日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS13] 津波とその予測

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、対馬 弘晃(気象庁)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS13-P10] 津波シミュレータTNSの開発とVersion1.0の公開

*三好 崇之1鈴木 亘1近貞 直孝1青井 真1赤木 翔2早川 俊彦2 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.三菱スペース・ソフトウエア株式会社)

キーワード:津波、浸水、差分法、ネスティング格子、GPU

津波は,海底地殻変動などによって海水に擾乱が生じて,重力を復元力として周囲の海域に伝播し,しばしば陸域に遡上する自然現象である.防災科学技術研究所(以下,防災科研)では,遡上までを含めた津波現象を差分法による数値計算によってコンピュータ上で迅速に実施できるソフトウェアの開発を進めてきた(三好・他, 2018 JpGU).ソフトウェアの名称は,津波シミュレータ(TNS: TsuNami Simulator)である.

 TNSは,CPU版とGPU版で開発を進め,CPU版の主たる計算コードはFortran 90でプログラム群の開発を行い,GPU版はCUDA7.5に準拠してCUDA Cで開発を行った.計算コードは,基本的にはTUNAMI-N2(Imamura et al., 2006)と同等の実装をしており,Cartesian座標系において,空間格子幅の比を1:3とするネスティング格子を用いた二次元非線形長波理論に基づく津波伝播・遡上計算が実施可能である.初期水位は,地殻変動計算プログラムDC3D(Okada, 1992 BSSA)を用いて,設定した震源断層面に対して半無限媒質での地殻変動を計算する.水平変動(Tanioka and Satake, 1996 GRL)や,Kajiura(1963, BERI)による水理フィルタも適用可能である.沖側は透過境界(Imamura et al., 2006)および吸収領域(例えば,Clayton et al., 1977 BSSA)を設け,陸側は遡上境界(小谷ほか, 1998 海岸工学論文集)を設定できる.遠地津波に対しては,球座標系を導入し,浸水計算を含む近地においてCartesian座標に接続した.球座標の計算では,転向力や分散効果などの従来の定式化に加えて,荷重効果(Inazu and Saito, 2013 EPS)を考慮できるようにした.

 データベース検索型の津波遡上即時予測では,大量の津波シナリオが必要である.TNS開発版から,津波シナリオバンクの構築に必要な部分をパッケージ化し,TNS Version1.0として公開した(三好・他, 2019 防災科研研究資料).ユーザは研究者,技術者,自治体の防災担当者を想定しており,一般的なLinux環境のもとで計算が可能なようにした.パッケージには,操作手引書,Linuxでコンパイル済みの実行ファイル,例題と入力ファイル設定例を含めた.また,内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」で用いられた地形データなどをTNS Version1.0に適用できるツールも含めた.ソルバーは,CPUによる逐次計算に加えて,Open MPによるスレッド並列,GPGPUによる計算に対応し,計算の高速化を実現した.

 謝辞:本研究の一部は,総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)による.