[MAG41-P05] 落葉広葉樹の有機物の分解度合の違いにおける溶存態放射性セシウムの挙動
キーワード:福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、落葉広葉樹、リター層
はじめに
東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質のうち、7割近くが森林に沈着した。現在も半減期の比較的長い放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)が環境中に残っている。また、これまでの長期観測から森林からの放射性セシウムの流出は、ほとんどないことが示されている[1]。 現在、森林が除染される予定はなく、森林内に放射性セシウムは長期的に残るものと考えられる。森林において事故後、放射性セシウムはリター層に多く存在したものの、数年で土壌層に移行した。それらは、放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物に強く吸着される性質を持つため、表層土壌にその多くが留まっている。しかしながら、現在も放射性セシウムが新葉においても含まれており、落葉として林床に供給されている。リター等の有機物には放射性セシウムが粘土鉱物のように強く吸着されないため生物に取り込まれやすい溶存態放射性セシウムとして溶出するものと考えられる。林床の有機物層は、その分解度合によって次のように分類される:Litter(L) 比較的新しくほとんど分解されていない、もとの形を保持している。Fermentation(F) 肉眼による観察で元の形がわかる程度に分解されている。Humus(H) 肉眼による観察で元の形がわからない程度分解されている。しかし、これらの有機物の分解度合の違いによる放射性セシウムの移行挙動の違いについてはこれまでほとんど報告がない。本報告では、落葉広葉樹の有機物の分解度合の違いにおける溶存態放射性セシウムの移行挙動について調査した結果について報告する。
材料および方法
使用したリターは、福島県内の落葉広葉樹林で採取した。2016年3月に集めた大きな枝を除いたリター(L)を、リターの分解を促進させるために容量160Lのコンポスターに入れ、蓋を開けたまま2016年10月まで林内に放置した。コンポスター内の腐葉土化した有機物の一部をさらに分解させるために、約10Lの容器中に腐葉土と腐葉土を餌とする甲虫の幼虫を入れ、2017年4月3日まで屋内で静置し肉眼による観察で元の形がわからない程度分解まで、腐葉土を分解させ腐植化した有機物(H)を得た。この際、腐葉土に甲虫を入れず静置した有機物をFとした。分解度合は、有機物の表面積を測定し確認した。それぞれ、分解度合の異なる有機物を風乾後に容量500mLの容器に約10gずつ分注し10倍量(約100mL)の純水を加えた。その後、ロータリーシェーカー(25℃、150rpm)で48時間旋回振盪した。溶液を集めた後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ過液は、容量100mLの容器(U8容器)に入れ溶存態放射性セシウムの濃度をGe半導体検出器で測定した。ろ過残渣は、105℃で乾燥した後粉砕し、U8容器に入れ放射能測定に供した。有機物からのCs-137溶出率は、有機物に含まれていたCs-137量に対する溶出したCs-137量の百分率とした。
結果
コンポスター内でリターを分解させた過程で、体積は約1/2に減少した。甲虫の幼虫による分解では、さらに体積が約1/2に減少した。リターの表面積も減少は、LからFに分解する際に約1/10になり、FからHでは約1/1000になった。甲虫の幼虫により腐葉土は、粉砕され分解が進み、葉の形が肉眼で観察できない程度にまで分解が進んだ。有機物の放射性セシウム濃度は、FからHの分解に伴って約6kBq/kg-乾燥重量から約8kBq/kg-乾燥重量に増加した。次に得られた分解度合の異なるリターからの溶存態放射性セシウムの溶出について調べた。分解度合の異なる有機物 L, F, Hから溶出してきた溶存態放射性セシウムの溶出率は、それぞれ14, 1.6, 0.5 %であり、Lが最も高く、分解が進んだF, HにおいてはLの溶出率の1/10程度になっていた。このことから、林床における有機物からの溶存態放射性セシウムの溶出においては、その分解段階により溶出しやすさが異なることが明らかになった。
[1]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.
東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質のうち、7割近くが森林に沈着した。現在も半減期の比較的長い放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)が環境中に残っている。また、これまでの長期観測から森林からの放射性セシウムの流出は、ほとんどないことが示されている[1]。 現在、森林が除染される予定はなく、森林内に放射性セシウムは長期的に残るものと考えられる。森林において事故後、放射性セシウムはリター層に多く存在したものの、数年で土壌層に移行した。それらは、放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物に強く吸着される性質を持つため、表層土壌にその多くが留まっている。しかしながら、現在も放射性セシウムが新葉においても含まれており、落葉として林床に供給されている。リター等の有機物には放射性セシウムが粘土鉱物のように強く吸着されないため生物に取り込まれやすい溶存態放射性セシウムとして溶出するものと考えられる。林床の有機物層は、その分解度合によって次のように分類される:Litter(L) 比較的新しくほとんど分解されていない、もとの形を保持している。Fermentation(F) 肉眼による観察で元の形がわかる程度に分解されている。Humus(H) 肉眼による観察で元の形がわからない程度分解されている。しかし、これらの有機物の分解度合の違いによる放射性セシウムの移行挙動の違いについてはこれまでほとんど報告がない。本報告では、落葉広葉樹の有機物の分解度合の違いにおける溶存態放射性セシウムの移行挙動について調査した結果について報告する。
材料および方法
使用したリターは、福島県内の落葉広葉樹林で採取した。2016年3月に集めた大きな枝を除いたリター(L)を、リターの分解を促進させるために容量160Lのコンポスターに入れ、蓋を開けたまま2016年10月まで林内に放置した。コンポスター内の腐葉土化した有機物の一部をさらに分解させるために、約10Lの容器中に腐葉土と腐葉土を餌とする甲虫の幼虫を入れ、2017年4月3日まで屋内で静置し肉眼による観察で元の形がわからない程度分解まで、腐葉土を分解させ腐植化した有機物(H)を得た。この際、腐葉土に甲虫を入れず静置した有機物をFとした。分解度合は、有機物の表面積を測定し確認した。それぞれ、分解度合の異なる有機物を風乾後に容量500mLの容器に約10gずつ分注し10倍量(約100mL)の純水を加えた。その後、ロータリーシェーカー(25℃、150rpm)で48時間旋回振盪した。溶液を集めた後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ過液は、容量100mLの容器(U8容器)に入れ溶存態放射性セシウムの濃度をGe半導体検出器で測定した。ろ過残渣は、105℃で乾燥した後粉砕し、U8容器に入れ放射能測定に供した。有機物からのCs-137溶出率は、有機物に含まれていたCs-137量に対する溶出したCs-137量の百分率とした。
結果
コンポスター内でリターを分解させた過程で、体積は約1/2に減少した。甲虫の幼虫による分解では、さらに体積が約1/2に減少した。リターの表面積も減少は、LからFに分解する際に約1/10になり、FからHでは約1/1000になった。甲虫の幼虫により腐葉土は、粉砕され分解が進み、葉の形が肉眼で観察できない程度にまで分解が進んだ。有機物の放射性セシウム濃度は、FからHの分解に伴って約6kBq/kg-乾燥重量から約8kBq/kg-乾燥重量に増加した。次に得られた分解度合の異なるリターからの溶存態放射性セシウムの溶出について調べた。分解度合の異なる有機物 L, F, Hから溶出してきた溶存態放射性セシウムの溶出率は、それぞれ14, 1.6, 0.5 %であり、Lが最も高く、分解が進んだF, HにおいてはLの溶出率の1/10程度になっていた。このことから、林床における有機物からの溶存態放射性セシウムの溶出においては、その分解段階により溶出しやすさが異なることが明らかになった。
[1]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.