09:30 〜 09:45
[HGM04-03] 大起伏山岳流域の地形形成過程における大規模岩盤崩壊と河道閉塞および堰止湖決壊洪水の普遍性: ネパールマルシャンディ川を例として
キーワード:山地地理学、減災、堰止湖、土石流、気候変動
本研究では,大規模な岩盤崩落と,それに付随して生じる河道閉塞と堰止湖の決壊洪水が,大起伏急傾斜の斜面と急勾配の河道からなる山岳流域における地形形成過程として普遍的であることを示す.大規模崩壊に伴う河床の埋積と,閉塞部上流域での湛水,および堤体の決壊による土砂と水の流出が時空間的に頻繁に発生し,それらの痕跡が流域内に普遍的に存在していることを実証するため,典型的な山岳地形を呈するネパール中部のマルシャンディ流域を対象に,現地踏査と空間情報解析および堆積物の年代測定を行った.マルシャンディ川の中流部約100 kmの地質は,上流から中古生層,片麻岩,結晶片岩,千枚岩,スレートなどで構成されており,主中央衝上断層よりも下流側には堆積段丘が発達する.片麻岩からなる区間はゴルジュ帯を形成しており,斜面や河道には大規模崩壊の痕跡が随所に認められる.下流域の中低位段丘上には,しばしば片麻岩の巨礫が散在し,過去に大規模な土石流が生じたことを示している.宇宙線生成核種を用いた露出年代測定により,これらの土石流段丘は,完新世に複数回のイベントで形成されたことがわかった.上流域の川沿いには,湛水域に堆積したとみられる砂礫および粘土からなる一連の湖成層が認められ,その層序と分布から,過去に長さが数キロメートルで深さが数百メートルの堰止湖が,複数個所に出現したのち,決壊によって消失したことがわかった.決壊に伴って生じた土石流は,数十キロメートルを流下し,下流部の地形を一変させたものと考えられる.調査によって明らかになった痕跡の数や流域斜面の地形量からみて,こうした現象は,流域の地形が発達する時空間スケールにおいては珍しいものではなく,むしろ主要な地形形成プロセスの一つとして機能しているものと推察される.現在でも,地震あるいは豪雨を引き金として,同様の連鎖的事象によって大規模な流域災害が発生する可能性は十分にあり,減災に向けて,起きうる事態を事前に想定して備えることが望まれる.