[SSS16-P07] 2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動に基づく不均質レオロジー構造
キーワード:余効変動、東北沖地震
2011年3月11日に発生したMw9.0の東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)は,広域かつ長期にわたる余効変動をもたらすなど,その後の日本列島の地殻変動に今なお多大な影響を与え続けている.余効変動に関してはこれまで数多くの研究がなされているが,その多くが余効すべりと粘弾性緩和の2種類の変形メカニズムを検討している.これらの先行研究では,均質半無限あるいは深さ方向のみに不均質な粘弾性構造が用いられており,地震波速度構造や地殻ひずみ分布などの様々な観測から示唆されている3次元的な不均質構造が十分に考慮されていない.また,レオロジーモデルはMaxwellモデルあるいはBurgersモデルのどちらかが用いられており,岩石室内実験に基づき実際の岩石の挙動に近いと考えられるべき乗流動則モデルはあまり用いられてこなかった.こうした背景を踏まえ本研究では,稠密なGNSS観測点が配置されている新潟県から福島県にかけて島弧を横断する磐越地域において,余効変動の累積変位とその時間発展という2つの観点から東北沖地震後の約5年間の余効変動を詳細に調べ,先行研究では採用されてこなかったべき乗則モデルに基づいて,不均質粘弾性構造の推定を行った.
本研究では,2011年3月12日から2016年4月1日までの5年間を,初めの約2年間とその後の3年間の2つの期間に分け,GNSS観測データから島弧横断方向の変位プロファイルを精査した.その結果,火山フロント(VF)周辺を境に,前弧域と背弧域で変位プロファイルの勾配が変化する特徴がみられた.また,初めの約2年間ではVF周辺で局所的な沈降が確認された.時間発展については,緩和率(5年間の水平変位量で規格化した水平成分の時系列)のプロファイルにおいて,背弧域と前弧域で緩和率が異なること,海溝軸からの距離(DFT)が350~400 kmの範囲でプロファイルが平坦になる特徴的な傾向が明らかになった.
これらの観測結果を再現可能な地下の粘弾性構造を求めるために,Lambert and Barbot (2016, GRL)による余効すべりと粘弾性緩和を考慮した余効変動の計算手法を3次元モデルに拡張したものを用い,各パラメータはグリッドサーチを用いた観測値との比較から最適値を探索した.その結果,マントルウェッジ浅部に低粘性領域(LVZ)を仮定した場合に観測データをよく再現できることが明らかになった.最適モデルとしてはVF下部にLVZが存在し,このLVZの近傍までcold nose(CN)と呼ばれる高粘性領域を仮定した構造が推定された.この構造は,Uyeshima et al. (2016)による比抵抗構造の推定結果やFreed et al. (2017)により推定されたCNの拡がりとも整合的であった.このモデルにより計算された変位プロファイルでは,観測データでみられたVF周辺における沈降と,東西及び南北成分で勾配が変化する傾向が再現された.緩和率においてもプロファイルの変化は概ね再現できているが,DFT=350~400 kmの範囲でプロファイルが平坦になるという特徴的な変化は再現できなかった.この原因を調べるために,この領域深部にLVZを仮定したモデルを用いて調べたところ,深さ25~40 kmの範囲にLVZを仮定することにより,プロファイル形状が平坦になることがわかった.この領域は,新潟-神戸ひずみ集中帯の北端周辺に相当し,他の研究からも深部に構造の不均質が存在することが指摘されていることから,ひずみの集中機構と低粘性体の関連が示唆される.
本研究で得られた最適モデルを,先行研究により調べられている北部の鳴子測線にも適用し,島弧走向方向の粘弾性構造の違いについて検討を行った.その結果,本研究で得られた磐越測線沿いの構造では,鳴子測線の変位・緩和率プロファイルの特徴を十分に説明できないことが明らかになり,南北で粘弾性構造が異なることが示唆された.特に上下変位成分に関して,南北のCN構造の違いについて調べたところ,深さ25~40 kmでは南部の方が小さく,深さ40~55 kmでは北部の方がCN領域が大きいという結果が得られた.このような南北にCN構造の異なるモデルにVF周辺のLVZを加えたモデルは,CN構造を南北で同じにしたモデル,あるいはLVZを仮定しないモデルに比べ,先行研究で得られている面積ひずみ分布をよく再現できている.以上から,本研究により,島弧横断方向の不均質粘弾性構造を考慮する重要性が明らかになった.今後得られたモデルをさらに高度化することにより,地震発生サイクルの研究等への応用が期待できる.
本研究では,2011年3月12日から2016年4月1日までの5年間を,初めの約2年間とその後の3年間の2つの期間に分け,GNSS観測データから島弧横断方向の変位プロファイルを精査した.その結果,火山フロント(VF)周辺を境に,前弧域と背弧域で変位プロファイルの勾配が変化する特徴がみられた.また,初めの約2年間ではVF周辺で局所的な沈降が確認された.時間発展については,緩和率(5年間の水平変位量で規格化した水平成分の時系列)のプロファイルにおいて,背弧域と前弧域で緩和率が異なること,海溝軸からの距離(DFT)が350~400 kmの範囲でプロファイルが平坦になる特徴的な傾向が明らかになった.
これらの観測結果を再現可能な地下の粘弾性構造を求めるために,Lambert and Barbot (2016, GRL)による余効すべりと粘弾性緩和を考慮した余効変動の計算手法を3次元モデルに拡張したものを用い,各パラメータはグリッドサーチを用いた観測値との比較から最適値を探索した.その結果,マントルウェッジ浅部に低粘性領域(LVZ)を仮定した場合に観測データをよく再現できることが明らかになった.最適モデルとしてはVF下部にLVZが存在し,このLVZの近傍までcold nose(CN)と呼ばれる高粘性領域を仮定した構造が推定された.この構造は,Uyeshima et al. (2016)による比抵抗構造の推定結果やFreed et al. (2017)により推定されたCNの拡がりとも整合的であった.このモデルにより計算された変位プロファイルでは,観測データでみられたVF周辺における沈降と,東西及び南北成分で勾配が変化する傾向が再現された.緩和率においてもプロファイルの変化は概ね再現できているが,DFT=350~400 kmの範囲でプロファイルが平坦になるという特徴的な変化は再現できなかった.この原因を調べるために,この領域深部にLVZを仮定したモデルを用いて調べたところ,深さ25~40 kmの範囲にLVZを仮定することにより,プロファイル形状が平坦になることがわかった.この領域は,新潟-神戸ひずみ集中帯の北端周辺に相当し,他の研究からも深部に構造の不均質が存在することが指摘されていることから,ひずみの集中機構と低粘性体の関連が示唆される.
本研究で得られた最適モデルを,先行研究により調べられている北部の鳴子測線にも適用し,島弧走向方向の粘弾性構造の違いについて検討を行った.その結果,本研究で得られた磐越測線沿いの構造では,鳴子測線の変位・緩和率プロファイルの特徴を十分に説明できないことが明らかになり,南北で粘弾性構造が異なることが示唆された.特に上下変位成分に関して,南北のCN構造の違いについて調べたところ,深さ25~40 kmでは南部の方が小さく,深さ40~55 kmでは北部の方がCN領域が大きいという結果が得られた.このような南北にCN構造の異なるモデルにVF周辺のLVZを加えたモデルは,CN構造を南北で同じにしたモデル,あるいはLVZを仮定しないモデルに比べ,先行研究で得られている面積ひずみ分布をよく再現できている.以上から,本研究により,島弧横断方向の不均質粘弾性構造を考慮する重要性が明らかになった.今後得られたモデルをさらに高度化することにより,地震発生サイクルの研究等への応用が期待できる.