[SVC36-P16] 榛名カルデラ形成噴火のマグマ―白川火砕流堆積物からの示唆―
キーワード:榛名火山、火砕流、マグマ混合、高温マグマによる加熱、噴火誘発
榛名火山は東北日本弧最南端に位置する成層火山である。下司・竹内(2012)はその活動史を主成層火山体の形成が起きた古期榛名火山(〜240ka)と、約20万年の休止期、溶岩ドームの形成を主とした新期榛名火山(45ka〜)に区分した。新期榛名火山の活動は、山頂に現存する榛名カルデラを形成する噴火から始まった。新井(1962)は、この噴火において軽石流堆積物(1.0km3 DRE)と降下軽石堆積物(0.2km3 DRE)が生成したことを示した(噴出量は山元(2013))。大石・他(2011)は火砕流堆積物を、斜長石の屈折率に基づき白川火砕流堆積物と里見火砕流堆積物の2つに区分した。本研究ではカルデラ形成噴火直前のマグマ溜まりでのプロセスや、噴火誘発過程の解明を主たる目的とし、白川火砕流堆積物の調査と、本質物質である軽石の岩石学的検討を実施した。さらに本研究で得た白川火砕流堆積物のデータを、岡野・鈴木(2019;本大会)で得られた里見火砕流堆積物のデータと比較することで、2つの火砕流堆積物の差異の解明を行った。
大石・他(2011)の他、下司・竹内(2012)や高橋・他(2016)で記載例のある、山頂、北麓、南東~南麓の12露頭を調査した。そのうち南麓の荒神露頭は火砕流堆積物の基底部が唯一観察され、この露頭の上位層と比較することで噴出したマグマの時間変化も推定した。調査した露頭のうち8露頭では本質軽石をサンプルとして採取した。採取した軽石は室内での肉眼観察で白色と灰色の2タイプに分けられた。灰色軽石は荒神露頭の基底部のみに存在し、そこでは白色軽石も共存していた。採取したサンプルの内44サンプルについて東大地震研にて外西・他(2015)の方法で全岩化学組成分析を行った。全岩化学組成より、軽石はデイサイト(SiO2= 61.9〜65.4 wt.%)であることが判明した。また灰色軽石(N=3) の組成(SiO2=64.2〜64.7 wt.%)は狭い範囲に集中するものの、白色軽石の範囲内にあることも判明した。荒神露頭では、基底部(SiO2= 62.3〜64.8 wt.%)と上位層(SiO2= 62.6〜64.6 wt.%)とで組成差がないことも分かった。白川火砕流堆積物の軽石の組成は、里見火砕流堆積物のもの(SiO2= 62.8〜66.3 wt.%)と区別がつかない。
全岩組成や色彩を網羅する合計10サンプルについて2枚ずつ薄片を製作し顕微鏡記載を行った。軽石には斑晶として、斜長石、石英、角閃石、斜方輝石、カミングトン閃石、Fe-Ti酸化物が含まれており、全てが集斑晶をなしていた。これら鉱物が、類似した組成の珪長質マグマから晶出したことを示唆する。マフィック鉱物として角閃石、斜方輝石は多く存在し、カミングトン閃石は顕著に少なかった。斑晶毎に有無はあるが、石英の融食組織、斜長石の汚濁帯、斜方輝石微結晶集合体(角閃石等の脱水分解組織)といった、メルトとの非平衡を示す組織が観察された。ほとんどの組織はメルトが未分化になることにより引き起こされるが、角閃石の分解は減圧によっても引き起こされる(Rutherford and Hill, 1993)。しかし、ほとんどの軽石の石基には結晶が存在せず、マグマが火道を急上昇した可能性が高いことから、メルト組成の変化により形成されたものといえる。メルトが未分化になった要因として、高温マグマによる珪長質マグマの加熱、または高温マグマとの混合が挙げられる。マグマ混合の場合、高温マグマが無斑晶質であることが斑晶組み合わせから推定できる。一方、斜方輝石斑晶は、通常の斑晶・微結晶集合体のいずれにおいても角閃石縁を持つことがあり、これは温度低下を示唆する。以上で述べた斑晶組み合わせや組織は、軽石の色彩、荒神露頭の基底部・上位層により差異がなく、さらに、里見火砕流の軽石とも良く似ている。
これらを元に白川火砕流噴出直前のマグマ溜まりでのプロセスを提案する。まず高温マグマによる加熱もしくはマグマ混合により、珪長質マグマ溜り内に、温度上昇・メルト組成変化の程度の異なるゾーンが発生した(石英・斜長石の反応縁、角閃石の脱水分解の有無)。噴火時に、火道等で、異なるゾーンに由来したマグマが混合し、温度上昇・メルト組成変化の履歴の異なる斑晶が、同一噴出物にて共存するに至った。斜方輝石微結晶集合体に対して角閃石反応縁の有無があるのは、異なるゾーンのマグマが混合してから噴出するまでの時間の長短を示している可能性がある。
白川火砕流堆積物における、白色軽石と灰色軽石の唯一の違いは、石基にある。白色軽石がガラス質なのに対して、灰色軽石ではわずかにマイクロライトが認められた。色彩の差は、石基結晶度の違いによるもの(Gardner et al.,1998)だと判断した。灰色軽石が堆積物の基底部で顕著に産出したことから、噴火前に火道を開栓しながら低速で上昇したマグマで、減圧脱水による結晶化が顕著に起き、灰色軽石になったと推測した。
大石・他(2011)の他、下司・竹内(2012)や高橋・他(2016)で記載例のある、山頂、北麓、南東~南麓の12露頭を調査した。そのうち南麓の荒神露頭は火砕流堆積物の基底部が唯一観察され、この露頭の上位層と比較することで噴出したマグマの時間変化も推定した。調査した露頭のうち8露頭では本質軽石をサンプルとして採取した。採取した軽石は室内での肉眼観察で白色と灰色の2タイプに分けられた。灰色軽石は荒神露頭の基底部のみに存在し、そこでは白色軽石も共存していた。採取したサンプルの内44サンプルについて東大地震研にて外西・他(2015)の方法で全岩化学組成分析を行った。全岩化学組成より、軽石はデイサイト(SiO2= 61.9〜65.4 wt.%)であることが判明した。また灰色軽石(N=3) の組成(SiO2=64.2〜64.7 wt.%)は狭い範囲に集中するものの、白色軽石の範囲内にあることも判明した。荒神露頭では、基底部(SiO2= 62.3〜64.8 wt.%)と上位層(SiO2= 62.6〜64.6 wt.%)とで組成差がないことも分かった。白川火砕流堆積物の軽石の組成は、里見火砕流堆積物のもの(SiO2= 62.8〜66.3 wt.%)と区別がつかない。
全岩組成や色彩を網羅する合計10サンプルについて2枚ずつ薄片を製作し顕微鏡記載を行った。軽石には斑晶として、斜長石、石英、角閃石、斜方輝石、カミングトン閃石、Fe-Ti酸化物が含まれており、全てが集斑晶をなしていた。これら鉱物が、類似した組成の珪長質マグマから晶出したことを示唆する。マフィック鉱物として角閃石、斜方輝石は多く存在し、カミングトン閃石は顕著に少なかった。斑晶毎に有無はあるが、石英の融食組織、斜長石の汚濁帯、斜方輝石微結晶集合体(角閃石等の脱水分解組織)といった、メルトとの非平衡を示す組織が観察された。ほとんどの組織はメルトが未分化になることにより引き起こされるが、角閃石の分解は減圧によっても引き起こされる(Rutherford and Hill, 1993)。しかし、ほとんどの軽石の石基には結晶が存在せず、マグマが火道を急上昇した可能性が高いことから、メルト組成の変化により形成されたものといえる。メルトが未分化になった要因として、高温マグマによる珪長質マグマの加熱、または高温マグマとの混合が挙げられる。マグマ混合の場合、高温マグマが無斑晶質であることが斑晶組み合わせから推定できる。一方、斜方輝石斑晶は、通常の斑晶・微結晶集合体のいずれにおいても角閃石縁を持つことがあり、これは温度低下を示唆する。以上で述べた斑晶組み合わせや組織は、軽石の色彩、荒神露頭の基底部・上位層により差異がなく、さらに、里見火砕流の軽石とも良く似ている。
これらを元に白川火砕流噴出直前のマグマ溜まりでのプロセスを提案する。まず高温マグマによる加熱もしくはマグマ混合により、珪長質マグマ溜り内に、温度上昇・メルト組成変化の程度の異なるゾーンが発生した(石英・斜長石の反応縁、角閃石の脱水分解の有無)。噴火時に、火道等で、異なるゾーンに由来したマグマが混合し、温度上昇・メルト組成変化の履歴の異なる斑晶が、同一噴出物にて共存するに至った。斜方輝石微結晶集合体に対して角閃石反応縁の有無があるのは、異なるゾーンのマグマが混合してから噴出するまでの時間の長短を示している可能性がある。
白川火砕流堆積物における、白色軽石と灰色軽石の唯一の違いは、石基にある。白色軽石がガラス質なのに対して、灰色軽石ではわずかにマイクロライトが認められた。色彩の差は、石基結晶度の違いによるもの(Gardner et al.,1998)だと判断した。灰色軽石が堆積物の基底部で顕著に産出したことから、噴火前に火道を開栓しながら低速で上昇したマグマで、減圧脱水による結晶化が顕著に起き、灰色軽石になったと推測した。