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[MGI33-05] 統合的多変量解析に基づく北西太平洋深海堆積物の地球化学データ解析
キーワード:深海堆積物、多変量解析、独立成分分析、クラスター分析、レアアース泥、全岩化学組成
近年,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (exclusive economic zone, EEZ) 内において,レアアースを非常に高濃度で含む深海堆積物が発見された [1].この「超高濃度レアアース泥」の分布把握を目的として,2013年から2018年にかけて計8回に渡る調査航海 (KR13-02, MR13-E02, KR14-02, MR14-E02, MR15-E01 Leg2, MR15-02, MR16-07, KM17-14C) が実施され,総計71本の堆積物コア試料が採取された.発表者らは,蛍光X線分析及び誘導結合プラズマ質量分析を用いて,計1,646試料の主成分・微量元素組成から成る包括的なデータセットを構築した [1-8].
本研究では,超高濃度レアアース泥を含む南鳥島EEZ内外の深海堆積物の地球化学的特徴を明らかにするために,当該海域の深海堆積物の膨大な全岩化学組成データセット (1,646試料 x 41元素) に対し,クラスター分析と独立成分分析を組み合わせた統合的な多変量解析手法 [9] を適用した.解析結果を実空間座標と組み合わせて見ると,得られたデータクラスターは堆積層内においてランダムに分布しているのではなく,海底面から深部に向かって,ある特定の順序を持って系統的に並んでいることが示された.すなわち,各データクラスターは,多元素の化学組成によって定義される堆積層序ユニットを構成していることが分かった.さらに,抽出された独立成分について,各コアにおける深度方向変化に着目すると,ある成分の得点値が超高濃度レアアース泥層を境にstepwiseな変化を示すことが分かった.これは,数百kmスケールに及ぶ研究対象海域内において普遍的な特徴である.また,この独立成分の変化層準の直下に位置するデータクラスターは,コアによりまちまちであることが分かった.このことは,上述の超高濃度レアアース泥層をまたぐ独立成分の変化が,堆積層内の不整合に相当し,恐らくは下位層準がコア毎に異なる度合いで浸食されていることを示唆している [5, 6].大規模・高次元データから抽出された地球化学的データクラスター及び独立成分の空間分布が示すこれら一連の特徴は,先行研究 [10] により提案された以下の仮説を支持している.すなわち,強い底層流が生じたことにより,堆積粒子のうち細粒な粒子は吹き流され,粗粒で密度の大きい生物源リン酸カルシウム粒子 (魚類の歯や骨片等) が海底面付近に取り残された.この生物源リン酸カルシウム粒子は,周囲の海水からレアアースを非常に高濃度になるまで濃集する.こうした物理的な選別作用による生物源リン酸カルシウム粒子の選択的堆積が,堆積層内におけるレアアースの異常濃集に寄与した可能性がある.
[1] Iijima, K. et al., Geochemical Journal 50, 557-573 (2016). [2] Fujinaga, K. et al., Geochemical Journal 50, 575-590 (2016). [3] Takaya, Y. et al. Scientific Reports 8, 5763 (2018). [4] Yasukawa, K. et al., Ore Geology Reviews 102, 260-267 (2018). [5] Yasukawa, K. et al., under review. [6] Tanaka, E. et al., under review. [7] Fujinaga, K. et al., JpGU2018 SCG61-04. [8] Fujinaga, K. et al., JpGU2019. [9] Iwamori, H. et al., Geochemistry, Geophysics, Geosystems 18, 994-1012 (2017). [10] Ohta, J. et al., Geochemical Journal 50, 591-603 (2016).
本研究では,超高濃度レアアース泥を含む南鳥島EEZ内外の深海堆積物の地球化学的特徴を明らかにするために,当該海域の深海堆積物の膨大な全岩化学組成データセット (1,646試料 x 41元素) に対し,クラスター分析と独立成分分析を組み合わせた統合的な多変量解析手法 [9] を適用した.解析結果を実空間座標と組み合わせて見ると,得られたデータクラスターは堆積層内においてランダムに分布しているのではなく,海底面から深部に向かって,ある特定の順序を持って系統的に並んでいることが示された.すなわち,各データクラスターは,多元素の化学組成によって定義される堆積層序ユニットを構成していることが分かった.さらに,抽出された独立成分について,各コアにおける深度方向変化に着目すると,ある成分の得点値が超高濃度レアアース泥層を境にstepwiseな変化を示すことが分かった.これは,数百kmスケールに及ぶ研究対象海域内において普遍的な特徴である.また,この独立成分の変化層準の直下に位置するデータクラスターは,コアによりまちまちであることが分かった.このことは,上述の超高濃度レアアース泥層をまたぐ独立成分の変化が,堆積層内の不整合に相当し,恐らくは下位層準がコア毎に異なる度合いで浸食されていることを示唆している [5, 6].大規模・高次元データから抽出された地球化学的データクラスター及び独立成分の空間分布が示すこれら一連の特徴は,先行研究 [10] により提案された以下の仮説を支持している.すなわち,強い底層流が生じたことにより,堆積粒子のうち細粒な粒子は吹き流され,粗粒で密度の大きい生物源リン酸カルシウム粒子 (魚類の歯や骨片等) が海底面付近に取り残された.この生物源リン酸カルシウム粒子は,周囲の海水からレアアースを非常に高濃度になるまで濃集する.こうした物理的な選別作用による生物源リン酸カルシウム粒子の選択的堆積が,堆積層内におけるレアアースの異常濃集に寄与した可能性がある.
[1] Iijima, K. et al., Geochemical Journal 50, 557-573 (2016). [2] Fujinaga, K. et al., Geochemical Journal 50, 575-590 (2016). [3] Takaya, Y. et al. Scientific Reports 8, 5763 (2018). [4] Yasukawa, K. et al., Ore Geology Reviews 102, 260-267 (2018). [5] Yasukawa, K. et al., under review. [6] Tanaka, E. et al., under review. [7] Fujinaga, K. et al., JpGU2018 SCG61-04. [8] Fujinaga, K. et al., JpGU2019. [9] Iwamori, H. et al., Geochemistry, Geophysics, Geosystems 18, 994-1012 (2017). [10] Ohta, J. et al., Geochemical Journal 50, 591-603 (2016).