09:00 〜 09:15
[HCG31-01] 陸域からの外挿による沿岸海域の後期更新世の隆起量評価とその不確実性
キーワード:高レベル放射性廃棄物、地層処分、沿岸部、隆起、第四紀
1.はじめに
平成27-28年に国の研究会[1]において、沿岸海底下を含む沿岸部での地層処分が議論され、課題が抽出された。我々はこれを踏まえ、沿岸海域の隆起量評価に取組んでいる。昨年度は、後期更新世以降の隆起運動の一様傾動モデル(隆起量分布の平面近似モデル)を構築し、データセットの違いがモデルとその外挿から見積もられる海域の隆起量に大きく影響することを報告した[2]。これを受け、本発表では、モデルの絞り込みとデータ・モデルの不確実性の評価方法について検討する。
2.研究手法
概要調査を念頭に、基本的には従来手法を踏襲する。陸域では、段丘に関わるデータ(段丘を構成する地質、テフラなどの年代情報など[3, 4など])を収集し、段丘編年を検討する。続いて、後期更新世の隆起量の指標となる海成・河成段丘の分布から[5など]、隆起量分布を把握する。隆起量分布から三次元の隆起運動モデルを構築し、それを海域へ外挿する。モデルの検証として、新第三紀以降の地史を考慮した考察を行う。不確実性の検討として、仮想的なものも含め、段丘編年に関わる複数のモデルに基づく海域の隆起量評価を行い、比較・検討する。
3.事例研究
段丘が広く分布し、後期更新世以降の隆起量が比較的大きいことで知られる宮崎平野中・北部を取り上げた。
(1) 後期更新世以降の隆起量モデル
先行研究の再検討を行い、これらで示された段丘の対比・編年を踏襲した。よって、基本データセットと構築された後期更新世以降の陸域の平均的な隆起モデルは、幡谷ほか[2]と同じ一様傾動モデルである。
(2) 地質構造からのモデルの絞り込み
鈴木[6]の走向線図並びに海上音波探査記録の再解析によれば、宮崎層群は現海岸線よりも東に振れた北北東走向・東南東傾斜の同斜構造を示している。これは宮崎層群堆積以降の運動の反映と解釈できる。
また、海上音波探査記録の再解析によれば、宮崎層群と上位更新統の地表境界は、北北西方向を呈す。また、海域の宮崎層群分布域には多数の谷が刻まれているのに対し、更新統分布域はなだらかな陸棚地形を呈す。これらは更新世における北北西方向の汀線の存在と東北東方向の傾動を示唆する。
一方、九州中・南部は、測地(GPS)により反時計回りの運動をしていることが知られている[7など]。
以上により、少なくとも宮崎層群堆積時から現在に至るまでの反時計回りの回転運動が考えられる。このことから、この地域の後期更新世以降の隆起運動は、東北東への傾動と考えるのが妥当であろう。
(3) 隆起モデルとその外挿の不確実性の検討
基本データセットより一部を割愛したもの、一部のデータを差し替えたもの(別の編年の作業仮説に基づく)から作ったモデル群に基づき、外挿した沿岸海域の後期更新世の平均隆起速度分布を比較した。今回の検討では、段丘編年の違いよりも、データの量による見積の差異が大きかった。
4.まとめ
陸域の隆起モデル(作業仮説)は、隆起量のデータセットに依存する。考えうるデータセットから構築されたモデルの絞り込みの方法として、地史的な検討が考えられる。また、データセットの不確実性の影響は、今回は、段丘編年の違いよりも、データの量(分布)が大きかった。引き続き研究事例を蓄積したい。更に、これらは、内陸部を含む広い範囲での隆起量分布の把握が重要であり、MIS5e段丘以外の時代に形成された段丘も指標にした隆起量データの取得の必要性を示している。
【謝辞】
本研究は経済産業省「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術に関する調査等事業(沿岸部処分システム高度化開発)」の一環として実施した。本事業の共同実施者の一つである(国研)日本原子力研究開発機構の方々には有益な助言を頂いた。 (株)ダイヤコンサルタント、川崎地質(株)に調査のご協力頂いた。また、海域の検討では、(国研)産業技術総合研究所より開示して頂いた海上音波探査記録等を使用した。以上の方々に深く謝意を表す。
【文献】
[1]経済産業省、沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#engan_kaiteika
[2] 幡谷ほか、2018、日本地球惑星科学連合2019大会演旨、HCG27-02.
[3] 町田・小池、2001、日本の海成段丘アトラス、東京大学出版会.
[4] 長岡ほか、2010、地学雑誌、119、632-667.
[5] 吉山・柳田、1995、地学雑誌、104、809-826.
[6] 鈴木秀明,1986、東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告,90,24p.
[7] 地震調査委員会、2013、九州地域の活断層の長期評価(第一版).
平成27-28年に国の研究会[1]において、沿岸海底下を含む沿岸部での地層処分が議論され、課題が抽出された。我々はこれを踏まえ、沿岸海域の隆起量評価に取組んでいる。昨年度は、後期更新世以降の隆起運動の一様傾動モデル(隆起量分布の平面近似モデル)を構築し、データセットの違いがモデルとその外挿から見積もられる海域の隆起量に大きく影響することを報告した[2]。これを受け、本発表では、モデルの絞り込みとデータ・モデルの不確実性の評価方法について検討する。
2.研究手法
概要調査を念頭に、基本的には従来手法を踏襲する。陸域では、段丘に関わるデータ(段丘を構成する地質、テフラなどの年代情報など[3, 4など])を収集し、段丘編年を検討する。続いて、後期更新世の隆起量の指標となる海成・河成段丘の分布から[5など]、隆起量分布を把握する。隆起量分布から三次元の隆起運動モデルを構築し、それを海域へ外挿する。モデルの検証として、新第三紀以降の地史を考慮した考察を行う。不確実性の検討として、仮想的なものも含め、段丘編年に関わる複数のモデルに基づく海域の隆起量評価を行い、比較・検討する。
3.事例研究
段丘が広く分布し、後期更新世以降の隆起量が比較的大きいことで知られる宮崎平野中・北部を取り上げた。
(1) 後期更新世以降の隆起量モデル
先行研究の再検討を行い、これらで示された段丘の対比・編年を踏襲した。よって、基本データセットと構築された後期更新世以降の陸域の平均的な隆起モデルは、幡谷ほか[2]と同じ一様傾動モデルである。
(2) 地質構造からのモデルの絞り込み
鈴木[6]の走向線図並びに海上音波探査記録の再解析によれば、宮崎層群は現海岸線よりも東に振れた北北東走向・東南東傾斜の同斜構造を示している。これは宮崎層群堆積以降の運動の反映と解釈できる。
また、海上音波探査記録の再解析によれば、宮崎層群と上位更新統の地表境界は、北北西方向を呈す。また、海域の宮崎層群分布域には多数の谷が刻まれているのに対し、更新統分布域はなだらかな陸棚地形を呈す。これらは更新世における北北西方向の汀線の存在と東北東方向の傾動を示唆する。
一方、九州中・南部は、測地(GPS)により反時計回りの運動をしていることが知られている[7など]。
以上により、少なくとも宮崎層群堆積時から現在に至るまでの反時計回りの回転運動が考えられる。このことから、この地域の後期更新世以降の隆起運動は、東北東への傾動と考えるのが妥当であろう。
(3) 隆起モデルとその外挿の不確実性の検討
基本データセットより一部を割愛したもの、一部のデータを差し替えたもの(別の編年の作業仮説に基づく)から作ったモデル群に基づき、外挿した沿岸海域の後期更新世の平均隆起速度分布を比較した。今回の検討では、段丘編年の違いよりも、データの量による見積の差異が大きかった。
4.まとめ
陸域の隆起モデル(作業仮説)は、隆起量のデータセットに依存する。考えうるデータセットから構築されたモデルの絞り込みの方法として、地史的な検討が考えられる。また、データセットの不確実性の影響は、今回は、段丘編年の違いよりも、データの量(分布)が大きかった。引き続き研究事例を蓄積したい。更に、これらは、内陸部を含む広い範囲での隆起量分布の把握が重要であり、MIS5e段丘以外の時代に形成された段丘も指標にした隆起量データの取得の必要性を示している。
【謝辞】
本研究は経済産業省「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術に関する調査等事業(沿岸部処分システム高度化開発)」の一環として実施した。本事業の共同実施者の一つである(国研)日本原子力研究開発機構の方々には有益な助言を頂いた。 (株)ダイヤコンサルタント、川崎地質(株)に調査のご協力頂いた。また、海域の検討では、(国研)産業技術総合研究所より開示して頂いた海上音波探査記録等を使用した。以上の方々に深く謝意を表す。
【文献】
[1]経済産業省、沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#engan_kaiteika
[2] 幡谷ほか、2018、日本地球惑星科学連合2019大会演旨、HCG27-02.
[3] 町田・小池、2001、日本の海成段丘アトラス、東京大学出版会.
[4] 長岡ほか、2010、地学雑誌、119、632-667.
[5] 吉山・柳田、1995、地学雑誌、104、809-826.
[6] 鈴木秀明,1986、東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告,90,24p.
[7] 地震調査委員会、2013、九州地域の活断層の長期評価(第一版).