日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI35] 計算科学による惑星形成・進化・環境変動研究の新展開

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 301B (3F)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、小河 正基(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、井田 茂(東京工業大学地球生命研究所)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、座長:樫村 博基

14:00 〜 14:15

[MGI35-02] 全球非静力学火星大気大循環モデルの開発と高解像度計算

*樫村 博基1八代 尚2西澤 誠也2富田 浩文2中島 健介3石渡 正樹4高橋 芳幸1林 祥介1 (1.神戸大学/惑星科学研究センター、2.理化学研究所計算科学研究センター、3.九州大学、4.北海道大学)

キーワード:火星、大気、全球、非静力学、高解像度シミュレーション、モデル開発

地球大気の運動は数メートル規模から惑星規模に至るまで幅広く、様々な規模の現象が相互作用している。このことが、より高解像度の大気シミュレーションが求められる理由の1つである。こうした状況は、火星をはじめとした他の惑星でも同様なはずである。火星では数十から数百メートル規模のダストデビル(塵旋風)から、数十キロメートル規模のローカルダストストーム、全球を覆うグローバルダストストームまで、大小様々な規模の砂嵐が観測されているが、これらのスケール間の相互作用は未解明である。また火星は大気が薄く海がないため、昼夜間の寒暖差が大きく、鉛直対流が卓越すると考えられるが、全球規模の大気大循環に対するその役割は解明されていない。これらの謎に挑むためには、水平数キロメートル解像度の高解像度全球大気計算が求められる。また鉛直対流を陽に表現するために、非静力学の方程式系で計算する必要がある。

そこで我々は、大型計算機「京」の後継機、ポスト「京」での火星高解像度計算の実現を目指し、全球非静力学火星大気モデル (火星版SCALE-GM) を開発している。SCALE-GM (http://scale.aics.riken.jp/) は、正二十面体準一様格子法 (Tomita et al., 2001, 2002) による地球大気の全球非静力学モデルNICAM (Tomita & Satoh, 2005; Satoh et al., 2008; Satoh et al., 2014) の力学コアを基に、領域モデル (SCALE-RM) との物理過程モジュールの共通化や他の惑星大気計算など、より幅広い応用を目指して開発が進められている大気大循環モデルである。我々はSCALE-GMに、火星大気用の定数や放射・地表面過程などの物理モジュールを組み込んだ火星版SCALE-GMを開発している。開発は、既存の汎惑星大気大循環モデルDCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) の火星物理モジュールを移植する形で進めている。なおDCPAMは静力学平衡を仮定した方程式系をスペクトル法で解く、伝統的な全球大気モデルである。

本研究ではまず、DCPAM物理モジュールのうち、火星大気放射モデル (Forget et al., 1999) と土壌モデルを移植し、テスト計算として鉛直1次元大気と土壌の温度変化を確認した。大気は鉛直100層 (Δz = 1 km)、ダストは光学的厚さ0.2の固定分布とし、土壌は18層、熱容量 9.7×105 [J K−1 kg−1]、熱伝導率0.076 [W m–1 K–1] とした。地表アルベドは0.2とし、地表面フラックスはBH91B95 (Beljaars & Holstang, 1991; Beljaars, 1995)、鉛直拡散はMY2.5 (Mellor & Yamada, 1982) で計算した。初期値は200 Kの等温静止大気・土壌とし、SCALE-GMとDCPAMで同様の時間発展が計算されることを確認した。

次に、火星的設定下における高解像度3次元計算のテストと解像度依存性の確認を兼ねて、水平解像度の異なる以下の7ケースの計算を実施した。水平格子間隔は、240×(1/2)n [km] (n = 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6; 以下同じ) であり、最小時は3.75 kmである。サブグリッドスケールの乱流拡散を表す水平渦拡散は3次のラプラシアンで与え、その最小スケールに対する緩和時間は、100×(1/2)n [s] とした。大気の鉛直層数は36とし、地表付近ほど層間隔が狭くなるように配置した。モデル上端での波の反射を防ぐため、高度 40 kmより上空に1次のラプラシアンで擾乱を潰すスポンジ層を設置した。その最小スケールに対する緩和時間は 3600×(1/4)n [s] とした。ただし計算の都合上Δx = 3.75 kmのときは、3 sとした。時間積分には4段4次のルンゲクッタ法を用い、時間刻み幅 360×(1/2)n [s] で計算した。地表アルベドは0.5とした。地形および凝結過程は導入していない。

計算の結果、水平格子間隔が30 km以上の場合、日周期加熱に伴う鉛直対流は明瞭には現れなかったが、15 km以下の場合には、鉛直対流が表現された。また、鉛直対流の規模・発生時刻は、今回計算した範囲では解像度に制約されていることが確認された。

(図:高度2 kmの鉛直流の解像度依存性.北半球春分から30日後の瞬間場)