14:15 〜 14:30
[MIS06-03] 多分野統合共同調査から地域づくりへ展開させる地下文化財「田谷の洞窟」保存活動の実践的試行
★招待講演
キーワード:文化財保存、地下文化財、多分野共同調査、地域連携、小大連携、田谷の洞窟
1.はじめに
横浜市栄区田谷町にある真言宗定泉寺の境内の山中に「田谷の洞窟」と呼ばれる全長570mの地下文化財がある。この洞窟は、真言宗の修行洞窟であり、横浜市登録地域文化財である。約800年前の鎌倉時代にその起源があるとされ、三層構造の人工の素掘りのトンネルである。その内部には、300を超える美しい浮彫のレリーフが施されている。近年、この「田谷の洞窟」は、劣化風化による損傷が激しい。この地下文化財の3Dデジタルデータ保存を目的とした、多分野統合による基礎調査を実践的に進めている。これまでの実践的な試行からその効果と課題等を明らかにする。
2.背景
日本は口減少問題と直面する時代に入った。人間活動空間は「都市」と「農村」に大別され二項対立的に考え易いが、これらの中間に「都市近郊農村」と呼べる人間活動空間が存在している事を忘れてはならない。「都市近郊農村」は、「都市と農村の両問題」を抱え、多層的で実践的な「自立的地域力」の獲得が急務となる。本洞窟のある田谷町はまさに「都市近郊農村」であり、このような地下文化財が存在する事は、非常に強い地域力(良好なコンテンツ)の一つと言える。洞窟の未来を思考する事は、地域の在り方を思考する事と充分な相関関係があると言える。洞窟との地域共生の為に、実践的な試行を同時多層的に進め、多分野の専門家の異種交流議論を通し、都市近郊農村の新たな地域力(展望)を探る必要があると考えた。
3.多分野統合型の共同基礎調査の実践
多分野統合基礎調査は、「地盤・石造の劣化等の基礎調査(埼玉大学小口千明)」、「地理・地形・空間把握調査(北海道大学早川裕弌と東京大学小倉拓郎)」及び「文化財基礎調査(鶴見大学緒方啓介)」と共同基礎調査を実施し、地下文化財と都市近郊農村の地域共生に関する「地域資質調査(横浜国立大学守田)」を実施し、合計4分野の5大学研究機関と共同して実施している。
4.地域づくりへの展開(地域連携の実践)
近隣の公立小学校と大学が連携した「小大連携プロジェクト」として、小学6年生の地域学習の授業において、洞窟保存活動と研究者による専門的な授業を実施し、卒業制作を兼ねた洞窟保全検討に必要な巨大模型の製作による教育との連携による人づくりを実践している。また、地域イベントや報告会を通し地域啓蒙・アウトプットを実践している。大学研究者と地域社会が直接つながる場の提供による相乗効果を期待した試行を進めている。
5.効果と課題
これまでの多分野統合調査の様々な活動により、田谷の洞窟に対する地域の見方や感心に変化が生じ始めた。小学校の教育現場との連携が大人に広がり始め、地域社会に望ましい変化がみられる。一方で、課題も挙げられる。第一に「地域と研究者との相互理解の向上」、第二に「地域の人的資源の確保」、第三に「面的な広がりを持つ啓蒙手法の確立」、第四に「多言語対応」、そして第五に「資金調達」である。
6.おわりに
これまでの多分野統合調査により、周辺環境と地下文化財保全が密接な関係である事が判明し、地下文化財保全の為に里山や農村風景の保全が重要である事が判った。今日的な研究が直接地域社会に貢献できることが実践された。一方、地域は地下文化財の希少性と重要性を再認識し始めており、各種メディアでも本活動が取り上げられる機会が増えた。これまでの試行により、今後も継続的に展開させていく必要性を確認できた。
横浜市栄区田谷町にある真言宗定泉寺の境内の山中に「田谷の洞窟」と呼ばれる全長570mの地下文化財がある。この洞窟は、真言宗の修行洞窟であり、横浜市登録地域文化財である。約800年前の鎌倉時代にその起源があるとされ、三層構造の人工の素掘りのトンネルである。その内部には、300を超える美しい浮彫のレリーフが施されている。近年、この「田谷の洞窟」は、劣化風化による損傷が激しい。この地下文化財の3Dデジタルデータ保存を目的とした、多分野統合による基礎調査を実践的に進めている。これまでの実践的な試行からその効果と課題等を明らかにする。
2.背景
日本は口減少問題と直面する時代に入った。人間活動空間は「都市」と「農村」に大別され二項対立的に考え易いが、これらの中間に「都市近郊農村」と呼べる人間活動空間が存在している事を忘れてはならない。「都市近郊農村」は、「都市と農村の両問題」を抱え、多層的で実践的な「自立的地域力」の獲得が急務となる。本洞窟のある田谷町はまさに「都市近郊農村」であり、このような地下文化財が存在する事は、非常に強い地域力(良好なコンテンツ)の一つと言える。洞窟の未来を思考する事は、地域の在り方を思考する事と充分な相関関係があると言える。洞窟との地域共生の為に、実践的な試行を同時多層的に進め、多分野の専門家の異種交流議論を通し、都市近郊農村の新たな地域力(展望)を探る必要があると考えた。
3.多分野統合型の共同基礎調査の実践
多分野統合基礎調査は、「地盤・石造の劣化等の基礎調査(埼玉大学小口千明)」、「地理・地形・空間把握調査(北海道大学早川裕弌と東京大学小倉拓郎)」及び「文化財基礎調査(鶴見大学緒方啓介)」と共同基礎調査を実施し、地下文化財と都市近郊農村の地域共生に関する「地域資質調査(横浜国立大学守田)」を実施し、合計4分野の5大学研究機関と共同して実施している。
4.地域づくりへの展開(地域連携の実践)
近隣の公立小学校と大学が連携した「小大連携プロジェクト」として、小学6年生の地域学習の授業において、洞窟保存活動と研究者による専門的な授業を実施し、卒業制作を兼ねた洞窟保全検討に必要な巨大模型の製作による教育との連携による人づくりを実践している。また、地域イベントや報告会を通し地域啓蒙・アウトプットを実践している。大学研究者と地域社会が直接つながる場の提供による相乗効果を期待した試行を進めている。
5.効果と課題
これまでの多分野統合調査の様々な活動により、田谷の洞窟に対する地域の見方や感心に変化が生じ始めた。小学校の教育現場との連携が大人に広がり始め、地域社会に望ましい変化がみられる。一方で、課題も挙げられる。第一に「地域と研究者との相互理解の向上」、第二に「地域の人的資源の確保」、第三に「面的な広がりを持つ啓蒙手法の確立」、第四に「多言語対応」、そして第五に「資金調達」である。
6.おわりに
これまでの多分野統合調査により、周辺環境と地下文化財保全が密接な関係である事が判明し、地下文化財保全の為に里山や農村風景の保全が重要である事が判った。今日的な研究が直接地域社会に貢献できることが実践された。一方、地域は地下文化財の希少性と重要性を再認識し始めており、各種メディアでも本活動が取り上げられる機会が増えた。これまでの試行により、今後も継続的に展開させていく必要性を確認できた。