日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] 原子力と地球惑星科学

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 101 (1F)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、座長:竹内 真司

11:45 〜 12:00

[HCG31-11] 埼玉県における「科学的特性マップ」の問題点と高レベル放射性廃棄物(HLW)の保管方法

*関根 一昭1末永 和幸2小林 忠夫 (1.埼玉県立秩父高等学校、2.末永環境地質調査事務所)

キーワード:科学的特性マップ、関東平野北西縁断層帯、地下水、保管方法

2017年に資源エネルギー庁から「科学的特性マップ」が公表された.地層処分に対して適地および不適地に関する候補地が色別に示されている.埼玉県では,北西端から南東方向に延びる線状の黄色で示された部分が最も顕著な不適地である.ほかに南東端の一部に掘削可能性のある地域等の不適切な地域が存在する.上記外の地域はおおむね適地とされている.

 埼玉県の北部には関東平野北西縁断層帯が走る.主なものは深谷断層に代表される断層帯と綾瀬川断層に代表される断層帯である.この断層帯は次のように評価されている.傾斜は50°~70°の南西傾斜(深さ500m以浅),幅は20~25㎞程度,南西側隆起の逆断層,平均的なずれの速度は20~40㎝/ 1000年,過去の活動時期は約6200年前以降,約2500年前以前,1回のずれの量は5~6m程度(上下成分),平均活動間隔は1万3000~3万年程度,予想される地震の規模はマグニチュード8.0程度,今後300年以内の地震発生確率は0~0.1%である(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2005).

 深谷断層系の長さは約80㎞とされているので(杉山,2000),「科学的特性マップ」の活断層に関わる不適地の基準が断層の長さの100分の1(NUMO, 2017)に従えば,不適地の幅は800mとなる.活断層の傾斜が50°という可能性があり,水平的広がりがあることを考えれば,線状部分外の地域が適地に分類されていることは妥当な結論とは言えない.

 深谷断層および綾瀬川断層が起震断層として引き起こす地震は,一括して関東平野北西縁断層地震として扱われる.本地震における破壊開始点が北・中央・南の3地点にある場合が想定され,それぞれ震源の深さは北が約19㎞,中央と南が約17㎞とされている.たとえば破壊点が北の場合は,震源の破壊形態を同心円状破壊とすると吉見町・川島町を中心とした地域および本庄市,美里町を中心とした地域で震度7が分布し,断層周辺に震度6強,県内広域で震度6弱となる地域が分布すると想定されている(埼玉県,2014,2015).北・中央・南のいずれの破壊点であっても,震度7・震度6強・震度6弱の強い揺れが,「科学的特性マップ」で示された黄色に塗色された部分を大きく超えて分布する.断層の南西側に傾斜する活断層の地下17~19㎞に震源があるとすれば,広域において強い揺れの地域が分布する可能性は高い.

 地層処分された高レベル放射性廃棄物が十分に低い状態になるためには,数万~10万年の時間が必要と考えられている.その間に活断層が存在する活発な地域においては,新たな活断層が生じる可能性があり,それが直接地層処分場を貫き廃棄物および廃棄物貯蔵システムを破壊することも否定できない.漏洩した放射性物質が地下水の移動に伴い地上を含む人間環境に影響を与える可能性についても想定されている(NUMO,2018).

 放射性廃棄物の地層処分に関して,地下水流動が最も重要な要件(IAEA,1977)であることが指摘されているにもかかわらず,「科学的特性マップ」においてはそのことが反映されていない.地下深部での地下水流動はほとんどないという説明(NUMO,2018等)があるが,関東地下水盆の深層において地下水流動が認められ,埼玉県北東部には関東平野における地下水の流出域があると想定されている(宮越ほか,2003;丸井,2014).

しかしながら,地下水の挙動を正確に把握する方法については十分な知見が蓄積されているとは言い難く,福島第一原発の汚染水問題に見るように,わずか数10mの深度における地下水の挙動でさえ正確に把握できていない(柴崎, 2018;末永, 2018).「科学的特性マップ」における適不適の分類を行うためには地下水に対する視点にいっそうの重点を置く必要があると考える.その際,地域地質を考慮することが極めて重要であり,過去に蓄積されてきた水文学や水理地質学の研究成果を反映させる必要がある(伊藤,2018など).「科学的特性マップ」における問題点を解決し,十分な理解と住民への安全性への信頼を得られるまでの暫定的な地上保管等(学術会議, 2012),さらには継続的な地上保管等も含めて地層処分以外の選択肢も検討するべきであると考えられる.