日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG32] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:清家 弘治

14:50 〜 15:05

[HCG32-04] 石英粒子の形状と表面構造を利用した後背地推定のための検討

*板宮 裕実1杉田 律子1須貝 俊彦2 (1.科学警察研究所、2.東京大学大学院)

キーワード:石英、電子顕微鏡、画像解析、表面形態、フラクタル次元

石英は風化に強く保存性が高いため、粒子の表面には粒子の運搬過程や堆積環境を反映した微細形態が残されている。1970年代頃から走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて粒子表面の観察が行われており、運搬過程や堆積環境との関係が調べられている(Krinsley et al. 1973; Mahaney, 2002)。石英粒子の表面形態を観察し、堆積物の後背地を推定する研究は、ヨーロッパをはじめとする安定陸塊での事例が多数である。粒子の表面形態は主に機械的及び化学的作用から形成されるため、地形や地質の異なる地域では観察される形態的特徴やその出現頻度が異なる可能性があるが、日本のような地域における表面形態の多様性に関しては知見が不足している。本国で石英の表面形態の解析を後背地の推定に利用するためには、我が国の自然環境の理解に基づいた試料収集による知見の蓄積が必要と考えた。そこで、本研究では河川及び海岸の砂試料に含まれる石英を観察し、観察結果について画像解析や多変量解析を用いた評価法を検討した。

実験には、日本国内より採取した河床堆積物(3河川19試料)および海岸堆積物(5地域19試料)を用いた。河床堆積物は川底の砂を、海岸堆積物は潮間帯または後浜から砂を採取した。試料は脱炭酸、脱鉄および有機物分解を行った後、実体顕微鏡下で粒径0.1~1 mmの石英を選別し、30秒×2回白金蒸着を行った。観察には走査型電子顕微鏡JSM-6610LV(日本電子社製)を用い、加速電圧25 kVの高真空モードで1試料につき20粒の二次電子像を取得した。
石英粒子の形状評価には、粒子全体を写した1280×960ピクセルのSEM画像とImageJを用い、粒子の丸さ(Takashimizu et al. 2016)と、粒子の凹凸を表す指標としてフラクタル次元を算出した(鈴木, 2013)。石英粒子の表面の観察は、倍率を約100~10,000倍とし、先行研究(Vos et al. 2014)の形態分類表に基づき15種類の微細形態に着目して行った。各微細形態を有する粒子の割合を「形態の出現頻度」として算出した。観察結果は、統計解析ソフトの「エクセル統計」(社会情報サービス社製)を用い、SEMで観察した微細形態の出現頻度を変数として主成分分析(PCA)を行った。

河床堆積物では凹凸のある石英粒子が多く観察され、その外形は上流から下流にかけて大きな変化は見られなかった。粒子の表面には、貝殻状の断口、V字型の衝突痕、階段状の構造などの微細形態が確認された。いずれの微細形態も、水中での高いエネルギー環境下における粒子同士の衝突により形成されたと考えられた(Vos et al. 2014)。また石英内部の包有物に由来すると考えられる直径約数μmの微細な孔については、上流側と下流側で出現頻度が異なる河川があった。微細孔の出現頻度の違いは、粒子の生成環境、すなわち母岩の違いを表していると示唆されたため、河川の上流と下流で由来の異なる石英を観察している可能性が考えられた。
海岸堆積物では凹凸の少ない粒子が多い傾向にあったが、一部地域では河床堆積物に類似した形状の粒子が観察された。表面の形態は、水中での粒子同士の衝突により形成されるV字衝突痕の出現頻度に試料間で差が見られ(Krinsley et al. 1973)、河川からの土砂供給の影響が小さいと考えられる海岸では比較的高い出現頻度を示した。海岸までの運搬過程や堆積環境が試料採取地によって異なるため、多様な形の石英が認められたと考えられた。
表面形態の出現頻度を利用したPCAでは、河川3流域、海岸5地域それぞれでグルーピングが可能であった。PCAの第一主成分は化学的な作用で形成される形態が、第二主成分は機械的な作用による形態が主に寄与していた。本手法は試料の類似性を調べるのに有効な手法と考えられた。
石英の形状および表面形態は採取地域ごとに多様性が見られ、石英を利用した後背地の推定は本国でも有用であると示唆された。石英の表面形態は、先行研究で報告されている種類の形態がおよそ観察されたものの、出現頻度が少ない形態もあるため、観察結果の考察は我が国の自然環境の理解に基づいて行う必要があると考えられた。
(Krinsley et al, Cambridge University Press, 1973: Mahaney, Oxford University Press, 2002: Takashimizu et al. Prog. Earth Planet Sci., 2016, 3:2: 鈴木ほか, 地質学雑誌, 2013, 119, 205-216: Vos et al. Earth-Science Reviews, 128, 93-104)