日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 106 (1F)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

14:45 〜 15:00

[HDS15-05] 南海トラフ巨大地震に関する見通しの可視化の意義と方法

*福島 洋1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:南海トラフ巨大地震、地震発生予測

地震の起こり方は多様であり、確率的な予測しかできない。将来的に、特定の地震については「◯◯の現象が観測されているので、〇日(時間)の間に、◯◯の地震が発生する可能性が極めて高い」といった確度の高い地震発生予測(地震予知)が可能となるかもしれないが、少なくとも現在の地震科学のレベルにおいては、このような地震予知の実現性は見えていない。

 現在、今後数十年以内の発生が懸念されている南海トラフ巨大地震に関して、その発生確率が相対的に高まったと評価できるような現象が観測された場合の防災対応についての検討が内閣府中央防災会議下のWG(以下、内閣府WG)を中心に進められている。史料調査や地震観測等から、南海トラフ巨大地震は100-150年程度の平均繰り返し周期を持っていること、紀伊半島沖を境にして西側と東側でわずかな時間差(数年以内)をおいて別の地震が発生する場合や両側が同時に破壊される場合があること、普段はプレート境界面での地震はあまり起こっていないこと等がわかっている。

 2018年12月に出された内閣府WGの報告書「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応のあり方について(報告)」では、このような現状を背景に、西側か東側のいずれかが破壊されるような「片割れ」地震(マグニチュード8級)の際に、もう片方の未災地が取るべき対応のあり方について重きを置いてまとめられている。規模のより小さい「一部割れ」地震(マグニチュード7級)や、巨大地震発生につながる可能性があるゆっくりすべりが観測された際の考え方についても述べられているが、いずれも、国として踏み込んだ対策の方針は示されていない。つまり、起こりうる現象は基本的に不確実であるものの、そのなかでも相対的に不確実性が小さいこと、切迫性がより大きい場合に焦点を絞って書かれている。

 根拠に乏しい現象・不確実性の大きい事象への対応は難しいという観点から、内閣府WGの考え方は妥当なものと考えられるが、一方で、甚大な被害が想定される地元の地方自治体、公共団体、企業等においては、不確実性も考慮したうえで、より高度な判断をしたいというニーズもあるであろう。実際に地震が発生しなくとも、何らかの異常な自然現象が発生すれば、それに社会が反応し、地方自治体、公共団体、企業等が特別の対応を取らねばならないケースも想定される。このようなことを考えると、これらの組織が、どのような(非定常な)自然現象が発生する可能性があって、それがどのように推移していく可能性があるのかを理解し、起こりうる社会の現象についてあらかじめ想定しておくことは有意義であろう。そのためのツールとして、火山等でも使われている事象系統樹は有効であろう。その開発にあたっては、現場と協働し、ニーズも踏まえながら進めていくことが重要であると思われる。