日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] Connecting magma dynamics in vent-conduit system with surface expression of volcanic eruption

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:三輪 学央(防災科学技術研究所)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC34-P06] メルト包有物から探る伊豆大室山単成火山の噴火プロセス

畑田 璃瑳子1、*石橋 秀巳1鈴木 雄介2安田 敦3外西 奈津美3 (1.静岡大学理学部地球科学専攻、2.伊豆半島ジオパーク、3.東京大学地震研究所)

キーワード:メルト包有物、単成火山、流紋岩、伊豆大室山、斜長石

伊豆大室山は,およそ15万年前より活動を継続する伊豆東部火山群に属する単成火山である.この火山群で最大の火砕丘である大室山を形成した噴火は約4000年前に発生し,溶岩流と降下テフラを合わせて約4.5億トンものマグマを噴出した(古谷野ほか, 1996).その噴火規模は,同火山群内では最大のカワゴ平噴火(~3200年前)に次いで大きいものであった.大室山のような単成火山は,マグマ供給系が新しく形成されてから初めての噴火で形成する火山である.このため,その火山噴出物,特に斑晶には,マグマ供給系の誕生に関する情報が保持されている可能性がある.そこで本研究では,伊豆大室山噴火の降下スコリア中に含まれる斑晶鉱物とメルト包有物(MI)について組織観察と化学分析を行い,その噴火プロセスを検討した.

古谷野ほか(1996)によると,伊豆大室山噴火はサブプリニ―式噴火から開始し(ステージA),やや噴火の低調な時期を挟んで(ステージB),メインのストロンボリ式噴火(ステージC)へと移行し,このとき大室山火砕丘を形成した.その後,小規模な爆発 (ステージD・E) を経て噴火が終息した.本研究ではステージ3のストロンボリ式噴火による降下スコリアを研究試料とし,東京大学地震研究所のFE-EPMAおよびEPMAを用いて岩石組織観察と鉱物・ガラスの化学分析を行った.

本研究試料のスコリアは,~3.3vol.%のオリビンと~5.4vol.%の斜長石を斑晶として含んでいた.石基は,数十~百μmサイズのオリビン・斜長石微斑晶とマトリクスから構成され,マトリクスはほぼガラス質の場合と,数十μm以下のマイクロライトに富む場合があった.オリビン斑晶は,リム付近を除いて粒内で化学的に均質であり,そのFo値は84から76まで変動するが,83-84のものが多数であった.オリビン微斑晶はFo~74-83で,低Fo値の斑晶と微量元素組成も同じであった.斜長石斑晶の大部分は,低An(~30-60)のコアを高An(~84)のリムが囲む逆累帯構造を示し,汚濁帯が普遍的にみられた.斜長石微斑晶の化学組成は,斑晶リムと同じであった.オリビン・斜長石斑晶にはMIが見られ,そのSiO2量はそれぞれ52-60wt.%と57-78wt.%であった.このうちSiO2~57-60wt.%のメルト組成は,オリビン・斜長石中のMIと石基ガラスで一致した.このメルトについて斜長石-オリビン-メルト共存関係から見積もった温度・含水量はそれぞれ1080℃,2.0wt.%で,そのH2O飽和深度は約2㎞であった.また,斜長石斑晶中にはSiO2~70-74wt.%の流紋岩質MIが多く見られ,斜長石のFe濃度もこれらのMIと平衡値を示した.800-850℃を仮定して,斜長石-メルト含水量計から見積もったメルト含水量は~6.2-9.2wt.%で,そのH2O飽和深度は~8-14㎞であった.更に,オリビン中のMIのうちSiO2<57wt.%のものは硫黄に富み(SO3~0.3-0.5wt.%),硫黄に乏しい他のMIよりも深部起源と考えられる.

以上の結果から,大室山の地下~11㎞にはその噴火以前から流紋岩質メルトが存在し,より深部由来のオリビンを含む玄武岩質安山岩メルトが上昇過程でこの流紋岩質メルト・斜長石をとり込んで安山岩マグマとなり,約2㎞の深さで一旦停止して微斑晶を晶出した後に噴火したものと考えられる.そして,伊豆東部火山群で初めての流紋岩質マグマ噴火(3200年前のカワゴ平噴火)より800年以上前から,この地域の地下に流紋岩質マグマが存在したことを示唆する.