日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT22] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、座長:横田 俊之井上 敬資

09:00 〜 09:15

[HTT22-01] 高周波反射法地震探査による土石流被災砂防ダム堤体内構造のイメージング

*稲崎 富士1木佐貫 寛2小河原 敬徳1清水 武志1藤村 直樹1 (1.土木研究所 つくば中央研究所 、2.土木研究所 つくば中央研究所 (現所属:応用地質(株)))

キーワード:砂防ダム、土石流、反射法地震探査、高周波加速度センサ

2014年7月に上陸した台風8号による集中豪雨によって長野県南木曽町で大規模土石流が発生し,この土石流の一部を捕捉した最上流の不透過型コンクリート砂防ダムでは堤体上部約5mが流出するとともにジョイント部での変位,堤体の下流方向への傾動,剥離面の形成など,堤体の機能を低下させる深刻な損傷被害を受けた.このダム堤体の損傷状態を評価することを目的として堤体背面において数次にわたって物理探査を実施した.このうちGPR探査結果については青池ほか(2015),清水ほか(2017)で概要を報告している.また背面のDSM構築とそれに基づく堤体の変形様式の3D空間モデル化については本大会で報告した(Inazaki, et al., 2017). 一方高周波反射法探査は3次にわたって実施し,背面に6測線を設定して内部構造のイメージングを試みたが,その一部を紹介するにとどまっていた(Kisanuki, et al., 2015).今回,3次にわたって実施した高周波反射法地震探査記録を再処理し,堤体内部反射構造のイメージングを試みた.
現地探査は2014年12月,2016年2月および4月に実施した.探査測定条件は以下である.ダム堤体背面の底部に水平方向に約10m長さの測線を設定した.測線上に10cm間隔に高周波加速度センサ(Crossbow CXL 10HF)を貼り付け,結線する.壁面をハンマーで打撃して打撃振動を発生させ,観測する.使用した加速度センサは高感度で10kHz程度までの高周波数帯域の振動を測定することができる(稲崎・雷,1999).また従来の地震計を用いる計測では高周波数帯域の振動計測は困難であることがわかっている.なお上記使用ツールおよび測定条件下ではSV波成分が卓越することが経験的に知られている(稲崎ほか,2003).ところで高い空間分解能を確保するには,稠密なセンサアレイの設定に加えて高速サンプリングが不可欠である.第一次調査ではサンプル間隔を25μsに,第2次調査では2μsec,第三次調査では5μsに設定して波形を収録した.
収録した波形データを通常の反射法探査データ処理の流れに沿って処理した.ただし処理時のビット落ちを防ぐため,ジオメトリを100倍して処理した.なおショットギャザには見かけ速度2.5km/sの直達波,測線直交亀裂からの対向波に加え,内部からの反射波が明瞭に捉えられていた.各測線のデータセットに対しRMS速度2.5km/sを仮定して重合前時間マイグレーションを施し,時間-深度変換ののち深度断面を再構成した.
高周波反射深度断面には見かけ深度10m付近に強振幅の連続性の良い水平な反射面が共通して出現した.設計図等との対比から堤体上流側壁面からの反射波に比定することができる.また最表層部深さ2m程度の領域には低角の反射面を認めることができる.壁面に出現した亀裂とその傾斜と調和的であった.一方表層はく離推定部上に設置した測線下の深度断面には,表層はく離面比定反射イベントの下位には明瞭な反射面が見いだされなかった.
ダム堤体などコンクリート構造物の内部物性構造を把握するには,高周波数帯域での高密度計測が必要とされる.筆者らは高周波加速度センサおよび高速高分解能収録装置を採用することでこの条件を解決した.また稠密なセンサアレイ配置を採用することにより,構造物内部あるいは境界面を鮮明にイメージングできることを示した.