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[HCG31-05] 物質移行の観点から見た付加体中の不連続構造の特徴
キーワード:地層処分、付加体、新第三紀、先新第三紀、物質移行
1.はじめに
日本列島の地質の基盤の大部分は、付加体で構成されていると考えられている(狩野ほか、1998)ことから、高レベル放射性廃棄物の地層処分のサイト選定において付加体は無視できないと考えられる。付加体中にはプレートの沈み込みに伴って形成された亀裂や断層などの不連続構造が多数存在するため、放射性物質は地下水とともに不連続構造中を移行することが懸念される。このため付加体中の不連続構造が有する物質移行上の特徴を理解することが重要である。本研究では、新第三紀および先新第三紀付加体中に観察される断層などの不連続構造を含む試料を採取し、地質学的な観察や室内透水試験などを行い、亀裂物質移行上の特徴について検討している(竹内ほか2018)。
調査対象は、新第三紀付加体が分布する三浦層群三崎層(神奈川県三浦市)および先新第三紀付加体が分布する秩父帯(東京都あきる野市)とした。三崎層では、普遍的に発達する“面なし断層”(井尻ほか、1955)を含む試料、秩父帯では付加体を特徴づけるメランジュ中の基質部の泥岩を採取し、光学顕微鏡観察、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査型X線顕微鏡(XGT)分析、室内透水試験などを実施した。
2.新第三紀付加体
神奈川県三浦半島南端に露出する三浦層群三崎層中には面なし断層が網目状に普遍的に発達する。昨年度までの検討において、観察対象とした面なし断層の断層部では母岩の細粒化はあるものの、元素分布にはほとんど変化が観察されないことがSEM観察およびXGT観察により確認された(竹内ほか2018)。今回、SEM画像を用いて母岩部と断層部の空隙率を測定した。測定は村上ほか(2008)を参考に、画像処理により空隙と鉱物で二値化した後に空隙の面積率を測定した。300倍に拡大した画像観察において複数個所で測定した結果、断層部の空隙率の平均値は約1.2%、母岩部のそれは約2.7%となり、断層部が低い値を示すことが判明した。また、室内透水試験(変水位透水試験)において、面なし断層に直交する方向と面なし断層を含まない試料の透水係数を算出した結果、前者では約6E-9 (m/s)、後者では2E-8 (m/s)の値が得られたことから、面なし断層を含む岩盤が透水異方性を有することが明らかとなった。以上の結果から、網目状に発達した面なし断層を含む新第三紀堆積岩においては、断層で囲まれた領域内で物質移行の遅延効果が期待される。
3.先新第三紀付加体
泥岩試料の薄片観察の結果、せん断運動に伴う鱗片状へき開が観察された。また、XGT分析の結果、へき開沿いにFeの濃集が確認された。へき開を横断する方向のFeの濃度(XGTのカウント数)は、へき開部にほぼ限定されており、周辺母岩側への拡散は認められなかった。ただし、このFeの変質は、最近の地表付近での地下水による汚染の可能性も否定できない。室内透水試験(変水位透水試験)により、へき開面に直交する方向と平行な方向の透水係数を算出した結果、へき開面に平行な方向では約4E-8 (m/s)、直交方向のそれは約2.5E-8 (m/s)の値を示した。このことから、泥岩基質部には若干の透水異方性が存在することが推定される。透水異方性に大きな差が認められないのは、鱗片状へき開のへき開面が湾曲していることや、地表部での風化により、深部の新鮮な試料と比較して開口していることなどが考えられる。以上の結果から、泥岩基質部中のへき開面は物質移行上の選択的な移行経路となり得るものと考えられる。
4.まとめ
新第三系付加体に発達する面なし断層および先新第三系付加体に発達する鱗片状へき開を対象として地質試料の観察、各種顕微鏡観察、室内透水試験などにより、物質移行上の特性として以下の知見を得た。
・新第三紀付加体中に発達する面なし断層は、母岩が細粒化し、明瞭な透水異方性を示すことから、物質移行上のバリアとなることが期待される。
・先新第三紀付加体中に発達する鱗片状へき開は、透水異方性は弱く、へき開面が選択的な物質移行上の経路となり得る。
以上の結果を踏まえて、新旧付加体中の不連続構造における物質移行上の特性を示す概念モデルを構築した。今後は、より新鮮な試料を用いた検討により、物質移行概念モデルを適切に改良する予定である。
日本列島の地質の基盤の大部分は、付加体で構成されていると考えられている(狩野ほか、1998)ことから、高レベル放射性廃棄物の地層処分のサイト選定において付加体は無視できないと考えられる。付加体中にはプレートの沈み込みに伴って形成された亀裂や断層などの不連続構造が多数存在するため、放射性物質は地下水とともに不連続構造中を移行することが懸念される。このため付加体中の不連続構造が有する物質移行上の特徴を理解することが重要である。本研究では、新第三紀および先新第三紀付加体中に観察される断層などの不連続構造を含む試料を採取し、地質学的な観察や室内透水試験などを行い、亀裂物質移行上の特徴について検討している(竹内ほか2018)。
調査対象は、新第三紀付加体が分布する三浦層群三崎層(神奈川県三浦市)および先新第三紀付加体が分布する秩父帯(東京都あきる野市)とした。三崎層では、普遍的に発達する“面なし断層”(井尻ほか、1955)を含む試料、秩父帯では付加体を特徴づけるメランジュ中の基質部の泥岩を採取し、光学顕微鏡観察、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査型X線顕微鏡(XGT)分析、室内透水試験などを実施した。
2.新第三紀付加体
神奈川県三浦半島南端に露出する三浦層群三崎層中には面なし断層が網目状に普遍的に発達する。昨年度までの検討において、観察対象とした面なし断層の断層部では母岩の細粒化はあるものの、元素分布にはほとんど変化が観察されないことがSEM観察およびXGT観察により確認された(竹内ほか2018)。今回、SEM画像を用いて母岩部と断層部の空隙率を測定した。測定は村上ほか(2008)を参考に、画像処理により空隙と鉱物で二値化した後に空隙の面積率を測定した。300倍に拡大した画像観察において複数個所で測定した結果、断層部の空隙率の平均値は約1.2%、母岩部のそれは約2.7%となり、断層部が低い値を示すことが判明した。また、室内透水試験(変水位透水試験)において、面なし断層に直交する方向と面なし断層を含まない試料の透水係数を算出した結果、前者では約6E-9 (m/s)、後者では2E-8 (m/s)の値が得られたことから、面なし断層を含む岩盤が透水異方性を有することが明らかとなった。以上の結果から、網目状に発達した面なし断層を含む新第三紀堆積岩においては、断層で囲まれた領域内で物質移行の遅延効果が期待される。
3.先新第三紀付加体
泥岩試料の薄片観察の結果、せん断運動に伴う鱗片状へき開が観察された。また、XGT分析の結果、へき開沿いにFeの濃集が確認された。へき開を横断する方向のFeの濃度(XGTのカウント数)は、へき開部にほぼ限定されており、周辺母岩側への拡散は認められなかった。ただし、このFeの変質は、最近の地表付近での地下水による汚染の可能性も否定できない。室内透水試験(変水位透水試験)により、へき開面に直交する方向と平行な方向の透水係数を算出した結果、へき開面に平行な方向では約4E-8 (m/s)、直交方向のそれは約2.5E-8 (m/s)の値を示した。このことから、泥岩基質部には若干の透水異方性が存在することが推定される。透水異方性に大きな差が認められないのは、鱗片状へき開のへき開面が湾曲していることや、地表部での風化により、深部の新鮮な試料と比較して開口していることなどが考えられる。以上の結果から、泥岩基質部中のへき開面は物質移行上の選択的な移行経路となり得るものと考えられる。
4.まとめ
新第三系付加体に発達する面なし断層および先新第三系付加体に発達する鱗片状へき開を対象として地質試料の観察、各種顕微鏡観察、室内透水試験などにより、物質移行上の特性として以下の知見を得た。
・新第三紀付加体中に発達する面なし断層は、母岩が細粒化し、明瞭な透水異方性を示すことから、物質移行上のバリアとなることが期待される。
・先新第三紀付加体中に発達する鱗片状へき開は、透水異方性は弱く、へき開面が選択的な物質移行上の経路となり得る。
以上の結果を踏まえて、新旧付加体中の不連続構造における物質移行上の特性を示す概念モデルを構築した。今後は、より新鮮な試料を用いた検討により、物質移行概念モデルを適切に改良する予定である。