日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG41] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 302 (3F)

コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、座長:北 和之(茨城大学)、津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)

15:30 〜 15:45

[MAG41-07] 福島第一原子力発電所事故後の森林土壌中放射性セシウム深度分布の経年変化

★招待講演

*高橋 純子1日原 大智1佐々木 拓哉1恩田 裕一1 (1.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:福島第一原子力発電所事故、森林土壌、セシウム137、スクレーパープレート、テンションフリーライシメーター

日常的に人が立ち入らない森林については積極的な除染が行われないことから、森林環境中の放射性セシウムの長期的な動態予測と影響評価が求められている。とくに、福島の場合はチェルノブイリ事故の影響地域と比較して、リター層から鉱質土層への放射性セシウムの移行が早いことが示されつつあり、鉱質土層内での下方移行や挙動の把握が重要である。そこで、福島県川俣町山木屋地区(旧計画的避難区域)に位置する3つの森林(混交林、スギ壮齢林、スギ若齢林)において、2011年6月から土壌中の放射性セシウム濃度について詳細な深度分布モニタリングを実施した。リターおよび土壌は、スクレーパープレートを用いて0-5cmを0.5cm間隔、5-10cmを1cm間隔、10-20cmを5cm間隔で採取した。また、2017年からはテンションフリーライシメータにより定期的にリター浸透水および土壌浸透水を採取し、溶存態の形態で下方移行している放射性セシウム量の評価を試みた。得られた試料は乾燥・篩別、あるいはろ過後、ゲルマニウム半導体検出器でセシウム137を測定した。

スギ若齢林では、林床(リター層+土壌20cmまで)のセシウム137存在量は、樹冠からの二次的な沈着を反映して、時間とともに増加した。一方、混交林とスギ壮齢林では明確な傾向は認められなかった。林床のセシウム137存在量に占めるリター層中セシウム137存在量の割合については、いずれの地点でも時間に対して指数関数に減少する傾向を示した。リター層中のセシウム137濃度についても、若齢林を除いて時間とともに指数関数に減少する傾向が示され、いずれの地点でも、事故後2-3年の間にリター層中の濃度は土壌最表層(0-0.5cm)の濃度を下回った。スギ壮齢林では、2017年8月から1年間でリターから土壌へ降雨後の重力水により浸透したセシウム137は約0.60 kBq m-2であり、深度分布の変化から予想される下方移行の約7%を占めていた。同様に土壌5cm深、10cm深、20cm深を通過したセシウム137は1年間にそれぞれ0.12 kBq m-2, 0.011 kBq m-2, 0.015 kBq m-2であり、約3-6%が降雨後の浸透水とともに下方移行していたと推測された。セシウム137濃度、フラックスともに夏に高くなる傾向が認められ、浸透水中の溶存有機炭素も同様の傾向であったことから、リターや土壌有機物の分解に伴ってセシウム137が溶出し、下方浸透した可能性が示唆された。

鉱質土壌中のセシウム137濃度は、調査期間を通じて深くなるにつれて指数関数的に減少する分布となり、指数関数式でよく近似された。セシウム137濃度に対する緩衝深度は、スギ壮齢林とスギ若齢林では1年間に0.08 cmという一定の速度での増加が認められた。一方、混交林では、5cm以下のセシウム137存在量が明確に増加しているにも関わらず、緩衝深度の経時変化は認められなかった。