日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 地殻変動

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

[SSS16-P13] 南海トラフ沿いのゆっくりすべりに伴う地殻変動の検知能力

*宮岡 一樹1甲斐 玲子1木村 武志2露木 貴裕3 (1.気象庁、2.防災科学技術研究所、3.気象研究所)

キーワード:ゆっくりすべり、スタッキング法、ひずみデータ、傾斜データ

1.はじめに

気象庁では,南海トラフ沿いのプレート境界で発生するゆっくりすべりに伴う地殻変動を観測するために,東海地方に関しては気象庁,静岡県及び産業技術総合研究所(以下,産総研)が設置したひずみ計のデータを用いてリアルタイムで監視を行っている.一方,紀伊半島から四国地方にかけての西側の領域については産総研がひずみ計を設置しているものの,観測点数が少なく,プレート境界すべりの検知能力が東海地方に比べて著しく低い.このため,これら以外のデータも用いてゆっくりすべりの検知能力を向上させることが必要である.

防災科学技術研究所(以下,防災科研)のHi-net 観測点には高感度加速度計が併設されており,ゆっくりすべりに伴う地殻変動(傾斜)を観測している(文献).ひずみ計に加え,これらの傾斜データを統合的に解析することでゆっくりすべりの検知能力が向上することが期待される.

そこで今回,気象庁,産総研のひずみ計データおよび防災科研の傾斜データにスタッキング手法(宮岡・横田,2012, 宮岡ほか, 2017)を適用した解析を行い,南海トラフ沿いのプレート境界のゆっくりすべりに伴う地殻変動の検知能力(検出可能な最小Mw)を調査したので,その結果を報告する.



2.データと解析方法

調査に用いた傾斜・ひずみデータは,地球潮汐,気圧,降水,地磁気等の影響を受けている.すべての観測データに対して潮汐補正(石黒ほか,1984),気圧補正(檜皮ほか,1983)を施し,また観測機器の特性により必要に応じて地磁気補正(宮岡,2011),降水補正(木村ほか,2015)を行ってノイズレベルの低減をはかった.

さらに,観測データからゆっくりすべりに伴うごく小さな変化を検知するため,観測データを重ね合わせてシグナルを増幅することができるスタッキング手法を用いてスタッキングデータを作成した.

スタッキング手法ではプレート境界に小断層を仮定し,そこでのゆっくりすべりによる観測データの変化の極性(プラス/マイナス)が同一になるよう,マイナスの変化となる観測点(成分)のデータの極性を反転させる.これらを足し合わせることでノイズは打ち消し合う一方で,プラスの変化となるシグナル成分が足しあわされ,より小さなゆっくりすべりが検出されることが期待される.

今回は東海地方から九州にかけての南海トラフ沿いにおいて,フィリピン海プレート上面に緯度経度0.15度毎のグリッドを設定し,各グリッドには15km×15kmの小断層を仮定した.グリッド毎に異なる成分の組み合わせによるスタッキングデータが作られ,もしあるグリッドの小断層ですべりが生じた場合,該当するスタッキングデータに正の変化が現れることになる.この変化がノイズレベルに対して十分な大きさであればこのゆっくりすべりを検出できることになる.気象庁で行っているひずみデータによるスタッキング法を用いた監視(露木ほか,2015)では,スタッキングデータのノイズレベルの3倍を検出レベルとしている.そこで傾斜データ,ひずみデータを用いた本調査でも,各スタッキングデータの変化がそのノイズレベルの3倍を超えるMwの下限を全てのグリッドについて求めた.



3.結果

従来の東海地域のひずみデータのみを用いたスタッキング監視と比較して,防災科研の傾斜データを追加することで,紀伊半島から九州地方にかけての領域におけるゆっくりすべりの検知能力が向上することがわかった.

講演ではこの調査結果のほか,スタッキング解析による空間分解能等について発表する.