日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] 原子力と地球惑星科学

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 101 (1F)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、座長:竹内 真司

10:45 〜 11:00

[HCG31-07] 地層処分における地下施設の閉鎖後モニタリングの留意点

*村上 裕晃1渡辺 勇輔1福田 健二1岩月 輝希1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:地下水、地下施設の閉鎖、モニタリング

高レベル放射性廃棄物の地層処分では、施設閉鎖後に地質環境が初期状態に回復することを前提として安全評価が行われる。これまで、大規模地下施設の建設に伴い形成される掘削擾乱領域(Excavation disturbed Zone; EdZ)を対象に、水圧・水質の擾乱の程度や地質構造との関連性、操業期間中におけるその範囲の拡大などが研究されてきた。一方で、実際の地下環境における施設閉鎖後のEdZの回復に関する研究事例は、国内外において極めて少ない。この知見を得るためには、地下施設の建設前から閉鎖後まで継続して地下水モニタリングを行うことが一つの手段である。我々は、これまで瑞浪超深地層研究所(以下「瑞浪URL」)の建設前から操業中の地下水の水圧・水質変化に関するデータを取得してきた。それらの知見に基づき、地下施設の閉鎖後にモニタリングを実施する場合の留意点について検討したので、その結果を報告する。
検討に用いたデータは、瑞浪URLの深度500mの立坑に20~30m間隔で設置された集水リングの地下水(以下「立坑湧水」)の水質データと、瑞浪URLの立坑から約50m離れた地点に堆積岩から基盤花崗岩にかけて掘削されたボーリング孔(MSB-2号孔)の地下水の水質データである。これらの水質データの経時変化とその原因や地質・地質構造との関連性について検討した。なお、瑞浪URL周辺では、地下深部に相対的にCl濃度の高い地下水(以下「高Cl地下水」)が、地表付近では相対的にCl濃度の低い地下水(以下「低Cl地下水」)が分布している(Iwatsuki et al., 2005)。また、瑞浪URLの立坑湧水のCl濃度の変化から、立坑の掘削深度が深くなるにつれて深部から高Cl地下水が湧昇してきていることが明らかになっている(水野ほか, 2008)。
MSB-2号孔では、堆積岩中と花崗岩中で地下水の水質変化の傾向が異なる。礫岩層中の地下水のCl濃度は、立坑の掘削が当該深度に達してから数年間は低下傾向を示した。立坑の掘削により当該深度にあった高Cl地下水が排水され、上位から低Cl地下水が供給されたと考えられる。Cl濃度は、その後の数年間は一時的に上昇したが、現在は再び低下して礫岩層中の立坑湧水のCl濃度と同程度となっている。このことから、礫岩層中の地下水は、一時的に湧昇してきた深部の高Cl地下水の影響を受けたものの、立坑の掘削面がより深部へ移動するにしたがって当該深度における湧昇の勢いが弱まり、再び低Cl地下水によって希釈されたと推測される。一方、土岐花崗岩中の地下水のCl濃度は、立坑の掘削が当該深度に達した際に大きく低下したが、その後は約10年間かけて緩やかに上昇している。このことから、土岐花崗岩中の地下水は、初期は低Cl地下水によって希釈されたが、その後は深部から湧昇する高Cl地下水の影響を受け続けていると考えられる。
これらの結果は、水質分布が地質によって異なることに加えて、各深度の地下水の供給源が時間とともに変化していることを示す。これらの変化が認められた地点では、地下施設閉鎖後の水圧回復に伴い、再び地下水の供給源が変化すると予想できる。つまり、施設閉鎖後の地下水環境の回復過程を把握するためには、本研究で対象とした礫岩層のように地下水の供給源が変化している地点を選び、その分布範囲を把握した上で閉鎖後モニタリングを行うことが重要であると言える。逆説的に言えば、本研究で対象とした土岐花崗岩中の地下水のように地下水の供給源が大きく変化しない地点は、閉鎖後モニタリング地点としての重要性は低いと考えられる。
文献:Iwatsuki et al. (2005) App. Geochem., 20, 2283-2302. 水野ほか (2008) 日本原子力学会和文論文誌, 12, 89-102.