日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE17] 再生可能エネルギー分野への活用に向けた地球科学データの可能性

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター)、宇野 史睦(産業技術総合研究所)、島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、野原 大輔(電力中央研究所)

[HRE17-P02] モニタリング調査結果からみた西大阪地域における被圧地下水の特徴
-地下水の熱利用を見据えた検討-

*伊藤 浩子1北田 奈緒子1越後 智雄1藤原 照幸1 (1.一般財団法人地域地盤環境研究所)

キーワード:西大阪地域、ATESシステム、被圧地下水

再生可能エネルギーの普及拡大が全国的に推進される中,大阪地域においても,地下水の熱利用に関する検討が進められている。大阪市内では,帯水層蓄熱型(Aquifer Thermal Energy Storage; ATES)のオープンループシステムによる地下水の熱利用の実証試験が行われ,揚水規制の緩和を前提とした地下水利用が積極的に推進されるなど具体的なプロジェクトが進行している(大阪市,2018)。このような背景を受け,我々は,西大阪地域を対象としてATESシステムによる地下水の熱利用を見据えた被圧地下水の調査研究を行った。

西大阪平野には海成粘土層が水平に厚く堆積し,その間の砂礫層の連続性も良好である(KG-NET・関西圏地盤研究会,2007)。完新統の粘土層(Ma13層)の下位に分布する砂礫層は「第1被圧帯水層(Dg1)」,最上位更新統の粘土層(Ma12)の下位に分布する砂礫層は「第2被圧帯水層(Dg2)」を形成し, Dg2の下位には「第3被圧帯水層(Dg3)」が分布する。ATESシステム利用の際には,地盤沈下のリスクを避けるためDg2またはDg3に賦存する地下水を利用する必要がある(大阪市,2018)。しかし,周辺地盤への影響評価を行う上では,Dg1の地下水の性状も明らかにしておく必要がある。そこで本研究では,ATESシステム導入前における地下水の性状(初期値)を詳細に把握するとともに,ATESシステム導入時の課題や留意点について検討するため,上記の3層の帯水層に賦存する地下水の水位・水温・水質のモニタリング調査を実施した。

地下水の水質分析の結果,全ての試料でNa+-Cl-型の主成分組成を示した。調査地域の北部(梅田~福島)よりも南部(中之島より南側)において溶存成分濃度が高く,Dg1の地下水は最大で海水の25%程度の塩分濃度を示した。水の酸素・水素安定同位体比の分析結果から,特にDg1の地下水には海水が混入している可能性がある。また,Dg1,Dg2,Dg3ともに還元的な地下水質を示し,例えば,鉄は約80%が溶存態として存在することが明らかとなった。硝酸性窒素や硫酸イオンがほとんど検出されないことも,本研究で分析した地下水が還元的な水質組成であることを支持する。そのためATESシステムを長期的に運用する際には,水酸化鉄の沈殿によるストレーナの目詰まりを防止するため,還元的な環境が保持されるシステムを構築する必要がある。また,各帯水層の地下水の水質特性が有意に異なることから,熱利用のために揚水した地下水は,確実に元の帯水層へ還水すべきである。

地下水位はいずれの帯水層でも調査地点ごとの大きな差は認められず,調査地域全体として停滞した地下水環境であることが示唆された。Dg1の地下水位は概ねT.P.-1.5~-1.0m程度で,緩やかに季節変動している。最も西側の調査地点で定常的に水位がわずかに高いことから,西から海水が緩やかに流入している可能性がある。このような特徴は,上述の水質分析の結果とも整合的である。Dg2の地下水位はT.P.-1.0m程度でほぼ一定で,調査地点ごとの明瞭な違いもみられないため,地下水がほとんど流動していない状況が示唆される。また,2017年に数回,周辺工事の影響と推測される短期間で急激な地下水位低下が全地点のDg2で確認された。しかし,Dg1およびDg3の地下水位にはこのような変化は見られなかったため,少なくとも本調査地域内では,Dg1,Dg2,Dg3がそれぞれ粘土層によって遮水された独立した帯水層であると考えることができる。

地下水の水温は,ATESシステムの設計や熱効率,揚水(還水)が周辺環境に与える影響などを評価するための基礎データとして重要である。本調査では,鉛直方向への連続水温測定(1m間隔)を年4回実施した。表層から深度30m付近までは季節変動と地点ごとの差異が認められたが,深度30mより深部では季節を通じて18℃程度とほぼ一定で,地点ごとの差もほとんどなく安定した値を示した。ただし,上町台地に近い調査地点では,同じ深度でも西側の他地点より定常的に2℃程度高かった。そのため,大阪市内でも地下水の熱利用効率が地区ごとに異なる可能性があるが,現時点ではまだ地点数が少なく詳しく言及できないため今後の検討課題である。

最後に,本研究は,NEDO「再生可能エネルギー熱利用技術開発/再生可能エネルギー熱利用のポテンシャル評価技術の開発/都市域における,オープンループシステムによる地下水の大規模熱源利用のための技術開発」(研究代表者:北田奈緒子)により実施したものである。