日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 混濁流:発生源から堆積物・地形形成まで

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:横川 美和(大阪工業大学情報科学部)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、泉 典洋(北海道大学大学院工学研究院)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

[HCG27-P02] 細粒タービダイトによる南海トラフ地震履歴解明に向けた基礎的研究

*奥津 なつみ1芦 寿一郎1山口 飛鳥1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:タービダイト、混濁流、南海トラフ

海底堆積物中のタービダイトを用いた古地震研究は,北米西海岸沖をはじめ多くの海域で行われており,様々な成果があげられてきている.タービダイトの特徴や堆積様式は,堆積物の種類や地震動の規模,海底地形により異なるため,タービダイトを用いた地震履歴推定のためには,海域毎での堆積構造・物性・化学組成などの情報の集積と特徴の抽出が重要となる.しかし,南海トラフでは津波堆積物といった陸上の堆積物を用いた古地震研究例が豊富に存在している一方,タービダイトなどの海底堆積物を用いた例は非常に限られている.そこで本研究は,南海トラフにおける細粒タービダイトの特徴をまとめたうえで,非破壊かつ効率的な認定手法の検討を行った.更に,南海トラフの熊野沖と日向沖の各タービダイトの堆積年代と各海域における既知の地震発生年代との関連について議論した.

 使用したサンプルは熊野沖および日向沖より採取された9本のコア試料である.これらのコア試料に対して,肉眼観察,X線CT画像による内部構造解析に加え,平均CT値の算出,磁気測定,粒度分析,XRFコアスキャナーITRAXを用いた非破壊化学組成分析などを行った.各層の年代決定は,有孔虫の放射性炭素年代測定と火山灰層の同定に基づき行った.
 熊野沖の細粒タービダイトは,下位から上位にかけて,CT値が低く化学組成ではFeの正のピークを示す粗粒シルト層(以下KL2),CT値が高く化学組成ではCa,Srの正のピークを示すシルト層(以下KL3,KL4),生物擾乱を受けた粘土層あるいは無構造の粘土層から構成される.X線CT画像上ではKL3,4が基底層のように見えるが,実際にはKL2が基底層であることが各種分析結果との対比の結果明らかになった.細粒タービダイトの認定にはX線CTスキャナーの利用は有用であるが,基底層を見誤る可能性が示され,真の基底層の推定にXRFコアスキャナーが有効であることが示された.また,軽度の生物擾乱の場合,Ca,Feのピークは堆積構造が破壊されCT画像において確認が困難なタービダイトでも認められるため,XRFコアスキャナーの使用は生物擾乱を受けた場合でも有効であることが示された.熊野沖のタービダイトの堆積年代と既知の地震発生年代は概ね対応しているため,試料には地震履歴が欠けずに記録されている可能性が示された.日向沖の細粒タービダイトの化学組成は熊野沖と異なり,火山起源の物質の影響を受けている.日向沖で採取された試料のうち大淀海丘麓の高まりで得られたコア試料は,その地形的条件から陸上河川の影響を受けにくいと考えられ,タービダイトは地震動により堆積したものが主になると推定される.この試料で得られた放射性炭素年代値は,最も若い年代でも約1,1000 cal yr BPであり,既知の地震履歴と比較できなかった.同コア試料より推定される発生間隔に関しては,一本の試料より推定されたものではあるが平均700年間隔であった.