾向を示した.この結果は巨大地震前後にみられる背景地震のp値の時間変化と類似している.このことから,LFEの潮汐相関はLSSEによる応力場の擾乱と強く関連していることが示唆される.なお,2018年3月時点でのp値は,これまでのLSSE発生前の水準まで低下している.