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[HRE16-02] 伊豆小笠原弧海域に位置する明神礁カルデラ、明神海丘、ベヨネース海丘におけるチムニー鉱石の鉱物学的特徴
キーワード:海底熱水鉱床、チムニー鉱石、伊豆小笠原弧
海底熱水鉱床は、Cu-Pb-Zn(±Au±Ag)を主要構成金属とする火山性塊状硫化物鉱床の一つである。近年の海底探査によって、日本周辺の排他的経済水域にて海底金属鉱物資源の新たな発見が相次いでいる。例えば、伊豆小笠原弧周辺海域に存在する明神礁カルデラと明神海丘の熱水域海底探査を目的としたNT13-09航海や、ベヨネース海丘の熱水域海底探査を目的としたNT14-06航海などが実施された。ベヨネース海丘を有する白嶺鉱床にて採取されたチムニー鉱石は海底熱水鉱床の中でも高品位を有していることが知られている(Au; 24.1 ppm、Ag; 1275 ppm、Cu; 1.14wt. %、Pb; 5.57wt. %、Zn; 35.03wt. %)(Tanahashi et. al, 2004)。加えて上述の論文にて、チムニー鉱石は多孔質かつ同心円構造で表面から、黒色マンガン酸化物コーティング層、白色の重晶石層、閃亜鉛鉱と方鉛鉱主体の硫化鉱物層からなると示されている。しかし、現在活動中の海底熱水鉱床のチムニー鉱石を成長軸に沿って詳細に議論している論文は限定的である。(e.g. Watanabe & Hayashi, 2014)。そこで本研究の目的は、伊豆小笠原弧海域のチムニー鉱石に含まれる鉱物学的特徴、特に銀鉱物の形成とチムニー鉱石の沈殿環境を明らかにすることとし、明神礁カルデラ、明神海丘、ベヨネース海丘から採取されたチムニー鉱石(NT13-09およびNT14-06)を本研究には使用した。
これらのチムニー鉱石は非常に良く似た鉱物学的特徴を有していた。チムニー鉱石試料は円筒状の形状を示し、外側から内側に向かう成長軸に沿って、主に硫酸塩である重晶石で構成されるG1、主に重晶石と海底熱水鉱床の主要硫化鉱物である閃亜鉛鉱・黄鉄鉱・黄銅鉱・方鉛鉱で構成されるG2、主に主要硫化鉱物で構成されるG3で構成されていた。G1からG3にかけての鉱物学的特徴は黒鉱鉱床でも確認される(Shimazaki & Horikoshi, 1990)。EPMA分析により、重晶石は主にG1、G2に認められ、特異的にG3の多孔質部の空隙を埋めるようにも見られた。先行研究では、初期沈殿の重晶石の形成温度は190-215℃、二次沈殿の重晶石の形成温度は150-190℃(Iizasa, 1997)とされており、熱水と海水の混合によって形成されるチムニー鉱石の成長過程は次のように説明できる。初期鉱化作用;大量の海水と海底面の熱水噴気孔から噴出される熱水の混合によって重晶石の壁(G1)が形成される。次に、G1によって海水と熱水の混合比が規制され、熱水の割合が比較的高くなることで主要硫化鉱物と重晶石を含む多孔質のG2が形成される。その後、熱水の寄与がより大きくなることによって、主要硫化鉱物からなるG3が形成される。二次鉱化作用;活発な熱水活動が停止した後、多孔質のチムニー鉱石の空隙に重晶石が大量の海水と熱水によって沈殿した(G3)。EPMAと顕微鏡の観察結果から、伊豆小笠原弧周辺海域で採取されたチムニー鉱石の銀鉱物はG2とG3にて、1-20μmの安四面銅鉱-砒四面銅鉱(Ave(wt.%): Ag; 2.90, Cu; 11.06, Zn; 7.03, Pb; 46.58, Sb; 3.97, As; 3.00 and S; 10.91)として閃亜鉛鉱と方鉛鉱と共存して観察された。併せて、伊豆小笠原弧海域と黒鉱鉱床のAg vs. Sb/(Sb+As)プロットによると、伊豆小笠原弧のチムニー鉱石を形成した熱水は黒鉱鉱床の熱水よりも、銀に富む熱水であることがわかった。また、特異的にベヨネース海丘のチムニー鉱石からは、銀を多く含む1-10μmの古遠部鉱(Ave(wt.%): Ag; 52.90, Cu; 9.55 , Pb; 37.54 and S; 13.84)がG1とG2の間の境界のG2側で方鉛鉱と共に観察された。よって、上述の初期鉱化作用と二次鉱化作用に対応する銀の鉱化作用は次のように説明できる。まず、初期鉱化作用として、主要硫化鉱物の鉱化作用により、多孔質なチムニー鉱石が形成される。その後、活発な熱水活動の停止が引き金となり、大量の海水と少量の熱水の混合による温度の低下が引き起こると、初期鉱化作用では方鉛鉱中に存在していた銀が2Pb2+=Ag++Sb3+の化学平衡式に沿って(Karup-Moller, 1971 and Foord, 1989)、平衡が右に移動する。そして、G2とG3に安四面銅鉱―砒四面銅鉱として沈殿する(Zeng and Izawa, 2000)。次に熱水活動が完全に停止すると、さらに冷却が進み、安四面銅鉱―砒四面銅鉱は古遠部鉱として沈殿する。
これらのチムニー鉱石は非常に良く似た鉱物学的特徴を有していた。チムニー鉱石試料は円筒状の形状を示し、外側から内側に向かう成長軸に沿って、主に硫酸塩である重晶石で構成されるG1、主に重晶石と海底熱水鉱床の主要硫化鉱物である閃亜鉛鉱・黄鉄鉱・黄銅鉱・方鉛鉱で構成されるG2、主に主要硫化鉱物で構成されるG3で構成されていた。G1からG3にかけての鉱物学的特徴は黒鉱鉱床でも確認される(Shimazaki & Horikoshi, 1990)。EPMA分析により、重晶石は主にG1、G2に認められ、特異的にG3の多孔質部の空隙を埋めるようにも見られた。先行研究では、初期沈殿の重晶石の形成温度は190-215℃、二次沈殿の重晶石の形成温度は150-190℃(Iizasa, 1997)とされており、熱水と海水の混合によって形成されるチムニー鉱石の成長過程は次のように説明できる。初期鉱化作用;大量の海水と海底面の熱水噴気孔から噴出される熱水の混合によって重晶石の壁(G1)が形成される。次に、G1によって海水と熱水の混合比が規制され、熱水の割合が比較的高くなることで主要硫化鉱物と重晶石を含む多孔質のG2が形成される。その後、熱水の寄与がより大きくなることによって、主要硫化鉱物からなるG3が形成される。二次鉱化作用;活発な熱水活動が停止した後、多孔質のチムニー鉱石の空隙に重晶石が大量の海水と熱水によって沈殿した(G3)。EPMAと顕微鏡の観察結果から、伊豆小笠原弧周辺海域で採取されたチムニー鉱石の銀鉱物はG2とG3にて、1-20μmの安四面銅鉱-砒四面銅鉱(Ave(wt.%): Ag; 2.90, Cu; 11.06, Zn; 7.03, Pb; 46.58, Sb; 3.97, As; 3.00 and S; 10.91)として閃亜鉛鉱と方鉛鉱と共存して観察された。併せて、伊豆小笠原弧海域と黒鉱鉱床のAg vs. Sb/(Sb+As)プロットによると、伊豆小笠原弧のチムニー鉱石を形成した熱水は黒鉱鉱床の熱水よりも、銀に富む熱水であることがわかった。また、特異的にベヨネース海丘のチムニー鉱石からは、銀を多く含む1-10μmの古遠部鉱(Ave(wt.%): Ag; 52.90, Cu; 9.55 , Pb; 37.54 and S; 13.84)がG1とG2の間の境界のG2側で方鉛鉱と共に観察された。よって、上述の初期鉱化作用と二次鉱化作用に対応する銀の鉱化作用は次のように説明できる。まず、初期鉱化作用として、主要硫化鉱物の鉱化作用により、多孔質なチムニー鉱石が形成される。その後、活発な熱水活動の停止が引き金となり、大量の海水と少量の熱水の混合による温度の低下が引き起こると、初期鉱化作用では方鉛鉱中に存在していた銀が2Pb2+=Ag++Sb3+の化学平衡式に沿って(Karup-Moller, 1971 and Foord, 1989)、平衡が右に移動する。そして、G2とG3に安四面銅鉱―砒四面銅鉱として沈殿する(Zeng and Izawa, 2000)。次に熱水活動が完全に停止すると、さらに冷却が進み、安四面銅鉱―砒四面銅鉱は古遠部鉱として沈殿する。