日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 102 (1F)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、兵頭 政幸(神戸大学 内海域環境教育研究センター)、座長:小荒井 衛(茨城大学)、納谷 友規(産業技術総合研究所)

15:00 〜 15:15

[HQR05-12] 1948 年福井地震の液状化分布と微地形分類との関係−液状化ハザードマップの改善に向けて−

*谷 はるか1宍倉 正展2 (1.法政大学、2.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:1948年福井地震、液状化、微地形分類、液状化ハザードマップ

はじめに
 近年頻発している大規模自然災害とその被害状況をみると、現存のハザードマップが十分な被害予測を行えていたとは言えない事例が見受けられる(若松ほか、2017;宇根ほか、2015)。これは具体的な作成手法や表示方法などの内容について定められておらず、各地方自治体の判断に委ねられているためである。さらなる防災・減災のためには、各地方自治体が参考可能な低コストで簡易的な手法を確立し、より信頼性の高いハザードマップの整備が重要である。地形的観点からの液状化発生予測は、低コストで簡易的に行える。中埜ほか(2015)は関東における過去の液状化をもとに、液状化ハザード評価基準とそれに対応した地形分類による液状化ハザードマップの作成手法を提案した。しかし土地履歴が異なる関東以外の地域においても、この地形分類は有効であるのか疑問が残る。そこで本研究では 1948 年福井地震を事例とし、福井市中心部の液状化分布を基に福井市液状化ハザードマップの作成手法の現状と課題を探るとともに、液状化ハザードマップの精度向上と作成手法に向けた提言を行う。

研究方法
 1948 年福井地震の液状化分布を明らかにするため、地震直後にGHQにより撮影された調査対象地域の空中写真を国土地理院から入手し、本研究で独自に設定した判読定義に従い空中写真判読を行った。得られた判読結果は、QGISを用い、ベクタデータで液状化発生地点として描写し、1948 年福井地震の液状化発生地点分布図を作成した。次に、液状化発生地点分布図を福井市液状化ハザードマップや土地条件図、治水地形分類図初期整備版、治水地形分類図更新版(国土地理院より)と重ね合わせることで、分析・考察を行った。

結果および考察
 1948 年福井地震の液状化発生地点分布図と既存の各種地図との比較によって、中埜ほか(2015)が示した地形分類は福井地震液状化発生地点と対応していることが確認できた。さらに特徴的な事例として、旧堤防と旧河道が重なる付近での液状化が目立った。これは旧河道であった砂地盤で地下水位が浅い土地に堤防を築いたことで、さらに密実でない砂地盤が厚くなり、周囲に比べ液状化しやすい土地となったためと考察する。また、旧堤防と自然堤防が隣接する地点で、集中的な液状化が発生している。この地点は南方に山地が存在する旧河道湾曲部の外岸に位置している。したがって、地形形成段階において周囲より河川堆積物が多く存在する地点であった。さらに自然堤防と沿うように旧堤防を築いたことで高低差がついた地形となり、側方流動が発生しやすい条件が重なったと考察した。以上から、周辺の微地形との組み合わせにより液状化発生の危険度が変わるといえる。したがって、液状化ハザードマップの作成には微地形の考慮が必要不可欠である。
福井市液状化ハザードマップと1948 年福井地震の液状化発生地点分布図との比較を行った結果、福井市液状化ハザードマップが示す液状化の危険性は、福井地震の液状化被害と対応していない。これは液状化発生履歴を考慮しなかっただけでなく、微地形を考慮することなく作成されたためであると考える。したがってハザードマップとしての信頼度は現状で低いと言わざるを得ない。

今後に向けて
 本研究では、写真判読を駆使して液状化発生地点を抽出した。ただし空中写真は古く、白黒であるため、家屋の倒壊や写真画像の損傷により判読が難しい地点が存在した。今後さらに詳細な微地形と液状化発生地点との関係性を把握するには、現地での微地形調査や被災者への聞き取り調査、ボーリング調査などが必要となる。
本論文では、福井地震の液状化について福井地震中心部を扱ったに過ぎず、震源距離と微地形間における作用の関係については未解明である。福井地震の際に撮影された空中写真は、被災した地域が網羅され、本研究地域以外でも、液状化の発生が確認できていることから、被災地域全体の液状化分布図を作成することでこの問題を解決していきたい。
現状では福井市液状化ハザードマップは、ハザードマップとしての信頼度が低いといえ、微地形を考慮し、改めて作成する必要がある。それにあたり、液状化に対する微地形間における作用についてさらなる事例を用い、定量的な検討を行うことが課題となる。