日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 106 (1F)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

14:00 〜 14:15

[HDS15-02] 2018年北海道胆振東部地震に伴い変動した谷埋め盛土造成地の分布形態

*中埜 貴元1藤原 智1宇根 寛1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:2018年北海道胆振東部地震、谷埋め盛土、SfM-MVS、干渉SAR

1.はじめに
 2018年9月6日に発生した2018年北海道胆振東部地震(M6.7)においては、山間地や丘陵地において斜面崩壊が多発し、甚大な被害が生じた(砂防学会,2018など)。併せて、札幌市清田区を中心とした谷埋め盛土造成地においても液状化等を起因とする盛土の流動現象が生じ、宅地や社会インフラに甚大な被害が生じた(地盤工学会・土木学会,2018など)。この谷埋め盛土の変動現象を議論するためには、盛土分布とその形状を知る必要があるが、国土交通省の「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン」に基づいて作成されたと考えられる既往の盛土分布図では、基準面積(3,000m2)以上のものも省略されており、詳細な分布は明らかにされていなかった。そこで、造成前の空中写真からSfM-MVS技術によりDSMを作成し、フィルタリング処理により擬似的なDEMとして用い、造成後のDEMと差分をとることで谷埋め盛土造成地の分布形態を明らかにした。また、地表変位を検出可能な干渉SARの結果から、当該地区の変位分布を抽出し、谷埋め盛土分布と比較した。本発表ではこれらの結果を報告する。

2.対象地区と手法
 谷埋め盛土造成地の分布図作成は、札幌市清田区と厚真町の地盤災害発生区域周辺を対象に実施した。造成前のDSM作成に用いた空中写真はそれぞれ国土地理院が1960年代と1970年代に撮影した空中写真である。空中写真はいずれも44枚使用した。DSMの生成にはAgisoft製Metashape Professional (旧PhotoScan)を用い、DSMのフィルタリング処理は中埜(2017)に従い、一定領域内の最低値を取得する方法を採用した。SfM処理においては、造成前後で変化のない地点にそれぞれ35点、20点のGCPを配置した。造成後のDEMは基盤地図情報5mDEMを用いた。
 SAR干渉画像は、JAXAのだいち2号(ALOS-2)のデータを用いて国土地理院が解析したもののうち、2018年8月23日と2018年9月6日のペアによる干渉画像を用いた。

3.結果と考察
 札幌市清田区周辺では、既往の盛土分布図よりも複雑に入り組んだ樹枝状の盛土分布図が得られた。地盤被害が大きかった里塚地区では、盛土厚は最大で15m程度であった。なお、SfM処理におけるGCPの高さ方向の残差のRMSEは約1.2mであったため、盛土厚にもその程度の誤差が含まれているが、ほとんどの高さ方向の残差は0.2m以下であり、一部の箇所を除いて誤差は小さいと考えられる。この盛土分布図とSAR干渉画像を比較すると、盛土域で衛星から遠ざかる変動またはコヒーレンスが低下したことによる非干渉領域が確認できた。この非干渉領域は現地で大きな地盤被害が確認されている箇所に相当し、衛星から遠ざかる変動域では盛土のわずかな沈下または滑動的変動が生じた可能性がある。
 厚真町の造成地では最大厚が10mに満たない小規模な盛土が確認できた。SfM処理におけるGCP高さ方向の残差のRMSEは約0.8mであり、盛土厚にもこの程度の誤差が含まれている。この地点では地表の亀裂等が現地で確認されており(飯場・永井,2018など)、盛土の滑動的変動に伴う変形が生じたと考えられる。なお、この地点のSAR干渉画像は非干渉領域となっており、盛土の変動は検出できていない。

4.今後の課題
 空中写真とSfM-MVS処理及びフィルタリング処理により擬似DEMを作成することで、比較的簡易かつ迅速に盛土分布の概要を把握することができた。また、干渉SARにより発災直後の地表変動箇所検出を迅速に行える可能性が示された。ただし、擬似DEMの作成は造成前が山林地であった場合には大きな誤差を含むことになるため、注意が必要であるとともに、より効果的かつ迅速に行えるフィルタリング処理方法の検討が必要である。今回のような盛土造成地の被害を含め、地盤災害は旧地形と深く関わることから、造成前DEM等を含めた地形特性情報の整備が望まれる。最後に、本地震により被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

謝辞:だいち2号(ALOS-2)データの所有権は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にあります。このデータは、だいち2号に関する国土地理院とJAXA間の協定に基づき提供されたものです。

引用文献:
飯場・永井(2018):北海道胆振東部地震の被害調査報告書(速報) 基礎地盤関連.
地盤工学会・土木学会(2018):北海道胆振東部地震による液状化被害.
中埜(2017):科学研究費助成事業研究成果報告書,課題番号15K16288.
砂防学会(2018):平成30年北海道胆振東部地震土砂災害緊急調査団第一次調査団調査報告.