14:45 〜 15:00
[HQR05-11] “ローム台地”のS波速度構造と地盤震動特性:宇都宮市東部地域を例に
★招待講演
キーワード:S波速度構造、地盤震動特性、ローム台地、微動アレイ観測、宇都宮市、関東平野
自然状態のローム層はN値が小さいわりに地耐力が高いとされ,ローム層に覆われた“ローム台地”は一般に地盤がよいとされる.しかし,地耐力は高いにせよ,ローム層のS波速度は低く,地層としてはかなり軟らかいことから,地震動は比較的大きく増幅されることが予想される.演者らは,ローム層が全般的に厚く分布し,さまざまな年代の段丘面が分布する宇都宮市東部地域において,段丘面ごとに微動アレイ観測を行い,S波速度構造を推定した.また,微動観測により得られたH/Vスペクトルをもとに,段丘の年代,すなわちローム層の厚さに影響された地盤震動特性の違いを検討した.
調査地域の段丘面は,飛山面(~360 ka),宝積寺面(~250 ka),岡本面(~100 ka),宝木面(65–40 ka),峯町面(40–35 ka),田原面(27–20 ka)に区分される(鈴木,2008).段丘面は鬼怒川に沿ってほぼ南北に細長く配列しているため,今回の調査ではこれらの段丘面および鬼怒川の低地面を横断する東西の測線を設定し,測線沿いで微動アレイ観測を行った.
調査地域の段丘の構成層は河川成の礫層であり,それを段丘ごとに厚さの異なるローム層が覆う.調査地域で最もローム層が厚い飛山面,宝積寺面の微動アレイ観測にもとづけば,深度10 mまでの平均S波速度(AVS10)はいずれも150 m/s程度であり,これがローム層のS波速度と考えられる.浅層の地質構成を段丘礫層とローム層の2層構造と考え,H/Vスペクトルのピーク周波数から各段丘のローム層の厚さを1/4波長則に基づき推定した.これにより得られたローム層の厚さは,宝積寺面では18–19 m,飛山面では25 mとなり,既報の研究論文やボーリングデータ等から知ることのできるローム層の厚さとほぼ一致する.またこれをもとに地表面の標高からローム層の層厚を差し引いて段丘礫層上面の標高を求めると,宇都宮市街地を通る東西測線沿いでは,山元(2006)が指摘しているように,段丘の形成年代にかかわらず,礫層上面の標高に大きな差はないことが明らかになった.
微動アレイ観測データの解析により,調査地域の深度30 mまでの平均S波速度(AVS30)は,低位の段丘ほど速く,高位の段丘ほど遅いことが推定された.これは段丘礫層を被覆するローム層の厚さを反映していると考えられる.また常時微動のH/Vスペクトルは,高位の段丘ほどピーク周波数が低周波側にシフトすることが確認され,ピーク値も高くなることが確認された.ローム層が厚く分布する宝積寺面では2 Hz,飛山面では1.5 Hzといったやや低い周波数に明瞭なピークが認められた.一方で,ローム層が薄い,低位の田原面や,鬼怒川の低地面では高周波までフラットな特性を示した.つまり調査地域では,低地面や低位の段丘ほど堅固な地盤であり,高位の段丘ほど地盤は軟らかいことが理解される.
近年は都市近郊の丘陵や高位段丘に相当する地域が大きく造成され,宅地化されることが多いが,ローム層が厚い箇所では,より低位の地形面に比べ,やや低周波の揺れが比較的大きく増幅される可能性があることに留意すべきである.
鈴木毅彦(2008)鬼怒川・那珂川中–上流段丘.日本地方地質誌 関東地方,347–352,朝倉書店.
山元孝広(2006)宇都宮市宝積寺段丘で掘削されたUT05コアの層序記載と鬼怒川の堆積侵食履歴.地質調査研究報告,57,217–228.
調査地域の段丘面は,飛山面(~360 ka),宝積寺面(~250 ka),岡本面(~100 ka),宝木面(65–40 ka),峯町面(40–35 ka),田原面(27–20 ka)に区分される(鈴木,2008).段丘面は鬼怒川に沿ってほぼ南北に細長く配列しているため,今回の調査ではこれらの段丘面および鬼怒川の低地面を横断する東西の測線を設定し,測線沿いで微動アレイ観測を行った.
調査地域の段丘の構成層は河川成の礫層であり,それを段丘ごとに厚さの異なるローム層が覆う.調査地域で最もローム層が厚い飛山面,宝積寺面の微動アレイ観測にもとづけば,深度10 mまでの平均S波速度(AVS10)はいずれも150 m/s程度であり,これがローム層のS波速度と考えられる.浅層の地質構成を段丘礫層とローム層の2層構造と考え,H/Vスペクトルのピーク周波数から各段丘のローム層の厚さを1/4波長則に基づき推定した.これにより得られたローム層の厚さは,宝積寺面では18–19 m,飛山面では25 mとなり,既報の研究論文やボーリングデータ等から知ることのできるローム層の厚さとほぼ一致する.またこれをもとに地表面の標高からローム層の層厚を差し引いて段丘礫層上面の標高を求めると,宇都宮市街地を通る東西測線沿いでは,山元(2006)が指摘しているように,段丘の形成年代にかかわらず,礫層上面の標高に大きな差はないことが明らかになった.
微動アレイ観測データの解析により,調査地域の深度30 mまでの平均S波速度(AVS30)は,低位の段丘ほど速く,高位の段丘ほど遅いことが推定された.これは段丘礫層を被覆するローム層の厚さを反映していると考えられる.また常時微動のH/Vスペクトルは,高位の段丘ほどピーク周波数が低周波側にシフトすることが確認され,ピーク値も高くなることが確認された.ローム層が厚く分布する宝積寺面では2 Hz,飛山面では1.5 Hzといったやや低い周波数に明瞭なピークが認められた.一方で,ローム層が薄い,低位の田原面や,鬼怒川の低地面では高周波までフラットな特性を示した.つまり調査地域では,低地面や低位の段丘ほど堅固な地盤であり,高位の段丘ほど地盤は軟らかいことが理解される.
近年は都市近郊の丘陵や高位段丘に相当する地域が大きく造成され,宅地化されることが多いが,ローム層が厚い箇所では,より低位の地形面に比べ,やや低周波の揺れが比較的大きく増幅される可能性があることに留意すべきである.
鈴木毅彦(2008)鬼怒川・那珂川中–上流段丘.日本地方地質誌 関東地方,347–352,朝倉書店.
山元孝広(2006)宇都宮市宝積寺段丘で掘削されたUT05コアの層序記載と鬼怒川の堆積侵食履歴.地質調査研究報告,57,217–228.