11:30 〜 11:45
[HDS14-04] 伊豆大島南西部における地質時代の斜面崩壊
キーワード:斜面崩壊、ローム、伊豆大島
1.はじめに
湿潤変動帯に位置する日本列島においては斜面崩壊が頻繁に発生し,時に甚大な災害をひきおこす.崩壊発生の素因と誘因には多数の組み合わせがある.そのうち未固結な火山砕屑物分布域における地震動による流動性地すべりとして,2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)や2018年北海道胆振東部地震(M6.7)の際に発生した事例があげられる.
一般に未固結な火山砕屑物とは,火山の爆発的噴火によりもたらされる降下火砕物とそれを含む風成堆積物であり,いわゆる「ローム(層)」とよばれ日本列島各地に分布する.小起伏な丘陵・山地でありロームが厚く堆積している地域は流動性地すべりの発生頻度が高いことが予想される.
このようなロームが顕著に堆積する地域として阿蘇カルデラ東側,富士山東側,伊豆大島などがあげられる.これら地域ではローム中に複数の不整合(斜交ともよばれる)が存在することが知られている.かつてはこの不整合を海面変動や地殻変動,火山活動などと関連させる見方があった(上杉ほか,1983など).しかしロームの編年研究が日本各地で進み,上記の諸現象から不整合を説明することは困難であるように思われる.
本研究では不整合を流動性地すべりに起因(ただし地震動によるものかそれ以外の誘因かは判断困難)すると考え,その層準解明により地すべりの頻度や発生の地学的条件を明らかにすることを試みる.その一つの事例として伊豆大島の地層大切断面を検討対象とした.その理由は不整合の形成を精度よく復元するために都合のよい降下火砕物が極めて多数存在するからである.
2.地層大切断面の概要と研究手法
地層大切断面は伊豆大島南西部の都道路沿いにあり,長さ600 m以上高さ約20 mにわたる,多数の降下火砕物を含むロームの連続露頭である.降下火砕物は緩やかな丘陵状の地形を覆うため波うつようにみえる.川辺(1998)によればこれらの大半は先カルデラ火山新期山体(約20 ka以降)を構成するものであり,約100の部層からなる.本露頭を詳細に記載した上杉ほか(1994)によれば少なくとも127(上位からO1-95,Osb96-127)以上の部層からなり下限は25 kaを遡り,また露頭の上部には新期大島層群(約1.8 ka以降;川辺,2012)も部分的に露出するとされている.
不整合の実体を把握するため降下火砕物の年代を正確に把握することに努めた.上杉ほか(1994)では未較正の14-13 kaを示す放射性炭素年代測定値をもとに噴火頻度が一定であったという仮定にもとづき降下火砕物の年代を求めており充分な精度がない.本研究では火山灰土に含まれる腐植を対象に,O55の上位,下位それぞれ9,16層準で放射性炭素年代測定を実施した.得られた最も古い年代値は測定O95の4 m下の18,598-18,287 cal BPである.また本露頭の重要指標層であるO95とO55の年代はそれぞれ16-17 ka,11-12 ka,このほかK-Ah (7307-7196 cal yrs BP; McLean et al., 2018)を検出し,露出する降下火砕物の信頼性の高い年代値が得られた.
3.認定された不整合の数と年代
大切断面をWest,Middle,Eastに分けた.それぞれで顕著な不整合面を識別してそれらを側方に欠落のない箇所まで追跡し層位を検討してそれぞれ上位から1,2と番号をふった.全体を通して上位から指標層とあわせて記すと,E-1,C-1,O55(11-12 ka),C-2,W-1,E-2,O95(16-17 ka),E-3となるが,E-1とC-1,およびC-2とW-1とE-2の組合せはそれぞれ上下関係が不明確で同層準になる可能性もある.最大で19-1.8 kaの17000年間で6回の不整合(流動性地すべり)が形成されたことになる.また,11-19 ka間の約8000年間にそれ以降よりも高頻度で不整合が形成されていた可能性がある.
本研究は京都大学防災研究所一般共同研究(H29〜30年)「火山灰地域における地震時流動性地すべりのカタログ作成と崩壊ハザードマップ」(課題番号29G-07)により実施した.ここに記して深く感謝いたします.
引用文献
川辺(1998)伊豆大島火山地質図. 川辺(2012)地質調査研究報告, 63, 83-289. McLean et al. (2018) Quaternary Science Reviews, 183, 36-58. 上杉ほか(1983)アーバンクボタ, 21, 2-17.上杉ほか(1994)第四紀研究, 3, 165-187.
湿潤変動帯に位置する日本列島においては斜面崩壊が頻繁に発生し,時に甚大な災害をひきおこす.崩壊発生の素因と誘因には多数の組み合わせがある.そのうち未固結な火山砕屑物分布域における地震動による流動性地すべりとして,2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)や2018年北海道胆振東部地震(M6.7)の際に発生した事例があげられる.
一般に未固結な火山砕屑物とは,火山の爆発的噴火によりもたらされる降下火砕物とそれを含む風成堆積物であり,いわゆる「ローム(層)」とよばれ日本列島各地に分布する.小起伏な丘陵・山地でありロームが厚く堆積している地域は流動性地すべりの発生頻度が高いことが予想される.
このようなロームが顕著に堆積する地域として阿蘇カルデラ東側,富士山東側,伊豆大島などがあげられる.これら地域ではローム中に複数の不整合(斜交ともよばれる)が存在することが知られている.かつてはこの不整合を海面変動や地殻変動,火山活動などと関連させる見方があった(上杉ほか,1983など).しかしロームの編年研究が日本各地で進み,上記の諸現象から不整合を説明することは困難であるように思われる.
本研究では不整合を流動性地すべりに起因(ただし地震動によるものかそれ以外の誘因かは判断困難)すると考え,その層準解明により地すべりの頻度や発生の地学的条件を明らかにすることを試みる.その一つの事例として伊豆大島の地層大切断面を検討対象とした.その理由は不整合の形成を精度よく復元するために都合のよい降下火砕物が極めて多数存在するからである.
2.地層大切断面の概要と研究手法
地層大切断面は伊豆大島南西部の都道路沿いにあり,長さ600 m以上高さ約20 mにわたる,多数の降下火砕物を含むロームの連続露頭である.降下火砕物は緩やかな丘陵状の地形を覆うため波うつようにみえる.川辺(1998)によればこれらの大半は先カルデラ火山新期山体(約20 ka以降)を構成するものであり,約100の部層からなる.本露頭を詳細に記載した上杉ほか(1994)によれば少なくとも127(上位からO1-95,Osb96-127)以上の部層からなり下限は25 kaを遡り,また露頭の上部には新期大島層群(約1.8 ka以降;川辺,2012)も部分的に露出するとされている.
不整合の実体を把握するため降下火砕物の年代を正確に把握することに努めた.上杉ほか(1994)では未較正の14-13 kaを示す放射性炭素年代測定値をもとに噴火頻度が一定であったという仮定にもとづき降下火砕物の年代を求めており充分な精度がない.本研究では火山灰土に含まれる腐植を対象に,O55の上位,下位それぞれ9,16層準で放射性炭素年代測定を実施した.得られた最も古い年代値は測定O95の4 m下の18,598-18,287 cal BPである.また本露頭の重要指標層であるO95とO55の年代はそれぞれ16-17 ka,11-12 ka,このほかK-Ah (7307-7196 cal yrs BP; McLean et al., 2018)を検出し,露出する降下火砕物の信頼性の高い年代値が得られた.
3.認定された不整合の数と年代
大切断面をWest,Middle,Eastに分けた.それぞれで顕著な不整合面を識別してそれらを側方に欠落のない箇所まで追跡し層位を検討してそれぞれ上位から1,2と番号をふった.全体を通して上位から指標層とあわせて記すと,E-1,C-1,O55(11-12 ka),C-2,W-1,E-2,O95(16-17 ka),E-3となるが,E-1とC-1,およびC-2とW-1とE-2の組合せはそれぞれ上下関係が不明確で同層準になる可能性もある.最大で19-1.8 kaの17000年間で6回の不整合(流動性地すべり)が形成されたことになる.また,11-19 ka間の約8000年間にそれ以降よりも高頻度で不整合が形成されていた可能性がある.
本研究は京都大学防災研究所一般共同研究(H29〜30年)「火山灰地域における地震時流動性地すべりのカタログ作成と崩壊ハザードマップ」(課題番号29G-07)により実施した.ここに記して深く感謝いたします.
引用文献
川辺(1998)伊豆大島火山地質図. 川辺(2012)地質調査研究報告, 63, 83-289. McLean et al. (2018) Quaternary Science Reviews, 183, 36-58. 上杉ほか(1983)アーバンクボタ, 21, 2-17.上杉ほか(1994)第四紀研究, 3, 165-187.