日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[HDS15-P09] 2014年8月豪雨で発生した広島市の土石流災害における土砂堆積量の分布特性

*内山 庄一郎1須貝 俊彦2 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.東京大学)

キーワード:土石流、2014年8月豪雨、土砂堆積量、無人航空機、SfM多視点ステレオ写真測量

1.背景
戦後の土砂災害対策は、防災施設整備による対策を中心に進められてきた。一方で、宅地開発等に伴い危険箇所は年々拡大し、それらに対する防災設備の整備完了には100年以上を要するとされる(国土交通省、2018a)。このため、防災設備のみでは土砂災害の被害防止が難しいことから、ソフトウェア対策の推進が始まった(土砂災害防止法)。しかし、2018年7月西日本豪雨災害の土砂災害による犠牲者の多くは、土砂災害警戒区域内で被災したことが指摘された(国土交通省、2018b)。これらの事実から、土砂災害リスクが高まった状況における事前避難は十分とはいえない状況が指摘できる。

2. 目的と意義
居住する土地の潜在的な危険性を認識し、被災の危険が高まった際の自律的な避難行動が行われるためには、第一に、住む場所で生じる災害とその被害の様相を、あらかじめ把握する必要がある。このように土石流のハザード・リスク情報の高度化を目指す上では、実際の災害で発生した被害の実態を詳細に明らかにする必要がある。例えば、土石流の挙動と流路上の建物や植生との関係性を理解することは、土石流被害の予測にとって重要である。そこで本研究では、2014年8月20日未明に発災した土石流により被災した、広島県広島市安佐南区の6地区を対象に、土石流による土砂堆積量の計測とその分布特性の分析を行った。

3. 手法
災害前の空中写真、および災害発生後の無人航空機撮影画像をSfM多視点ステレオ写真測量(以下、SfM)によって解析し、それぞれの時期の地表面の高さモデル(以下、DSM)を得た。次に、災害前後の2時期のDSMの差分から、地表面の高さ変化を求めた。災害前の空中写真には、2008年5月21日撮影のデジタル空中写真(国土地理院)23枚を使用し、災害後の空中写真には、発災から4日後に無人航空機で撮影した約700枚の垂直写真を使用した。GNSS測量により30地点を計測し、地上基準点として10点、精度検証点として14点を使用した。SfMにより作成したDSMおよびオルソ画像の空間分解能は、災害前がそれぞれ20 cm、災害後がそれぞれ3.5 cmとなった。DSMの精度検証の結果、14地点の精度基準点における三次元のRMSEは、26.2 cm(災害前DSM)、11.5 cm(災害後DSM)であった。地表面の高さ変化は、GISにより、2014 DSMから2008 DSMを減算して求めた。
次に、災害後のオルソ画像から土砂堆積範囲を判読し、ポリゴンデータを作成した。この時、次に述べる2時期のDSMの誤差を考慮して、また、作図上の区切りとして0.3 m以上の堆積が認められる範囲を堆積域の下限として認定した。また、土砂の堆積とは無関係な地表面変化の影響を除外するため、植生や一部の建物等について、土砂堆積範囲のポリゴンから除外した。ここでは、侵食量は計算の対象としなかった。
地表面高さ変化データのうち、土砂堆積範囲ポリゴンの内部では、正の値を持つメッシュが土砂堆積に相当する。GISにより、これらのメッシュを合計することにより土砂堆積量の合計値を求めた。この時、次のように2時期のDSMの誤差を考慮した。前項で得た各時期のRMSE(災害前26.2 cm、災害後11.5 cm)の二乗和平方根(28.6 cm)を求め、これより高さ変化が大きいメッシュのみを対象とした。
GNSS測量の機材には、二周波対応のGPS受信機であるTrimble 5800、SfMソフトウェアにはAgisoft PhotoScan Pro. 1.0.4、GISにはESRI ArcGIS for Desktop 10.2を用いた。

4. 結果
得られた結果のうち、八木3地区を図示する。中央部に落水線が近接して2本あり、約25 m幅の広い主流路となった。上下70 mの区間に分布する7棟が流失し、20名の犠牲者を生じた(A)。この並びの最下流部にある住宅では、建物の一部が形状をとどめたまま下方に移動し、2名の犠牲者を生じた。また、この住宅の並びの中間部にあったアパートが土石流により流失したが、災害前空中写真では空き地であったため、DSMの高さ変化の見かけ上は、堆積にみえた(B)。落水線上に位置する県営住宅の建物では土砂等が流れ込み、1名の犠牲者を生じた(C)。主流路に隣接する植生域のうち、流路に近い側が侵食された(D)。主流路の流下経路上に、土砂の堆積厚が薄いエリアがあった(E)。主流路の突き当りにある駐車場には、層厚2 mを超える土砂が堆積した。オルソ画像では、堆積物は泥状のテクスチャーを示した(F)。

参考文献
国土交通省 (2018a) 土砂災害防止法の概要
国土交通省 (2018b) 土砂災害警戒区域の検証