09:45 〜 10:00
[G02-04] 宇宙地球科学の特性を考慮した対論型サイエンスカフェの試行
キーワード:科学への公衆関与、科学政策、サイエンスカフェ、主体的で対話的な学び
地球惑星科学に関する科学政策は,特に宇宙科学に関連して規模が大きいものも含まれ,専門性の高さのため市民がどのような意識をもっているか,明確には示されておらず,結果として専門家による策定がより比重の高い分野となっている.一方で宇宙開発にかぎらず科学技術の進行として,国民との科学技術対話が国より目標として示されており,政策の面においても一般市民がどのように考えているかを把握することはその一部である.2014年にインターネットで行われた宇宙政策に関する社会調査では,宇宙開発と他の科学技術政策とのイメージの差なども調査されているが,一方で具体的な予算配分については複数質問間で相反する回答をするなど,具体的なイメージを持ち得ているかどうかは判断が難しい(藤田・太郎丸 2015).2017年には,ほぼ同じ内容の質問をしたあとに回答者へなぜその回答をしたかのインタビュー調査を行ったが,自分の生活に関連するような科学技術に比較するとイメージが持ちにくいような意見もあった(玉澤他2018).市民に身近なものとして感じてもらいながら意見の醸成をする具体的な試みとして,タウンミーティングやパブリックコメントなどが行われている.市民がどのように考えているかを知り,それを政策にどのように反映すべきか,効果的な手法開発も含め検討課題である.
個別の政策課題を吟味することを想定した場合,問題の背景を把握し問題点を整理する過程を共有する必要があり,問題点をどのように可視化して議論をすすめていくかが課題である.特に,通常のサイエンスカフェなどで行われるような単独の講演者が情報提供するようなイベント形式は,参加者との間に情報の発信―受信の関係により「意見をきく」という目的から逸れる可能性があり,工夫の必要がある.参加者が自らの意見を持ち、主体的に考えるよう促すにはどのような形式が有効だろうか.
2018年1月に,大学での授業の科学技術と社会に関する一コマ,およびワインバーでのサイエンスカフェおいて,話題提供者2名をおいて議論を行い、参加者の意見を時系列に沿って可視化するという手法をとりいれた対論形式のサイエンスカフェのテストケースを行った。いずれも「火星の環境改変は許されるか」というテーマ設定のもと,話題提供者からは賛成・反対それぞれの立場から代表的な意見を出したあとに,賛成・反対の軸をホワイトボード上に示し,参加者の意見の位置を磁石により示してもらった.参加者間で議論を行ったあとでの議論による意見の変遷をみるため,議論後に再度意見の位置を示してもらった.
大学の授業で行ったケースでは,最初の意見表明の後グループごとに賛成・反対を含めたグループによるディスカッションを行い,考えられる判断基準を提示してもらった後再度個人の意見を提示してもらったが,環境倫理,世代間倫理,多様性の側面からより反対側に意見を変更する参加者がみられた.一方で最初から強く賛成・反対をだしていた参加者にはあまり変化は見られなかった.
ワインバーで開催したイベントでは,議論の結果賛成側はより賛成に,反対側はより反対側に意見を移動させた.サイエンスカフェ終了後の意見ききとりでは,参加者としての役回りを考慮したという意見があった.
いずれも、意見の可視化を通して参加者の立ち位置がある程度ばらつき、かつ議論とともに立ち位置が変化する者が一定層いることが分かった。
サイエンスカフェなどの科学技術に関する一般向けのイベントでは,科学技術に関心の高い層が参加する傾向があるが(加納ら 2013),そのような層のなかには,イベントでの質疑応答など意見表明の場がある場合,発言した参加者が自身の意見変遷とは別に立ち振る舞う可能性を示唆しており,議論の円滑化・活発化に寄与する反面,過度な役割意識は市民の意識をしるという観点ではその人自身の意見とは別になる可能性もありうる.
藤田智博, 太郎丸博. (2015). 宇宙開発世論の分析: イメージ, 死亡事故後の対応, 有人か無人か. 京都社会学年報,23, 1-17
加納圭, 水町衣里, 岩崎琢哉, 磯部洋明, 川人よし恵, & 前波晴彦. (2013). サイエンスカフェ参加者のセグメンテーションとターゲティング:「科学・技術への関与」 という観点から. 科学技術コミュニケーション= Japanese Journal of Science Communication, 13, 3-16.
玉澤春史、磯部洋明、長島瑠子 (2018)日本の宇宙政策に対しての世論の非存在
第62回宇宙科学技術連合講演会集録
本研究はJSPS科研費 JP18H05296「宇宙科学技術の社会的インパクトと社会的課題に関する学際的研究」による成果の一部である.
個別の政策課題を吟味することを想定した場合,問題の背景を把握し問題点を整理する過程を共有する必要があり,問題点をどのように可視化して議論をすすめていくかが課題である.特に,通常のサイエンスカフェなどで行われるような単独の講演者が情報提供するようなイベント形式は,参加者との間に情報の発信―受信の関係により「意見をきく」という目的から逸れる可能性があり,工夫の必要がある.参加者が自らの意見を持ち、主体的に考えるよう促すにはどのような形式が有効だろうか.
2018年1月に,大学での授業の科学技術と社会に関する一コマ,およびワインバーでのサイエンスカフェおいて,話題提供者2名をおいて議論を行い、参加者の意見を時系列に沿って可視化するという手法をとりいれた対論形式のサイエンスカフェのテストケースを行った。いずれも「火星の環境改変は許されるか」というテーマ設定のもと,話題提供者からは賛成・反対それぞれの立場から代表的な意見を出したあとに,賛成・反対の軸をホワイトボード上に示し,参加者の意見の位置を磁石により示してもらった.参加者間で議論を行ったあとでの議論による意見の変遷をみるため,議論後に再度意見の位置を示してもらった.
大学の授業で行ったケースでは,最初の意見表明の後グループごとに賛成・反対を含めたグループによるディスカッションを行い,考えられる判断基準を提示してもらった後再度個人の意見を提示してもらったが,環境倫理,世代間倫理,多様性の側面からより反対側に意見を変更する参加者がみられた.一方で最初から強く賛成・反対をだしていた参加者にはあまり変化は見られなかった.
ワインバーで開催したイベントでは,議論の結果賛成側はより賛成に,反対側はより反対側に意見を移動させた.サイエンスカフェ終了後の意見ききとりでは,参加者としての役回りを考慮したという意見があった.
いずれも、意見の可視化を通して参加者の立ち位置がある程度ばらつき、かつ議論とともに立ち位置が変化する者が一定層いることが分かった。
サイエンスカフェなどの科学技術に関する一般向けのイベントでは,科学技術に関心の高い層が参加する傾向があるが(加納ら 2013),そのような層のなかには,イベントでの質疑応答など意見表明の場がある場合,発言した参加者が自身の意見変遷とは別に立ち振る舞う可能性を示唆しており,議論の円滑化・活発化に寄与する反面,過度な役割意識は市民の意識をしるという観点ではその人自身の意見とは別になる可能性もありうる.
藤田智博, 太郎丸博. (2015). 宇宙開発世論の分析: イメージ, 死亡事故後の対応, 有人か無人か. 京都社会学年報,23, 1-17
加納圭, 水町衣里, 岩崎琢哉, 磯部洋明, 川人よし恵, & 前波晴彦. (2013). サイエンスカフェ参加者のセグメンテーションとターゲティング:「科学・技術への関与」 という観点から. 科学技術コミュニケーション= Japanese Journal of Science Communication, 13, 3-16.
玉澤春史、磯部洋明、長島瑠子 (2018)日本の宇宙政策に対しての世論の非存在
第62回宇宙科学技術連合講演会集録
本研究はJSPS科研費 JP18H05296「宇宙科学技術の社会的インパクトと社会的課題に関する学際的研究」による成果の一部である.