日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS13] 津波とその予測

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、対馬 弘晃(気象庁)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:南 雅晃(気象研究所)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[HDS13-07] S-net水圧データを活用した津波遡上即時予測システム

*鈴木 亘1近貞 直孝1三好 崇之1青井 真1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:津波、遡上、即時予測、S-net

防災科学技術研究所(防災科研)では、東日本太平洋沖合に設置された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の水圧データを活用して、陸域への津波浸水まで予測する津波遡上即時予測システムの開発を進めてきた(Aoi et al., 2019, JDR)。このシステムの予測手法は、事前に計算した津波シナリオバンク(近貞・他, 2019, 防災科研研究資料)からMulti-index法(Yamamoto et al., 2016, EPS)に基づくシナリオ検索(Multi-index検索)を基本として、実際のS-net水圧観測データの性質に基づく処理、付加情報の活用による予測精度向上や地域ごとに適した予測のための多種の予測情報作成、シナリオ検索によらない津波警戒状態判定など、様々な機能を組み合わせている。本発表ではそれらの機能の概要を中心に、開発した津波遡上即時予測システムの紹介を行う。

S-net水圧観測データについては、陸上局からEarthLANを通じて配信され防災科研の2つの棟で受信したものに対して品質確認と欠損処理を行うことで、予測システムの基本的な冗長性と安定性を確保した。この水圧データをオフセット処理し、津波成分を抽出するための120秒~1,800秒のバンドパスフィルタを適用してMulti-index検索に用いる。台風等により波が高い際には海底水圧データの振幅も大きくなり、津波シナリオが選別されてしまう場合があったため、非津波時の水圧振幅の分析に基づく閾値(5 cm相当、水深が浅い観測点では10 cm相当)をいずれか1観測点以上が越えなければ予測としない設定としている。また作業等の影響により1点のみ大きなノイズが発生した場合でも、他の観測点では津波現象に合致しないことを判定することにより、予測としない機能を有する。

Multi-index検索により選別されたシナリオ群から作成する沿岸波高分布及び陸域浸水深分布等の予測情報として、シナリオ群の最大値、シナリオ群の平均値及び沖合での観測と計算の一致度が最も高いシナリオのデータを出力することができる。予測のばらつきを示すため、選別されたシナリオ群の標準偏差の計算や、沿岸波高分布については選別された全シナリオを重ねて描画することが可能である。また付加的な情報として震源情報を用いてS-net観測網端や観測網外で発生した津波の予測精度向上を図るため、Multi-index検索による選別シナリオ群から震央及び発生時が近いシナリオ群への絞り込みを実施した上で予測情報を生成することもできる。Multi-index検索では S-netデータ全体について観測データを説明するシナリオ群を選別するが、ある地域の予測に強く影響する観測点は地域ごとに異なり、異なる地域に対してはMulti-index検索で選別されたシナリオ群の中で異なるシナリオがそれぞれ最適な予測となる可能性がある。これを踏まえて地域ごとに設定した代表地点における浸水深を、津波シナリオバンクのデータに基づくニューラルネットワーク回帰により予測し、この予測浸水深に最も近い分布を持つMulti-index検索シナリオを予測とするシナリオ二段階選別の機能も構築した。これらの津波シナリオバンクに基づく予測に加えて、S-net観測データが大きく変動していることを検知し津波の警戒を行うべき状態であることを判定する機能や、気象庁による津波警報・注意報の情報が発表されていることを確認できる機能も備えている。予測システムでは千葉県九十九里・外房沿岸地域に対しては10 m格子の地形モデルを用いた詳細な遡上までの予測情報を出力することができ、茨城県~北海道のS-net沿岸地域に対しては概観的な予測情報の出力ができる。

謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)による。