日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] 火山の熱水系

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC39-P03] 火山噴煙中の水蒸気の同位体組成定量:噴煙から噴気ガス水蒸気の同位体組成は推定できるか?

*伊藤 昌稚1角皆 潤1高橋 幸士2中川 書子1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:火山ガス、安定同位体組成、キャビティリングダウン分光分析装置

火山から放出される揮発性物質(火山ガス)は、その8割以上を水蒸気が占める。この火山ガス中の水蒸気の起源には、マグマそのものの場合(マグマ水)と、山体内部の地下水の場合(天水)があり、両者間で各同位体比(δDおよびδ18O)が大きく異なることが知られている。噴火に伴って大気中に放出され、風下に流下してくる噴煙中の水蒸気の同位体比を定量化することができれば、そこから水蒸気の起源(マグマ水か、天水か)が判別できる。これはその噴火がマグマ噴火か、それとも水蒸気噴火かを判別することに直結するため、火山学的に極めて重要な情報となる。
 そこで、本研究では噴気孔にアクセス可能な噴気地帯において噴煙中の水蒸気の同位体比を実測し、噴気孔で直接採取した水蒸気の同位体比と比較して、両者が一致するかどうかを検証した。噴煙試料は現場で真空容器中に大気圧まで採取するグラブサンプリング法を採用した。これを持ち帰って実験室内に構築した測定システムに接続した。接続部を高純度空気でフラッシュした上で容器のバルブを開放し、容器内の大気(噴煙)試料をCavity Ring-Down分光分析システム(CRDS)に圧力差を用いて導入、出力が安定したところで同位体比を測定した。流路上への水蒸気の吸着を最小限に抑制するため、測定システム全体を60 ℃程度に加熱した。付属の蒸発器から同位体比既知の水試料(標準試料)を水蒸気化してCRDSに導入して測定することで、測定値をキャリブレーションした。
 箱根火山の大涌谷地熱地帯では、2014年7月, 2015年11月、2018年の7月の計3回の観測を実施した。噴気孔からの距離を変えながら、毎回20試料程度の噴煙試料を真空容器(内容積1000mL程度のガラス製)に採取した。同時に、噴気孔において低温トラップを用いて水蒸気試料(凝縮水)の直接採取も行った。
 各観測の噴煙試料間の水蒸気の濃度(逆数)と同位体比(δDおよびδ18O)は明瞭な線形相関を示し(R2は0.9以上)、噴煙試料間の水蒸気の濃度と同位体比が大気と噴気ガスの二種の端成分間の単純混合でほぼ説明できることを示した。各観測の同位体比(δDおよびδ18O)の回帰直線の切片の値として推定された噴気ガスの同位体比は、凝縮水の同位体比(δDおよびδ18O)とそれぞれ、誤差内で一致した。今後はドローンなどを用いて噴煙を遠隔から採取することで噴気中のH2Oの同位体比を遠隔から推定できることが実証された。
 本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の助成を受け実施されました。ここに記して深く感謝いたします。