日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 原子力災害被災地おける農業再生と風評被害払拭のための教育研究

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 202 (2F)

コンビーナ:溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、座長:溝口 勝(東京大学)、登尾 浩助(明治大学農学部)

16:00 〜 16:15

[HCG34-03] 土壌分画別セシウム吸収による作物毎の違い

*二瓶 直登1大前 芳美1古川 真1吉田 修一郎1 (1.東京大学大学院農学生命科学研究科)

キーワード:放射性セシウム、土壌分画、ダイズ

福島第一原子力発電所事故に伴い広範囲に放射性セシウム(137Cs)が降下した.137Csの土壌中での存在形態には,作物が吸収利用しやすいと考えられている土壌分画(イオン交換態や有機物に吸着,f1分画と定義) と,作物が吸収利用しにくいと考えられる土壌分画(強酸抽出とフッ化水素酸による全分解成分,f2分画と定義)がある.どの土壌分画からどれだけ137Csを吸収するかが分かれば,作物のCs吸収特性を把握することができる.しかし,これまで土壌分画ごとの137Cs吸収量を示す手法の研究報告はない.そこで本研究では,作物の137Csを吸収する土壌分画を把握するために,天然に存在する安定同位体セシウム(133Cs)も調査することにより,各土壌分画からの移行係数(TFf1とTFf2と定義)を求めることで,作物中の各土壌分画由来の吸収割合(λ1とλ2と定義)と濃度を求めた.

ダイズ,ソバ,イネの3品目を,福島県水田土壌の除染による表土剥ぎによって得られた汚染土壌(137Cs約22 kBq/kg,133Cs約3.4 mg/kg)を用いてポットで30日間栽培し,地上部の133Csと137Cs濃度を測定した.栽培後の土壌を逐次抽出(酢酸アンモニウム抽出,過酸化水素分解,硝酸分解,フッ化水素酸による全分解)し,各土壌分画に含まれる133Csと137Cs濃度を測定した.計算の簡素化のため,土壌分画はf1(酢酸アンモニウム抽出,過酸化水素分解)とf2(硝酸分解,フッ化水素酸による全分解)の2分画に設定した.133Csの測定は,ICP質量分析装置(パーキンエルマー, NexION350S),137Csの測定はNaIシンチレーションカウンター(パーキンエルマー,Wizard)によって測定した.作物が吸収した各土壌分画量の判断は, 133Cf1×TFf1133Cf2×TFf2 = 133C作物, 137Cf1×TFf1137Cf2×TFf2 = 137C作物 によって算出した.ここでCf1またはCf2 はf1分画またはf2分画に存在する土壌のCs濃度,TFf1またはTFf2はf1分画またはf2分画土壌から作物へのCs移行係数,C作物は作物のCs濃度を示す.
作物によってTFf1とTFf2は異なり,ダイズはf2分画からの吸収がソバよりも高かった.作物の137Cs吸収のうちf1分画からは,ダイズは66 %,ソバは89 %,イネは76 %となり作物間差が確認された.さらに,カリウム施肥によるCs吸収抑制効果が,作物によって異なることが示された.また,作物の吸収特性を知る指標として137Cs/133Cs比を考案し,作物中の137Csと133Csを測定するだけで作物間の吸収能力差を判定した.これら各指標を考案・定義することで,作物の吸収能力を把握することを可能とした.