日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 302 (3F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)、Gabriel J Bowen(University of Utah)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

14:15 〜 14:30

[HTT18-14] 付着藻類の炭素窒素同位体比からみる富山県東部森林域から河川への栄養塩供給

*張 勁1増田 亮介1片境 紗希1太田 民久1稲村 修2中川 書子3 (1.富山大学、2.魚津水族館、3.名古屋大学)

キーワード:付着藻類、炭素窒素同位体比、栄養塩供給、森林域、富山県東部

森林域から河川への栄養塩供給を明らかにするため、人為的影響が少ない富山県東部の河川上流部に着目して研究を行った。試料は河川水と付着藻類を用い、水の主要化学成分濃度、水素・酸素安定同位体比、付着藻類の炭素・窒素安定同位体比を測定し、その結果とGISで得られた地形データや植生図等を合わせて解析した。結果は下記のとおりである。

 1)河川水の酸素・水素安定同位体比から、河川水は夏季と冬季の降水標高300~2000mの山間の涵養域で、良く混合して形成されていた。
 2)10月の付着藻類のδ13CとCa、HCO3濃度の間に相関関係があり、Caは炭酸塩鉱物(CaCO3)の風化によって河川へ供給されることと分かった。また、Ca、Na、K、Mg濃度は針葉樹割合と有意な正の相関関係を示し、降水が森林域を通過して付加され、河川水ではCaで200倍、Naで6倍、Kで8倍、Mgで10倍程度になった。
 3)河川水の硝酸濃度と常緑樹割合に負の相関関係があり、硝酸態の酸素安定同位体比(Δ17O)から河川水中の硝酸の9割以上が森林由来であることから、降水中の硝酸の多くは森林内でトラップされ、再利用されたのちに河川へ流出していると考えられた。
 4)河川水中の硝酸を利用して数日~数週間の窒素供給情報を”記録する”可能性がある付着藻類のδ15Nは、標高1500mを境に異なる傾向を示し、集水域内の植生による影響を受けている可能性が考えられた。また、そのδ15Nは涵養域内の常緑樹割合と正の相関関係が認められ、植生は河川への硝酸流出に影響があると示唆された。