日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT22] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、座長:横田 俊之井上 敬資

09:30 〜 09:45

[HTT22-03] 接地抵抗による不被圧地下水の水位変化推定の試み(I) -理論の概要-

*領木 邦浩1 (1.職業能力開発総合大学校 能力開発院能力開発基礎系技術基礎ユニット)

キーワード:電気設備、武蔵野台地、ローム層、宙水、水害、等価接地抵抗

1.はじめに
関東平野の武蔵野台地では,透水性の良い関東ローム層が数メートルにわたって武蔵野礫層を覆っている.ここでの不被圧地下水は武蔵野礫層を主な帯水層としているが,季節的な涵養を受けて上位のローム層までその水位が上昇することがある.特に,ローム層中には粘土質に富むレンズ状の不透水層が点在しており(角田, 2017),しばしばこの上に滞留した宙水の水位が地表付近まで上昇するため,水害をもたらすことがある(例えば,東京都地質調査業協会, 2000).従って,このような地下水位の変動を多くの地点で観測し,水害への備えが求められている.
大島・他 (2015)は,住宅基礎を電気設備の保安用接地として利用するために,約2m×2mの小型モデル基礎や実規模住宅の建築基礎を用いて,これらの接地抵抗の安定性を検証した.これによると,接地抵抗には小型モデルでは200%程度,実規模基礎では20%~30%程度の季節的な変動があることが示され,この変動は表層および住宅基礎の気温変化に伴う温度特性に起因するものと考えられた.一方,1988年12月始めから2001年3月までの井の頭池周辺の観測井における地下水の観測結果(国分, 2005)を見ると,いずれもpeak to peakで2m~3mの年周変化を示している.このような地下水位の変化は大地の大局的な抵抗率を変化させ,接地電極の接地抵抗を変化させる要因となる(領木, 2019).そこで,本報告では,その考え方を紹介し,地下水位の変動が接地抵抗の変化に与える寄与に基づいた地下水位の推定方法について検討する.

2.理論
原点Oから抵抗率ρの半無限媒質の大地に流入する点電流Iが距離rの地表に作る電位Vrは,Vr=ρI/2πrである.このとき,点電流源に代えて半径aの半球状の金属電極を接地すれば,金属内での電位はその表面での電位Vaと等しくなり,Va=ρI/2πaとなる.従って,無限遠から見た原点Oの抵抗値(半球状金属電極の抵抗値)Rは,R=Va/I=ρ/2πaであり,これが半球状金属電極の接地抵抗となる.
次に,大地を水平二層構造とみなした場合の地表電位を考える.萩原(1951)が示した鏡像法(図1)によると,点電流源が作る距離rの地表z=0での電位V0(r, z=0)は,V0(r, z=0)=ρ1I(1/r+2Σk=1(Qk/(r2+(2kd)2)1/2))/2πとなる.ここで,Qは電流密度に関する反射係数で,Q=(ρ2-ρ1)/(ρ2+ρ1),ρ1ρ2は,それぞれ第1層,第2層の抵抗率,dは第1層の層厚である.このとき,二層構造上の接地極の接地抵抗Raは,垂直電気探査Wenner法と同様に考えると,r=aとおいて,Ra=Va/I=ρ1(1/a+2Σk=1(Qk/(a2+(2kd)2)1/2))/2πとなり,これを等価接地抵抗と呼ぶこととする.ここで,Raと,抵抗率ρ1の第一層だけからなる半無限媒質での接地抵抗R1(=R)との比を考えると,Ra/R1=1+2Σk=1(Qk/(1+4k2(d/a)2)1/2)は等価接地抵抗に関する見掛抵抗率ということができる.
図2は,R1で基準化したRaに対する半球導体電極の半径aで基準化した第1層の層厚dの関係を示したものである.これを見ると,地下水位が変化すると相当接地抵抗が変化することが分かり,接地抵抗の変動を監視することによって地下水位の変動を感知できるものと期待できる.

3.今後の計画
ここで示された方法を検証するため,観測井を設置して地下水位等の変動を測定するとともに,電気設備の保安用接地電極の接地抵抗を連続測定を行う.予定されている観測は,(1)地下水の水位,(2)地下水温,(3)地下水の電気伝導度,(4)大地の見掛抵抗率,(5)接地の抵抗値,である.講演では予察的な測定結果を示す予定である.

参考文献
萩原尊禮(1951):比抵抗法,物理探鉱法,朝倉書店,復刻版,現代工学社,143-172.
国分邦紀(2005):大雨により復活した台地の湧水・地下水についての水文学的考察,平成17年度東京都土木技術研究所年報,201-208.
大島正念・大槻卓也・小林綾(2015):住宅用鉄筋コンクリ―ト基礎の接地システムへの適用と接地抵抗値の季節変動,電気設備学会誌,35, 612-613.
領木邦浩(2019):不被圧地下水水位変化に伴う水害予測のための接地抵抗変化を用いた水位推定法の理論,技能科学研究,35, (投稿中).
角田清美(2017):武蔵野台地中央部の段丘地形と不圧地下水,駒澤地理,53, 35-53.