日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、兵頭 政幸(神戸大学 内海域環境教育研究センター)

[HQR05-P04] 青森県むつ市関根浜における海岸堆積物中の漂流軽石の発見と起源

*平峰 玲緒奈1青木 かおり2石村 大輔1,2小林 淳2 (1.首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境学域、2.首都大学東京火山災害研究センター)

キーワード:漂流軽石、十和田中掫テフラ、鬱陵島、下北半島

火山砕屑物のひとつである軽石は,何らかの理由により海域での漂流を始めることがある.ひとたび漂流を開始した軽石は,海岸に打ち上げられるか,生物の付着や気孔内を水が充填したことなどにより浮力を失うまで,漂流し続けると考えられており(加藤,2009),このような軽石は「漂流軽石(漂着軽石)」と呼ばれている.白石ほか(1992)は,秋田県男鹿半島の海成段丘堆積物中に阿蘇4(Aso-4)テフラおよび三瓶木次(SK)テフラ起源の漂流軽石が存在することを報告し,Aso-4およびSKが堆積した7〜9万年前にも,現在と同様に日本海を北上する海流が存在した可能性を述べた.このように,漂流軽石は地形や海流等の影響を受けて漂流・漂着するため,地層中の漂流軽石は,漂着当時の古環境指標とその時代を示す年代指標となり得る.
本発表では,下北半島北部のむつ市関根浜において現地調査を行い,海岸に露出する堆積物中に複数の軽石が含まれていることを発見した.また,2層の軽石濃集層が認められ,火山ガラスの主元素組成より,それらの給源を推定した.また,それらの層相と層序より2層の軽石濃集層は漂流軽石であると考えられる.
下北半島は,第四紀後期の海成段丘群が取り巻くように分布しており(小池ほか,2005),関根浜周辺は海食崖前面に発達する長大な砂浜海岸で構成される.空中写真判読の結果,対象とした露頭は海成段丘を刻む小河川の河口付近の低地に位置し,海浜〜砂丘堆積物に一部覆われているように見える.本露頭では,幅10 m,高さ2.5 mで低地堆積物が露出する.
本研究では,関根浜の露頭において露頭記載と試料採取を行なった.採取した試料については火山ガラスの主元素組成分析を実施した.分析には高知大学海洋コア総合研究センター所有のEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.
露頭では,低地堆積物を構成するシルト〜腐植質シルトとそれを覆う砂層を多く挟在する泥炭層が認められる.泥炭層の下部には軽石が密集する層準があり,それらは2層の軽石濃集層と1層の火山灰層に細分される.それらのうち最下位に位置する火山灰層は,層厚1.0 cm程度でパッチ状に分布し,淡紅色を呈する.その上部には同色の円磨された軽石濃集層(平均粒径1.5 cm)が層厚4〜5 cmで分布する.それら淡紅色火山灰層・軽石層から15 cmほど上に,円磨された褐色の軽石濃集層(平均粒径2.0 cm)が層厚3〜4cmで分布する.また,この軽石が密集する層準以外にも,その上下層準(腐植質シルト層と泥炭層の上部)にも軽石が散在する.
軽石が密集する層準を構成する淡紅色火山灰,淡紅色軽石,褐色軽石,並びに腐植質シルト中の2つの軽石,泥炭上部中の軽石の6試料について,火山ガラスの主元素組成分析を行なった.その結果,淡紅色火山灰と淡紅色軽石は,同様の値(淡紅色火山灰;SiO2:74.5 wt.%,Na2O:4.42 wt.%,K2O:1.35 wt.%,淡紅色軽石;SiO2:75.6 wt.%,Na2O:4.21 wt.%,K2O:1.38 wt.%)を示した.褐色軽石は,特徴的にSiO2が60.7 wt.%と非常に低く,Al2O3が19.5 wt.%と非常に高い値を示した.また,淡紅色火山灰層直下から6000–5900 cal. yr BP(2σ)の14C年代を得た.これらの分析結果と青木・町田(2006),Shiihara et al.(2011)の分析値との比較を行った結果,淡紅色火山灰と淡紅色軽石は十和田中掫(To-Cu)テフラに対比され,褐色軽石は鬱陵島のU-2(Shiihara et al., 2011)テフラに対比される可能性が高い.U-2テフラに関しては,5681-5619 cal. BP(McLean et al.,2018)と推定されており,To-Cuテフラ(5986-5899 cal. BP;McLean et al., 2018)のすぐ上位にあることと矛盾しない.なお,腐植質シルト中と泥炭上部中の3軽石については,現時点では給源不明である.
淡紅色軽石と褐色軽石は,平均粒径が1.5 cm以上と大きく降下堆積物とは考え難い.したがって,両軽石は漂流軽石であると考えられる.また,淡紅色軽石は,降下堆積物である淡紅色火山灰層のすぐ上に堆積しており,漂流軽石である淡紅色軽石は噴火直後に漂着した可能性が高い.なお,これら漂流軽石は,湿地性堆積物である泥炭中に存在する.したがって,これらの漂着軽石は,海とつながる小河川等を通じて内陸部の堤間湿地や砂丘背後の湿地に漂着した可能性が考えられる.