[SSS15-P18] 安乗口海底谷における南海トラフ周辺海底活断層の変動地形学的・古地震学的調査-有孔虫分析と放射性炭素年代測定-
キーワード:海底活断層、マルチビーム音響測深、ピストンコアリング、有孔虫群集、断層変位地形、南海トラフ
南海トラフの海溝軸~陸棚斜面付近には海底活断層が多数分布している.これらの海底活断層の位置形状や活動履歴は,南海トラフにおける歴史地震の発生源の解明や地震発生予測において重要な意義を有すると考えられる.発表者らはこうした観点から,変動地形学的・古地震学的手法を用いて海底活断層の位置形状や活動履歴を解明するフィージビリティ調査を,2016年度より安乗口海底谷を対象として実施してきた(杉戸ほか,2018).
今回,安乗口海底谷にて採取されたCORE 03(コア長1.2 m)から1 cm単位で採取した31試料(泥層)について,堆積物の移動評価のための底生有孔虫群集概査分析,放射性炭素年代測定に向けた浮遊性有孔虫分析を実施した.有孔虫は0.18–0.25 mm径の個体と0.25 mm径以上の個体に分けて抽出した.年代測定では浮遊性有孔虫を必要重量確保するため,0.18 mm径以上の個体,および近隣層準をまとめ,7点の試料を得た.なお,浮遊性有孔虫の主要種は,Neogloboquadrina dutertrei,Globigerina bulloides,Globigerinoides ruber(表層:水深0–100 m),Globorotalia inflata(亜表層:100–200 m)であり(不整合面より下位においてはG. bulloidesの割合が減少しNeogloboquadrina incompta(表層)が増加する傾向),海洋表層環境を示唆している.
年代測定の結果,CORE 03の深度0.81 mに認められる不整合面について,その形成時期が,不整合面より上位の地層の堆積速度(6点の年代値に基づく)との関係から,約10,030 cal BPと推定された.不整合面の下位からは32,140 ± 140 yr BPの年代値が得られた.
不整合面より下位の層準に含まれる有孔虫は着色個体が多く,再堆積の可能性が考えられる.底生有孔虫群集概査分析では,不整合面の下位において浅海性の底生有孔虫(Ammonia sp.など)が少量ながら見出され,浅海性堆積物が移動して来やすい環境にあったと推定される.これらの観察事実および解釈は,上記の年代値から推定される海水準および堆積環境と調和的である.
海底谷中には,北側隆起・比高約10 mの断層変位地形が認められ,この不整合面の形成後に発達した可能性が指摘されている(杉戸ほか,2018).その場合,この海底活断層は約1万年前以降,1回あるいは複数回の活動によって上下方向に約10 m変位したと見積もられる.海溝軸と比べて陸域に近く,発生した津波はわずかな時間で沿岸に到達したと推定される.なお,この海底活断層は地形学的にみて上下変位のみではなく右横ずれ変位を起こしており,実変位量の推定には,横ずれ量,また断層面の傾斜を解明する必要がある.
このように,詳細な海底地形データによって海底活断層の位置形状が詳しく把握され,かつ試料の取得・分析によって活動履歴が具体的に推定される.歴史地震の発生源の解明や地震発生予測に関し,変動地形学的・古地震学的手法を用いた調査の有効性が例証された.
<謝辞>
コア分析・保管は高知大学海洋コア総合研究センターにて行い(共同利用・共同研究採択課題16B070・17A030・17B030・18A027・18B025),松崎琢也氏をはじめスタッフ一同にお世話になった.放射性炭素年代測定は株式会社加速器分析研究所にご実施いただいた.後藤秀昭氏(広島大学)からは本予稿に関し有益なコメントを頂戴した.本研究はMEXT「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」およびJSPS科研費(15H02959)の支援を受けた.以上,記して感謝申し上げます.
<文献>
杉戸ほか,2018,日本地質学会第125年学術大会(つくば特別大会),R8-P-7.
今回,安乗口海底谷にて採取されたCORE 03(コア長1.2 m)から1 cm単位で採取した31試料(泥層)について,堆積物の移動評価のための底生有孔虫群集概査分析,放射性炭素年代測定に向けた浮遊性有孔虫分析を実施した.有孔虫は0.18–0.25 mm径の個体と0.25 mm径以上の個体に分けて抽出した.年代測定では浮遊性有孔虫を必要重量確保するため,0.18 mm径以上の個体,および近隣層準をまとめ,7点の試料を得た.なお,浮遊性有孔虫の主要種は,Neogloboquadrina dutertrei,Globigerina bulloides,Globigerinoides ruber(表層:水深0–100 m),Globorotalia inflata(亜表層:100–200 m)であり(不整合面より下位においてはG. bulloidesの割合が減少しNeogloboquadrina incompta(表層)が増加する傾向),海洋表層環境を示唆している.
年代測定の結果,CORE 03の深度0.81 mに認められる不整合面について,その形成時期が,不整合面より上位の地層の堆積速度(6点の年代値に基づく)との関係から,約10,030 cal BPと推定された.不整合面の下位からは32,140 ± 140 yr BPの年代値が得られた.
不整合面より下位の層準に含まれる有孔虫は着色個体が多く,再堆積の可能性が考えられる.底生有孔虫群集概査分析では,不整合面の下位において浅海性の底生有孔虫(Ammonia sp.など)が少量ながら見出され,浅海性堆積物が移動して来やすい環境にあったと推定される.これらの観察事実および解釈は,上記の年代値から推定される海水準および堆積環境と調和的である.
海底谷中には,北側隆起・比高約10 mの断層変位地形が認められ,この不整合面の形成後に発達した可能性が指摘されている(杉戸ほか,2018).その場合,この海底活断層は約1万年前以降,1回あるいは複数回の活動によって上下方向に約10 m変位したと見積もられる.海溝軸と比べて陸域に近く,発生した津波はわずかな時間で沿岸に到達したと推定される.なお,この海底活断層は地形学的にみて上下変位のみではなく右横ずれ変位を起こしており,実変位量の推定には,横ずれ量,また断層面の傾斜を解明する必要がある.
このように,詳細な海底地形データによって海底活断層の位置形状が詳しく把握され,かつ試料の取得・分析によって活動履歴が具体的に推定される.歴史地震の発生源の解明や地震発生予測に関し,変動地形学的・古地震学的手法を用いた調査の有効性が例証された.
<謝辞>
コア分析・保管は高知大学海洋コア総合研究センターにて行い(共同利用・共同研究採択課題16B070・17A030・17B030・18A027・18B025),松崎琢也氏をはじめスタッフ一同にお世話になった.放射性炭素年代測定は株式会社加速器分析研究所にご実施いただいた.後藤秀昭氏(広島大学)からは本予稿に関し有益なコメントを頂戴した.本研究はMEXT「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」およびJSPS科研費(15H02959)の支援を受けた.以上,記して感謝申し上げます.
<文献>
杉戸ほか,2018,日本地質学会第125年学術大会(つくば特別大会),R8-P-7.