日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] 内陸地震と原子力発電所の安全性

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 104 (1F)

コンビーナ:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、寿楽 浩太(東京電機大学工学部人間科学系列)、座長:末次 大輔寿楽 浩太

16:45 〜 17:00

[HCG30-06] 大飯原子力発電所の強震動

*島崎 邦彦1 (1.東京大学)

キーワード:大飯原子力発電所、基準地震動、ストレステスト

大飯原子力発電所のストレステストの結果によれば、約1260ガルを超える強震動が発生すると、甚大な被害が発生する恐れがある。原子力規制委員会は大飯の基準地震動を856ガルとして稼働申請を認めているが、これを大きく上回る強震動が発生する可能性が高い。

○大飯のクリフエッジ
 3.11後のストレステストの結果によれば、大飯は約1260ガルでクリフエッジを超え、燃料の冷却手段が確保できなくなるとされている。
○大飯の基準地震動
 筆者は2012年9月から2年間原子力規制委員を務め、大飯の基準地震動の審査の一部を担当した。基準地震動(稀ではあるが、備えるべき強い揺れ)が856ガルに引き上げられた後、任期満了前の4ヶ月間、大飯の審査は停止していた。退職後に審査が再開され、基準地震動856ガルのまま稼働が認められている。一時的な審査停止前には、提案された幾つかの破壊パターンの保守性が検討されていた。基準地震動856ガルは、入倉レシピ(入倉・三宅, 2001)に基づく強震動生成域下端から始まる破壊による強震動596ガル(東西成分)に、短周期レベル1.5倍の不確かさを考慮して定められた。破壊パターンのアイソクロンから破壊が断層上端に達して停止したために生成された強震動(いわゆるstopping phase)であることがわかる。すなわち応力降下量14.1MPaの破壊の停止が基準地震動を決定している。しかし、次に述べるように応力降下量はこれよりも大きく、強震動は856ガルを大きく超える可能性が高い。
○大飯の活断層
 基準地震動の計算には、活断層(FOA〜FOB〜熊川断層)のデータに基づく断層モデルが採用された。地震モーメントの推定には、幾つかの式が提案されている。式に強く依存するため、注意を払うことを審査で要求したが、大飯では考慮されずに断層長63.4kmに対し、地震モーメント50.3x1018Nmとモデル化されている。2016年熊本地震の断層長は、大飯の約半分の30kmにもかかわらず、地震モーメントは大飯とほぼ同じ47x1018Nmである。相似則によれば地震モーメントは断層長の二乗に比例する。これらを考慮すると、大飯の地震モーメントは著しく過小評価されていると結論できる。断層形状が同じであれば、ずれの量も応力降下量も地震モーメントに比例するからである。現実的なモデルであれば、基準地震動は856ガルを大きく超えるであろう。
○大飯の強震動の議論
 筆者の要請により、原子力規制庁は武村式を用いて地震モーメントを1.75x1020Nmと求め、強震動生成域の応力降下量を22.3MPaとして計算し、入倉・三宅式を用いた場合(強震動生成域の応力降下量は14.1MPa)の約80%増の強震動を得た。しかし、してはならない計算であったとして、その結果を取り消した。背景領域の応力降下量7.6MPaが過大であることを理由にしているが、上記に述べたように、基準地震動は破壊の停止によって生成されており、背景領域の影響は微小と思われる。