日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS13] 津波とその予測

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、対馬 弘晃(気象庁)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:南 雅晃(気象研究所)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)

10:00 〜 10:15

[HDS13-11] 中米地域に対して開発された即時津波遡上予測手法

*谷岡 勇市郎1Ulbert Grillo2Greyving Arguello2Amilcar Cabrera2 (1.北海道大学大学院理学研究科地震火山研究観測センター、2.ニカラグア国土研究所)

キーワード:即時津波遡上予測、ニカラグア、中米津波警報システム

1992年にニカラグア津波地震が発生し、その地震による津波はニカラグア太平洋沿岸に甚大な被害を及ぼした。その後中米では1992ニカラグア地震のような津波地震にも対応できる津波警報システムの開発が課題であった。最近になって、ユネスコの政府間海洋委員会(IOC/UNESCO)は中米津波警報センターをニカラグアに設立することを決めた。そこで、日本では日本国際協力機構(JICA)が気象庁(JMA)の協力のもと、CATACの設立を支援するための技術支援プロジェクトを実施している。本研究では、JICAの技術支援の一環として、津波地震にも対応できCATACで利用可能な津波遡上予測手法を開発した。

我々は以前、津波地震でも適切に断層モデルを推定できる手法を開発した(Tanioka et al., 2017)。中米の太平洋沖で発生した4つの大地震(1992年ニカラグア津波地震(Mw7.7)、2001年エルサルバドル地震(Mw7.7)、2004年エルアスティレロ地震(Mw7.0)、2012年エルサルバドル・ニカラグア地震(Mw7.3)に対して手法を適用し、非常に有効であることが示された。その手法は、①W-phaseインバージョンを用いて地震メカニズムを推定、②スケーリング則を利用して断層長および断層幅を推定、③Bilek and Lay (1999)に沿って、深さに依存する剛性率の関数を構築し、W-phaseインバージョンによって推定されたセントロイドの深さを関数に入れることで剛性率を決定し、矩形断層のすべり量を計算する方法だ。1992年ニカラグア津波地震に対し上記手法で決定された断層モデルから津波遡上を計算し、得られた結果を調査津波高・調査遡上高・遡上域と比較したところ良い一致を得た。他の3地震に対しても、計算結果は調査結果を良く説明できることを示した。

本研究では、上記で適切に推定された断層モデルから線形長波近似で津波を計算し、データベースを利用した近地津波遡上予測手法(Gusman et al., 2014)を高度化して用いることで、CATACでも即時津波予測の可能性を示す。まず、中米太平洋沿岸に位置する6つの地域(Gulf of Fonseca, Corinto, Puerto Sandino, El Transito, Masachapa,El Astillero)に対する津波遡上予測を実施するために、各地域・各断層モデルに対し計算された浸水分布と紐づけされた波形参照点での津波波形のデータベース構築を実施する。データベースのための断層モデルとして、沈み込み帯のプレート境界に沿ってMw7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2の断層を配置し津波遡上計算を実施した。結果として全体で136の断層モデルによるデータベースとなった。本手法では即時的に線形長波近似で計算される参照的での津波波形とデータベースに格納された津波波形を比較し、最も波形を良く説明できるモデルによる計算津波浸水分布を、最適津波予測浸水分布とする。この手法を1992年ニカラグア津波地震に適応した。断層モデルはW-phaseインバージョン結果とスケーリング則により前述の手法で推定されたモデルを用いる。前述のようにすべり量は深さに依存する剛性率から計算されている。本手法による津波浸水予測の結果は調査津波高・遡上高・浸水域ともに比較的良く説明できることが分かった。つまり、本研究により開発された手法はCATACの津波早期警報スステムに有効であることが示された。