[SSS15-P27] 断層ガウジの化学組成を用いた多変量解析による断層活動の有無の推定
キーワード:断層ガウジの化学組成、多変量解析、活断層と非活断層
はじめに:活断層は,現在の地形及び第四紀の被覆層の変位・変形により認定される.しかし,第四紀の被覆層が存在しない場合,そこにある断層が活断層であるかそうでないかの決定は非常に困難となる.活断層の認定に係る断層の活動性評価は,原子力施設などの重要建造物の安全評価,ひいては地層処分などにおけるサイト選定にとっても非常に重要である.本研究では,国内における活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成データを変量とした多変量解析を行い,断層活動の有無の判別を試みた.
手法:本研究は,文献収集→断層ガウジの化学組成データの抽出→新たな化学分析データの追加→入力データの整理→変数選択→線形判別分析という流れで活断層と非活断層の違いを判別できるかどうかを確認した.まず,既存の文献から国内における活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成データを抽出した.この際,分析対象が活断層か非活断層か文献に明記されていること,付加体,花崗岩質岩など多様な基盤岩を持つことを抽出条件とした.また,原子力機構保有の断層ガウジ試料の化学分析を行い,両者を統合したデータベースを作成した.このデータベースには,各試料の試料名と分析値のほか,活断層か非活断層かという2つの分類を与えた.次に,このデータベースから説明変数の候補となる元素を決め,入力データとして整理した.文献から抽出した化学組成データは,全て同じ元素が分析されている訳ではないため,試料数をできるだけ多く取れるように共通の元素を選んだ.そして,それらの元素から,活断層と非活断層の判別に適した元素を更に抽出するため,赤池情報量基準(AIC:Akaike,1973)と主成分分析の2つの方法で変数選択を行った.最後に,AICで選択された元素,主成分分析で因子負荷量が高いとされた元素の組合せを説明変数として線形判別分析を行った.ここで,AICは,複数の統計的モデルの良さを比較評価するための規準であり,活断層と非活断層の2群を分けるのに最適な元素の組合せを示す.一方,主成分分析は,多種のデータの持つ情報をできるだけ損なわずに低次元化する手法であり,多次元空間における個々のデータの散らばり具合を説明する合成式が次元の数だけ得られる.この合成式は,データの散らばり具合を説明できる割合(寄与率)の順に第1主成分,第2主成分,第3主成分…と呼ばれる.また,得られた合成式における各元素の重み(因子負荷量)も数値化される.線形判別分析は,2群が正規分布すること,等分散性を持つことを前提として,多次元における2群の中心点を基準として,2群が最も良く分かれる直線(一次式)を求める手法である。
結果:文献収集の結果,既存の論文7編と原子力機構の報告書5編から断層ガウジの化学組成データを抽出した.これに原子力機構保有の断層ガウジ6試料の化学分析結果を加えたデータベースから,変数の候補となる元素をSiO2, TiO2, Al2O3, Fe2O3*, MnO, MgO, CaO, Na2O, K2O, P2O5, Rb, Sr, Y, Nb, Ba, Pb, Thの17元素に絞った.データの数は活断層41試料,非活断層16試料の合計57試料となった.これら17元素から,AICでは13元素が最適な元素の組合せとして抽出された.主成分分析では,第1主成分から第17主成分までの合成式が得られ,各合成式で因子負荷量の高い元素が算出された.これらの結果から,①AICの13元素,②主成分分析の第3主成分まで(化学組成の散らばり具合を65%説明する),③第5主成分まで(同じく80%),④第8主成分まで(同じく90%)の因子負荷量の平均値が上位10位に入る元素の組合せで線形判別分析を行った.その結果,①③④の組合せで活断層と非活断層の2群を正確に分ける一次式が得られた.
考察:上記①③④の元素の組合せに共通する元素はTiO2, Al2O3, MgO, Na2O, P2O5, Baの6元素である.この6元素の組合せ(以下⑤とする)で再度線形判別分析を行ったところ,2群を正確に分ける結果となった.これらの元素は異なる手法あるいはフィルターで選ばれたものであることから,活断層と非活断層の違いを表す元素の可能性がある.また,①③④⑤の一次式に別の活断層の断層ガウジ3試料のデータを代入し,検証を行った結果,全ての式で活断層側と判別される値が出た.ただし,これらの値は母集団の分布範囲から外れており,その傾向は元素数が多いほど顕著であった.すなわち,⑤の組合せが最も母集団と近い値となった.このことから,現時点では,⑤の6元素で構成される一次式が,活断層と非活断層を分ける最良の式と判断した.
おわりに:断層ガウジの化学組成を用いた多変量解析により,活断層41試料と非活断層16試料の2群を,化学組成から正確に分ける一次式が複数得られた.更に,これらの一次式に共通する元素の組合せから,活断層と非活断層の違いを表す元素を6つに絞ることができた.この6元素は,今後「なぜ活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成が異なるのか」という本質的議論の鍵となる可能性がある.
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
引用文献:Akaike, H., Proceedings of the 2nd International Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F. (eds.), p. 267-281, 1973.
手法:本研究は,文献収集→断層ガウジの化学組成データの抽出→新たな化学分析データの追加→入力データの整理→変数選択→線形判別分析という流れで活断層と非活断層の違いを判別できるかどうかを確認した.まず,既存の文献から国内における活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成データを抽出した.この際,分析対象が活断層か非活断層か文献に明記されていること,付加体,花崗岩質岩など多様な基盤岩を持つことを抽出条件とした.また,原子力機構保有の断層ガウジ試料の化学分析を行い,両者を統合したデータベースを作成した.このデータベースには,各試料の試料名と分析値のほか,活断層か非活断層かという2つの分類を与えた.次に,このデータベースから説明変数の候補となる元素を決め,入力データとして整理した.文献から抽出した化学組成データは,全て同じ元素が分析されている訳ではないため,試料数をできるだけ多く取れるように共通の元素を選んだ.そして,それらの元素から,活断層と非活断層の判別に適した元素を更に抽出するため,赤池情報量基準(AIC:Akaike,1973)と主成分分析の2つの方法で変数選択を行った.最後に,AICで選択された元素,主成分分析で因子負荷量が高いとされた元素の組合せを説明変数として線形判別分析を行った.ここで,AICは,複数の統計的モデルの良さを比較評価するための規準であり,活断層と非活断層の2群を分けるのに最適な元素の組合せを示す.一方,主成分分析は,多種のデータの持つ情報をできるだけ損なわずに低次元化する手法であり,多次元空間における個々のデータの散らばり具合を説明する合成式が次元の数だけ得られる.この合成式は,データの散らばり具合を説明できる割合(寄与率)の順に第1主成分,第2主成分,第3主成分…と呼ばれる.また,得られた合成式における各元素の重み(因子負荷量)も数値化される.線形判別分析は,2群が正規分布すること,等分散性を持つことを前提として,多次元における2群の中心点を基準として,2群が最も良く分かれる直線(一次式)を求める手法である。
結果:文献収集の結果,既存の論文7編と原子力機構の報告書5編から断層ガウジの化学組成データを抽出した.これに原子力機構保有の断層ガウジ6試料の化学分析結果を加えたデータベースから,変数の候補となる元素をSiO2, TiO2, Al2O3, Fe2O3*, MnO, MgO, CaO, Na2O, K2O, P2O5, Rb, Sr, Y, Nb, Ba, Pb, Thの17元素に絞った.データの数は活断層41試料,非活断層16試料の合計57試料となった.これら17元素から,AICでは13元素が最適な元素の組合せとして抽出された.主成分分析では,第1主成分から第17主成分までの合成式が得られ,各合成式で因子負荷量の高い元素が算出された.これらの結果から,①AICの13元素,②主成分分析の第3主成分まで(化学組成の散らばり具合を65%説明する),③第5主成分まで(同じく80%),④第8主成分まで(同じく90%)の因子負荷量の平均値が上位10位に入る元素の組合せで線形判別分析を行った.その結果,①③④の組合せで活断層と非活断層の2群を正確に分ける一次式が得られた.
考察:上記①③④の元素の組合せに共通する元素はTiO2, Al2O3, MgO, Na2O, P2O5, Baの6元素である.この6元素の組合せ(以下⑤とする)で再度線形判別分析を行ったところ,2群を正確に分ける結果となった.これらの元素は異なる手法あるいはフィルターで選ばれたものであることから,活断層と非活断層の違いを表す元素の可能性がある.また,①③④⑤の一次式に別の活断層の断層ガウジ3試料のデータを代入し,検証を行った結果,全ての式で活断層側と判別される値が出た.ただし,これらの値は母集団の分布範囲から外れており,その傾向は元素数が多いほど顕著であった.すなわち,⑤の組合せが最も母集団と近い値となった.このことから,現時点では,⑤の6元素で構成される一次式が,活断層と非活断層を分ける最良の式と判断した.
おわりに:断層ガウジの化学組成を用いた多変量解析により,活断層41試料と非活断層16試料の2群を,化学組成から正確に分ける一次式が複数得られた.更に,これらの一次式に共通する元素の組合せから,活断層と非活断層の違いを表す元素を6つに絞ることができた.この6元素は,今後「なぜ活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成が異なるのか」という本質的議論の鍵となる可能性がある.
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
引用文献:Akaike, H., Proceedings of the 2nd International Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F. (eds.), p. 267-281, 1973.