日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS17] 地震学的アプローチによる火山深部のマグマ供給系の解明

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:麻生 尚文(東京工業大学)、行竹 洋平(神奈川県温泉地学研究所)

[SSS17-P04] 箱根火山深部低周波地震活動様式から見るマグマ供給過程

*行竹 洋平1安部 祐希1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:深部低周波地震、群発地震、箱根火山

はじめに
火山の地殻深部で発生する深部低周波地震(以下、DLFE)は、マグマ性流体の運動に起因し発生している現象と考えられている(例えば、Nakamichi et al., 2003).一方でDLFE活動と浅部での火山活動との時間的な関連性は必ずしも明確になっていない.本研究では箱根火山の下深さ25km付近で発生するDLFE活動と深さ10kmより浅部で観測される群発地震活動や火山性地殻変動との関係性について検証を行った.
箱根火山では、最近20年間において2001年、2006年、2009年、2013年及び2015年に活発な群発地震が発生し、さらに群発地震活動にやや先行して深さ7km付近に膨張源を持つ火山性地殻変動が観測されている(例えば、Harada et al., 2018).また地震波トモグラフィー解析からは、深さ10km付近にマグマ溜まり、その上部にマグマ由来の熱水が存在すると推定されている(Yukutake et al., 2015;行竹ほか、2018、火山学会).先行研究(行竹・安部、2018、JpGU)では箱根火山において2003年以降のDLFE活動について、マッチドフィルター法(MF法)を用いたイベント検出を行い浅部火山活動時系列との比較を行った結果、活発な群発地震活動に先行してDLFEが増加していることを報告した.本発表では、MF法の解析期間を2000年まで拡張し、さらにDLFE活動の規模別頻度分布の特性(b値)の時間変化について詳細な検討を行い、これらの結果に基づきマグマ供給過程とDLFEとの関係について考察する.

データ及び手法
本研究では、箱根火山周辺の12箇所の定常観測点の連続波形記録を使用し、2000年1月から2017年1月までを解析対象とした.テンプレート地震として同期間に気象庁一元化カタログに記載されているMjma0.5以上のDLFE94イベントを用いた.イベント検出基準には相関係数の中央絶対偏差の9倍を用い、スタックした相関係数がこの基準を超える時刻を有意なイベントと見なした.検知されたイベントの震源は対応するテンプレート地震の震源位置を当てはめ、またマグニチュードはテンプレート地震波形との振幅比から求めた.b値の時間推移の推定には、各時間ウィンドウのコンプリートネスマグニチュード(Mc)を求めるWiemer and Wyss (2000)の方法を用い、MF法により作成された震源カタログに対して300イベント毎にMc及びb値を求めその時間変化を推定した.

結果及び議論
MF法により解析対象期間で気象庁一元化カタログの約46倍に相当する数のDLFEを検出した. 2006年、2009年、2013年及び2015年には、山体膨張を示す地殻変動とほぼ同時にDLFEの発生数が、その数週間後に浅部で群発地震が活発化することが分かった.ただし、2001年には、群発地震の活発化がDLFE発生数増加に先行した.さらにDLFE活発化に伴いb値が増加することが推定された.火山地域における群発地震活動で噴火直前にb値の増加が観測される場合があり、こうしたb値の時間変化はマグマ性流体の移動に伴う流体圧や温度変化を反映したものと解釈されている(Jacobs and McNutt 2010;Nanjo et al., 2018).箱根火山で推定されたDLFEの活発化並びにb値の増加は、この領域におけるマグマ性流体の深部からの新たな供給及びそれに伴う流体圧や温度の上昇を反映しているかもしれない.DLFE発生域より浅部の深さ10km付近には、地震波トモグラフィー解析に基づき固化しつつあるマグマの存在を示唆するLow Vs及びHigh Vp/Vsの領域が、さらにその浅部深さ6km付近にはマグマから脱水した熱水溜りを示唆するLow Vs及びLow Vp/Vsの領域が検出されている(行竹ほか、2018、火山学会).また、火山性地殻変動の膨張源はLow Vp/Vs領域上部に推定され、群発地震活動はさらにその浅部で発生する.
群発地震の活発化は、浅部の脆性領域への熱水の供給量が急増したことで引き起こされたと考えられており(Yukutake et al., 2015)、その急増は熱水溜まり最上部で捉えられた膨張(増圧)により引き起こされていると思われる.またDLFEの活発化は、DLFE発生領域にマグマ性流体が上昇することと関連すると考えられる.
2006年、2009年、2013年及び2015年の群発地震活動では、DLFEが先行したことから、DLFE発生領域を上昇してきたマグマからの揮発成分または熱の供給が、熱水溜まり最上部の増圧および脆性領域における流体圧の上昇を引き起こしたと考えることができる.しかし、2001年には群発地震がDLFEの活発化に先行して発生しており、また解析期間内には、群発地震活動を伴わないDLFEの活発化も捉えられている.DLFEの活発化と群発地震には関連性があるように見えるが、上述のように単純なモデルでは説明できない活動もある.
今後は、DLFEの発生様式をさらに精査して圧力源の変動や群発地震活動様式と比較しながら、それらの活動の関連性をさらに詳細にモデル化する予定である.

謝辞
本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所Hi-netの地震波形データ、及び国土地理院Geo-netのGNSSデータを使用させていただきました.b値の推定には、zmapコード(Wiemer, 2001)を使用しました.