日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[HDS15-P10] 紀伊半島沿岸における津波被災後の土地利用変遷とその課題

*沖館 健太1青木 賢人2 (1.金沢大学人文学類、2.金沢大学地域創造学類)

キーワード:防災、南海トラフ地震、土地利用、地理情報システム

東日本大震災の発生や南海トラフ地震の予測の進捗を受けて、津波防災への関心が社会的に高まっている。日本列島において沿岸の低地は住民の居住域である一方、津波襲来時には浸水域ともなることから、津波防災を考える上で津波防災と土地利用を結び付けた研究は重要である。しかし、その対象地には偏りが見られ、特に南海トラフ地震の発生により甚大な被害が危惧されている地域においては研究の蓄積が不十分である。そこで本稿では、紀伊半島沿岸における防災・減災を考慮した土地利用計画策定のため、過去の津波被災後の土地利用変遷を定量的に分析し、その地域的特徴と課題を明示した。

 白浜地区、串本地区、那智湾周辺地区の3つの対象地区はいずれも昭和東南海地震(1944年)および昭和南海地震(1946年)にて津波被害を受けており、南海トラフ地震の震源域にも近い位置にある。市街地は背後に山地が迫った海岸の狭隘な平野や砂州上に形成されており、被災後は具体的な計画が示されないまま復興が行われた。

 1947年、1965年、1986年、2002年の4年代の空中写真から6つの分類に則って土地利用を判読し、QGISを用いて地理情報データを作成・解析した。また、聞き取り調査や補完として現地踏査も行った。これによって対象3地区における土地利用変遷の様相を明らかにした。

 住宅・建築物は、小規模な市街地がそれぞれ拡大・連接することで大きく増加した。その要因としては、荒地・農用地や森林・原野の転用が挙げられる。特に1947年から1965年にかけては、津波によって浸水した更地から住宅・建築物への転換が顕著であった。住宅・建築物の転用元としては森林・原野よりも荒地・農用地が多いことも分かった。1947年時点での陸地面積が少なかった串本地区では、海域の埋め立てによる住宅・建築物や荒地・農用地の増加も見られた。港湾の陸域はすべての対象地区で大幅な増加が見られ、その多くが埋め立てによるものであることが分かった。また、対象地区すべてで埋め立てによって津波浸水域が拡大し、津波浸水域内の宅地化が進行していた。年代を追うごとに宿泊施設や公共施設といった大型施設が津波浸水域内に増えていることも分かった。

 分析の結果、原地への復興、宅地の増加、荒地・農用地から住宅・建築物への転用、大規模な港湾施設の整備の4つの地域的特徴が明らかになった。これらの要因としては地形的制約や観光開発のほか、人口増加などにより住宅の需要が増大したことや漁業従事者が農業従事者より多いという対象地区の経済構造などが挙げられる。また対象地区の土地利用変遷には、海岸の平野部における高密度な宅地の立地、海域の大規模な埋め立てによる宅地や港湾施設の整備、海岸における大型建造物の林立という3つの課題があると考えられる。これらは対象地区の防災政策において重視されている避難行動を妨げる恐れがあり、現在に至るまで計画の策定がなかったことで発生したと考えられる。課題の解消には、津波に対して安全な土地利用の実現に向けた長期的な計画を策定することが急務である。