16:15 〜 16:30
[HCG30-04] 内陸地殻内地震に対する原子力発電所の安全性と「理学・工学問題」
キーワード:原子力発電所、地震安全性、内陸地殻内地震、最大地震の評価、続発大余震、理学・工学問題
●日本の原子力発電所(以下,原発)の内陸地殻内地震に対する安全性は,1950年代に商用原発第1号として無地震国イギリスの原子炉を導入したときからの大問題であり(例えば,石橋,2015,日本地震学会モノグラフ),原発の地震安全性の原点といえる.しかし現在でも,この問題はまったく解決されていない.言うまでもなく,原発の地震安全性が他のあらゆる人工物と違って極めて厳重であるべきなのは,莫大な内蔵放射能ゆえに,万一事故が起きたときの影響が破局的になりかねないからである.
本発表では,前半で,現在おこなわれている原子力規制行政の実態に即しつつ問題点を振り返る.後半では,それらの問題点に関連して,しばしば言われる「理学と工学の考え方の違い」の問題を考察する.なお「内陸地殻内地震」には,沿岸海域の地震と,特殊なテクトニクス環境におけるやや深い地震も含める.
●原発に影響を与える地震の要因を改めて確認しておくと,強震動,地表付近の断層のズレ,地震時と地震後の地殻変動(内陸地殻内地震でも無視できない,特に日本海側),地盤の変形・破壊(前3者による二次的現象だが,液状化・斜面崩壊など),津波,大余震・続発地震,であろう.
日本列島の内陸地殻内地震に対する原発の安全性における根本的問題は,ある特定の原発に深刻な影響を与えうる現実の最大地震を科学的に予測できないことである.一般に,活断層が地下の震源断層を一意的に示すわけではないし,活断層が知られていなくても大地震が起こりうる.強震動生成域の分布や,そこでの応力降下量・すべり量などを予測することもできない.これらの点が,「松田式」や「入倉・三宅式」などの経験式の良し悪し以前の,より本質的な問題である.
これに関連しては,上部地殻の地震発生層の厚さ(上限と下限の深さ)が各原発付近で不確定であることも見過ごせない.また,2018年北海道胆振東部地震(MJ6.7,深さ37km,観測された最大加速度1796 Gal <3成分合成>)のような特殊なテクトニクス環境の大地震と強震動の予測困難性も重要である.「伊勢湾ー湖北スラブ」(三好・石橋,2008)が関係するやや深い地震の若狭湾岸への影響なども類似の問題であろう.
以上は「震源を特定して」評価する各種の現象についての課題だが,強震動に対する安全弁となるべき「震源を特定せず策定する地震動」には旧原子力安全委員会以来の方法論的欠陥があり,きわめて不十分である.
結果として,現在の新規制基準適合性審査においては,承認された基準地震動は年超過確率でみたとき,原発の安全目標である10-4 (炉心損傷頻度)〜10-6 (重大事故による大量放射能放出)に比べても著しく過小評価である(安全目標自体が妥当か否かという別問題もあるが).原発施設直下に現われるかもしれない断層のズレ,地殻上下変動と敷地・施設の傾斜,敷地地盤の変形・破壊,津波に関しても,見過ごされていたり過小評価だったりすると思われる.さらに,演者が旧原子力安全委員会の耐震指針改訂の際に提案した続発大余震の考慮も新規制基準に入っていないから,将来それが原発の大事故の原因になる可能性も否定できない.
●原発における活断層の評価などを巡って「理学と工学の考え方の違い」がしばしば問題にされる.確かに,自然の理解を目的とし,地震現象の理解がきわめて不十分であることを自覚している理学と,具体的なモノを造ることが目的で自然現象を単純化する工学とでは,議論が噛み合わない場合がある.
しかし,原発の地震安全性に関しては,純粋な知的営みの土俵の中での理学と工学の対立を過大視することは適切ではなく,生産的とは思えない.なぜならば,日本の原発の場合,理学的指摘を考慮して工学が仕様を修正したり,建設の可否を再検討したりする余地が,現実的にはほとんどないからである.これは,原発の建設・利用を「国策民営」としてきた日本の状況の,最悪の帰結の一つといえるだろう.公共事業であれば基準地震動を大幅に引き上げたり,それが技術的に不可能であれば代替策を検討することがありえても(強権的な強行もありうるが),国策民営であるためにコスト削減圧力と硬直性が非常に強く,工学者(ときには理学者と目される人も)が経営者の代弁をせざるをえず,政府がそれを後押しするという構図が続いてきたのだと考えられる.
本発表では,前半で,現在おこなわれている原子力規制行政の実態に即しつつ問題点を振り返る.後半では,それらの問題点に関連して,しばしば言われる「理学と工学の考え方の違い」の問題を考察する.なお「内陸地殻内地震」には,沿岸海域の地震と,特殊なテクトニクス環境におけるやや深い地震も含める.
●原発に影響を与える地震の要因を改めて確認しておくと,強震動,地表付近の断層のズレ,地震時と地震後の地殻変動(内陸地殻内地震でも無視できない,特に日本海側),地盤の変形・破壊(前3者による二次的現象だが,液状化・斜面崩壊など),津波,大余震・続発地震,であろう.
日本列島の内陸地殻内地震に対する原発の安全性における根本的問題は,ある特定の原発に深刻な影響を与えうる現実の最大地震を科学的に予測できないことである.一般に,活断層が地下の震源断層を一意的に示すわけではないし,活断層が知られていなくても大地震が起こりうる.強震動生成域の分布や,そこでの応力降下量・すべり量などを予測することもできない.これらの点が,「松田式」や「入倉・三宅式」などの経験式の良し悪し以前の,より本質的な問題である.
これに関連しては,上部地殻の地震発生層の厚さ(上限と下限の深さ)が各原発付近で不確定であることも見過ごせない.また,2018年北海道胆振東部地震(MJ6.7,深さ37km,観測された最大加速度1796 Gal <3成分合成>)のような特殊なテクトニクス環境の大地震と強震動の予測困難性も重要である.「伊勢湾ー湖北スラブ」(三好・石橋,2008)が関係するやや深い地震の若狭湾岸への影響なども類似の問題であろう.
以上は「震源を特定して」評価する各種の現象についての課題だが,強震動に対する安全弁となるべき「震源を特定せず策定する地震動」には旧原子力安全委員会以来の方法論的欠陥があり,きわめて不十分である.
結果として,現在の新規制基準適合性審査においては,承認された基準地震動は年超過確率でみたとき,原発の安全目標である10-4 (炉心損傷頻度)〜10-6 (重大事故による大量放射能放出)に比べても著しく過小評価である(安全目標自体が妥当か否かという別問題もあるが).原発施設直下に現われるかもしれない断層のズレ,地殻上下変動と敷地・施設の傾斜,敷地地盤の変形・破壊,津波に関しても,見過ごされていたり過小評価だったりすると思われる.さらに,演者が旧原子力安全委員会の耐震指針改訂の際に提案した続発大余震の考慮も新規制基準に入っていないから,将来それが原発の大事故の原因になる可能性も否定できない.
●原発における活断層の評価などを巡って「理学と工学の考え方の違い」がしばしば問題にされる.確かに,自然の理解を目的とし,地震現象の理解がきわめて不十分であることを自覚している理学と,具体的なモノを造ることが目的で自然現象を単純化する工学とでは,議論が噛み合わない場合がある.
しかし,原発の地震安全性に関しては,純粋な知的営みの土俵の中での理学と工学の対立を過大視することは適切ではなく,生産的とは思えない.なぜならば,日本の原発の場合,理学的指摘を考慮して工学が仕様を修正したり,建設の可否を再検討したりする余地が,現実的にはほとんどないからである.これは,原発の建設・利用を「国策民営」としてきた日本の状況の,最悪の帰結の一つといえるだろう.公共事業であれば基準地震動を大幅に引き上げたり,それが技術的に不可能であれば代替策を検討することがありえても(強権的な強行もありうるが),国策民営であるためにコスト削減圧力と硬直性が非常に強く,工学者(ときには理学者と目される人も)が経営者の代弁をせざるをえず,政府がそれを後押しするという構図が続いてきたのだと考えられる.