11:45 〜 12:00
[G02-11] 防災教員研修へのナラティヴ・アプローチの導入 ―埼玉県公立学校での実践を通して―
キーワード:防災、教育
1. はじめに
2011年3⽉11⽇の東北地⽅太平洋沖地震以降、防災教育はその重要性が再認識され、積極的に推進されるようになった。しかし、実際に防災教育を担う教職員からは、実施にあたり⼾惑いの声が上がっており(永松・⼤⽊,2016)、防災教育の有効性が認められている一方で、実施に際してはいくつかの障壁が存在することもわかっている。教職員の残業時間が一般的に「過労死ライン」と呼ばれる80時間を超えるほどの時間的余裕のなさ、教育現場におけるカリキュラムの飽和、教職員の防災教育に対する経験不足、加えて、多くの学校において安全担当職員が各校に1名しか存在しない。そして、実質的にはその教員1名が、学校保健安全法の定める年間安全計画や防災マニュアルの策定と、それらに基づいた防災教育の実施を担っている。このように、時間・経験・予算のない中で、安全教育担当の教員1名を中⼼に防災計画を刷新することは現実的ではなく、結果的に既存マニュアルの微修正と形骸化した例年同様の避難訓練を継続するに留まっている。
そこで、本発表では、学校現場の現状を踏まえ、より効率的かつ実効的な教員への防災研修プログラムの開発およびその成果について報告を⾏う。
2. 本研究の目的と方法
本研究は、このような教育現場の課題を踏まえ、学校管理下における発災状況にも実効的な教員研修プログラムの開発を⽬指して実施したものである。
ナラティヴ・アプローチを活⽤するにあたり、具体的な⽅法として、学校管理下で⼤きな地震が発⽣した場合の詳細な描写̶̶⼦どもの表情や⾔動、⾃らの不安や焦り、他教職員の⾔動など̶̶を、教職員の⽬線でつづった物語(ナラティヴ)を提⽰した。各教職員はこの物語を通して連想したリスクを書き出し、教職員同⼠でのグループワークを⾏ったのち、全体で共有する。さらに、地震発⽣から数分の描写までを書いた中途の物語をワークシートとして配布し、各教職員が⾃らの学校や受け持つ学級を想像しながら物語の続きを執筆する。 全⾏程でおよそ50分の校内研修プログラムである。 物語(ナラティヴ)によって認知した各学校・学級のリスクに基づき、現状の形骸化した避難訓練をより実践的なものへと改善するためのワークシート形式の資料を研修後に配布した。
3. モデル校における活動と進展
本研究においては、埼玉県内の公立学校のモデル校として選ばれた小・中学校で主に実践してきた。モデル校に対しては、複数回に渡り児童・生徒および教職員に対する働きかけを行った。初めは、防災について考えるきっかけを与えることを目的とした校内研修プログラムを行い、学校全体で防災について改めて考える機会となった。それ以降は学校側からの働きかけに対して適宜応じ、フォローしていく、という形式を取った。結果としては、学校側から多くの活動が積極的に打診・計画され、実行に移された。例を挙げると、「自主的に新たな形での避難訓練を計画・実行する」「改善版の避難訓練に対する、専門家の目としての見学打診の連絡」等である。また、これらの活動に関しては教職員に対してヒアリングによる追跡調査を行った。さらに、年度終わりに教職員に対しアンケート調査を実施し、年度始めに行ったアンケート調査と比較・分析する中で、一年間の活動を通じた学校現場の変化を分析する。
モデル校以外に対する取り組みとしては、昨年7月に小・中学校長向けの防災研修会を実施した。その後、モデル校の他にも、複数の学校長から反応があり、来年度以降の活動に盛り込んでいく予定である。
⽂献
1) 永松・⼤⽊(2016)実効的な地震防災コミュニケーション ̶地震動予測地図の効果測定と実践的防災教育の展開̶, 2015 年度 慶應義塾⼤学環境情報学部 卒業論⽂.
2011年3⽉11⽇の東北地⽅太平洋沖地震以降、防災教育はその重要性が再認識され、積極的に推進されるようになった。しかし、実際に防災教育を担う教職員からは、実施にあたり⼾惑いの声が上がっており(永松・⼤⽊,2016)、防災教育の有効性が認められている一方で、実施に際してはいくつかの障壁が存在することもわかっている。教職員の残業時間が一般的に「過労死ライン」と呼ばれる80時間を超えるほどの時間的余裕のなさ、教育現場におけるカリキュラムの飽和、教職員の防災教育に対する経験不足、加えて、多くの学校において安全担当職員が各校に1名しか存在しない。そして、実質的にはその教員1名が、学校保健安全法の定める年間安全計画や防災マニュアルの策定と、それらに基づいた防災教育の実施を担っている。このように、時間・経験・予算のない中で、安全教育担当の教員1名を中⼼に防災計画を刷新することは現実的ではなく、結果的に既存マニュアルの微修正と形骸化した例年同様の避難訓練を継続するに留まっている。
そこで、本発表では、学校現場の現状を踏まえ、より効率的かつ実効的な教員への防災研修プログラムの開発およびその成果について報告を⾏う。
2. 本研究の目的と方法
本研究は、このような教育現場の課題を踏まえ、学校管理下における発災状況にも実効的な教員研修プログラムの開発を⽬指して実施したものである。
ナラティヴ・アプローチを活⽤するにあたり、具体的な⽅法として、学校管理下で⼤きな地震が発⽣した場合の詳細な描写̶̶⼦どもの表情や⾔動、⾃らの不安や焦り、他教職員の⾔動など̶̶を、教職員の⽬線でつづった物語(ナラティヴ)を提⽰した。各教職員はこの物語を通して連想したリスクを書き出し、教職員同⼠でのグループワークを⾏ったのち、全体で共有する。さらに、地震発⽣から数分の描写までを書いた中途の物語をワークシートとして配布し、各教職員が⾃らの学校や受け持つ学級を想像しながら物語の続きを執筆する。 全⾏程でおよそ50分の校内研修プログラムである。 物語(ナラティヴ)によって認知した各学校・学級のリスクに基づき、現状の形骸化した避難訓練をより実践的なものへと改善するためのワークシート形式の資料を研修後に配布した。
3. モデル校における活動と進展
本研究においては、埼玉県内の公立学校のモデル校として選ばれた小・中学校で主に実践してきた。モデル校に対しては、複数回に渡り児童・生徒および教職員に対する働きかけを行った。初めは、防災について考えるきっかけを与えることを目的とした校内研修プログラムを行い、学校全体で防災について改めて考える機会となった。それ以降は学校側からの働きかけに対して適宜応じ、フォローしていく、という形式を取った。結果としては、学校側から多くの活動が積極的に打診・計画され、実行に移された。例を挙げると、「自主的に新たな形での避難訓練を計画・実行する」「改善版の避難訓練に対する、専門家の目としての見学打診の連絡」等である。また、これらの活動に関しては教職員に対してヒアリングによる追跡調査を行った。さらに、年度終わりに教職員に対しアンケート調査を実施し、年度始めに行ったアンケート調査と比較・分析する中で、一年間の活動を通じた学校現場の変化を分析する。
モデル校以外に対する取り組みとしては、昨年7月に小・中学校長向けの防災研修会を実施した。その後、モデル校の他にも、複数の学校長から反応があり、来年度以降の活動に盛り込んでいく予定である。
⽂献
1) 永松・⼤⽊(2016)実効的な地震防災コミュニケーション ̶地震動予測地図の効果測定と実践的防災教育の展開̶, 2015 年度 慶應義塾⼤学環境情報学部 卒業論⽂.