日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 強震動・地震災害

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)

[SSS13-P13] 曲面断層を考慮した2003年宮城県北部の地震(MJMA6.4)の震源破壊過程と強震動生成域

*染井 一寛1宮腰 研1郭 雨佳1 (1.一般財団法人地域地盤環境研究所)

キーワード:2003年宮城県北部の地震、曲面断層、震源インバージョン、強震動生成域、経験的グリーン関数法

2003年7月26日宮城県北部で発生した逆断層型の内陸地殻内地震(MJMA6.4)では,2枚断層セグメントを設定した強震波形インバージョンによって断層面上のすべり分布が推定され(例えば,Hikima and Koketsu, 2004),北側の断層セグメントの浅部(上端深さ0.59 km)に1 m程度の大きなすべりが生じたことが報告されている.一方で,この地震後に実施された現地調査では,震源域周辺において明瞭な地表地震断層は見つかっていない(例えば,今泉・他, 2003).上述した浅部の大きなすべりは,北側の断層セグメントの南端付近に集中しているため,再決定余震分布(Okada et al., 2003)によって指摘されているような屈曲部を考慮した断層面を設定することは,より現実に近いすべり分布を得るために重要であると考えられる.本研究では,曲面断層を考慮した震源インバージョンを実施し,さらに広帯域地震動シミュレーションから強震動生成域(SMGA;Miyake et al., 2003)を推定することで,本地震の詳細な震源破壊過程と強震動生成過程を考察した.

まず,K-NET,KiK-net,気象庁の各観測点で記録された強震波形(0.1-1.0 Hz)を用いたマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョンにより断層面上での震源破壊過程を推定した.仮定した曲面断層モデルは,上述した再決定余震分布や周辺の地質構造を参考にして,Hikima and Koketsu (2004) による2つの平面断層セグメント(北側セグメントと南側セグメント)と,その間を滑らかな曲面で接続する遷移セグメントの計3セグメントで構成した.断層モデルの長さ,幅,最浅部の深さは,それぞれ20 km,11 km,0.59 kmとした.この曲線断層モデルを,1.0×1.0 kmの220の小断層によって分割し,各小断層の中心にライズタイム1.0秒の平滑化傾斜関数のタイムウィンドウを0.5秒間隔で6つ設定することですべり時間関数を表現した.第一タイムウィンドウの破壊伝播速度は,波形残差から最適な2.8 km/sとした.理論グリーン関数は,1次元速度構造モデルから離散化波数法(Bouchon, 1981)と反射透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)によって計算した.各観測点の速度構造モデルは微動アレイ探査によって構築されたモデル(染井・他, 2018)或いはレシーバー関数法によって推定されたモデル(Petukhin・宮腰, 2006)を使用した.

次に,経験的グリーン関数法(Irikura, 1986)を用いた0.3-10 Hzの広帯域地震動シミュレーションに基づいてSMGAをモデル化した.2つのSMGAの破壊開始点と破壊開始時間は,複数の観測波形の2つの波形パケットのS波走時から予め決定した.スケーリングパラメタのNCの値は観測震源スペクトル比から推定した.SMGAの面積,破壊速度,ライズタイム,SMGA内の相対的な破壊開始点位置といった最適なパラメタセットは,波形残差関数を最小とするようグリッドサーチによって決定した.

震源インバージョンとSMGAモデリングから得られた主要な結論は以下の通りである.1)最大すべり量0.93 mの大きなすべりは震源から北側の遷移セグメントに集中した.抽出されたアスペリティ領域(Somerville et al., 1999)の大きさは35 km2でその上端は3.07 kmであった.これはHikima and Koketsu (2004)のアスペリティ上端(0.59 km)よりも深い.また,面積は既往のスケーリング則(Somerville et al., 1999)と比較して平均的であった.2)すべり速度が大きいHRA領域(吉田・宮腰, 2013)の大きさは29 km2で,アスペリティ領域の端部に抽出された.3)SMGAはHRAに近い位置に推定され,24 km2の大きさの2つのSMGAから生成された合成地震動は広帯域で観測地震動をよく再現した.4)2つのSMGAの応力降下量は13.7 MPaであり,これは日本国内の過去の内陸地殻内地震に対して得られているSMGAの応力降下量と比して平均的な値である.

謝辞:本研究は,平成30年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震による地震動の評価手法の検討)業務による成果の一部である.